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この村の600年の掟 「新・必殺仕置人」第4話

上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展。
テレビ東京の「美の巨人立ち」ではその中の一枚、「レディ・ジェーン・グレイの処刑」を取り上げました。
ここで私は不謹慎にも、「新・仕置人」の4話「暴徒無用」を思い出しました。

嫌ですねー、「必殺」頭。
「新・仕置人」の4話「暴徒無用」。
これを見ると、ラストで本当の悪は、何百年も続く「掟」なのではないかと思うんです。
誰のための、何のための、掟か。

一体、誰を幸せにするための掟なのか。
そういうことはもう、関係なく、ただ「掟」だと言って従う。
本当の悪は、本当に怖いのはそこではないか。


第4話、「暴徒無用」。


宿場が並ぶ街。
おていがカモを見つけようとしている。
正八が2人連れに客引きを装って、近づく。
おていがそれに張り合うようにして、近づく。

戸惑った2人連れから正八があきらめたように、離れる。
おていもまた、離れる。
2人連れからおていがすった金は、物陰に隠れて正八が数えると13両もあった。
これを全部、おていに渡しちゃいけないとつぶやくと、おていがやってきた。

正八がはり飛ばされる。
「何だ、これ」。
「紙」。

鉄の前に、小判が並べられた。
先ほど、おていと正八がすった金だった。
「これで当分、遊べる」と鉄が言う。
「そうでしょうかね」。

「胴巻きの中に、妙なものが入ってんのよ」。
それは「介書」と書かれた紙だった。
中には「武州影沢村」という字があった。

続いて「重右衛門、和助」。
「虎殿」。
「虎ぁ?」
鉄が素っ頓狂な声を上げた。

「そう、虎」。
すっと、戸が開く。
死神がいる。

「金、返してもらおう」と死神は言った。
「頼み人の金、すってはいけない。返してもらおう」。
そう言って、死神が入って来る。
おていと正八が飛びのく。

死神が正八に向かって、手を伸ばす。
正八が隠していた1両を死神の手に乗せる。
1両、正八がこっそりくすねていたのだ。

だが死神は騙せなかった。
おていが正八をどつく。
死神は出て行く。

寅の会。
「それではこれより挙句を頂戴いたしまして、本日の興行を終りたいと存じます」。
「玉野山。山霞なる筧伊右衛門」。
「虎。万筆」。

「このたびの頼み料は、13両でございます」。
「青梅の奥の、そのまた奥でございます」。
それを聞いた仕置人たちは口々に「旅籠代も出やしない」と言った。

だが「12両」と声がかかった。
これで決まりかと思われた時、鉄の「6両」の声が響いた。
周りがギョッとし、非難の目で鉄を見る。
「ではこの命、6両にて落札」。

寅の会が終わり、引き揚げる時だった。
「念仏さん」。
女の仕置人が鉄を呼び止めた。
「あんた、一体どういうつもりなの」。

他の仕置人たちが、鉄を取り囲む。
「仕置には仕置料の相場ってものがある。そうだろう」。
鉄はグキ、グキと首をかしげた。
「俺は一カ月殺ししないと、世の中、霞がかかったみたいになっちまう」。

そう言うと鉄は、グキグキと首を鳴らす。
「死神見てるぞ」。
鉄は庭の方を指さす。
その方向を見た仕置人たちは、グッと言葉を飲み込んで散って行く。

「だったら念仏、11両で落とすことだってできたんじゃねえのか」。
主水が地下室で、鉄に言う。
「たまには虎だって、自分の懐から出して上乗せすりゃいいんだ」。

「場所は多摩の山奥。絵図にも載ってねえ。大菩薩のもっと奥じゃねえのかな」。
仕置の場所は、相当な山奥だと言うことだ。
「ああそりゃ人さん、サル七だな」と主水が言う。

巳代松が「何だそりゃ」と聞く。
「人間様が3人に、サルが7匹。人間よりサルの方がでけえ面してるって山奥だ」。
主水の言葉に巳代松が「おめえ、人の仕事に水差してうれしいか」と文句を言う。

「そうじゃねえよ。俺はけえるよ」。
鉄が主水に「降りるの?降りるんだな」と確認を取る。
「そうか、今度の仕事は久しぶりに俺一人か」。

うれしそうな鉄。
すると主水は「そうか、今年に入ってから奉行所休みを取ってなかったな」と言い始める。
「ああ、休むな休むな!仕事は大事だ!」

峠の茶屋で、正八は茶屋のオヤジに聞いていた。
「霞村から影沢通って、峠を抜けようと思ってるんだ」。
「霞村?およしなせえ、その道は」。
「何で?」

「わけは言えねえが、とにかくその道はよした方が良い!」
少し回り道だが、悪いことはいわないから本道を行けとオヤジは言う。
正八が「霞村には、伊右衛門という山持ちがいるんだろう?」と聞くとオヤジは「知らねえ!」と言った。
「食ったらさっさと行ってくれ!」

するとそこに、正八が江戸で見た2人連れが引き立てられていく。
オヤジが「見ただろう?」と言う。
ここではお役人の力も伊右衛門に、及ばない。
山の中では、伊右衛門の力が全てなのだ。

だが正八は、伊右衛門の手下たちに、江戸で発禁になったという絵草子を見せて取り入る。
絵草子に夢中になっている手下たちを、用心棒が呼びに来た。
江戸に来た2人がわざと、解放された。

逃がしたところで、伊右衛門が塀の上から銃でねらい撃ちをする。
和助と言う若い方が倒れた。
「和助!」

重右衛門が怒って、方向を変え、伊右衛門に向かって走って来る。
そこを伊右衛門が再び、ねらい撃ちをする。
「お見事」。

「銃に錆が浮いている。手入れが悪い」。
人を撃ったことなど、何とも思わず伊右衛門は銃の心配をしていた。
確かに、ここは伊右衛門の天下らしい。

その夜、おていが口笛で主水を呼び出した。
すぐに来てくれと言う。
頼み人が殺された。
重右衛門と和助のことだ。

グズグズしていたら、仕置は取り下げになってしまうからだ。
頼み人が伊右衛門に捕まったのは、天下の往来を伊右衛門が塞いでいるからだ。
そんなことができるのか、と主水は言うが、正八は山の中では伊右衛門が法だと言う。

頼み人が死んだら、仕置は取り下げだが鉄は、本当の頼み人は影沢村全員だと言う。
影沢村の連中と伊右衛門の間に、何があったのか。
それが知りたい。
鉄はそのためには主水の、南町奉行所の仕事がほしいと言う。

主水は「俺はいかねえぞ。この仕事は降りる」と断った。
だが主水は結局は甲府出張を装い、行くことにする。
せんは主水の甲府出張を、同僚が知らなかったと言って責めに来た。
だが主水はこれは、重大な極秘任務だと言った。

そうして主水は、仕置に出かけることに成功する。
正八が休んだ茶店にも、主水は自前のおにぎりを食べて寄らずに行く。
杉屋という旅籠には、一足早く鉄と己代松が来ていた。

鉄はあんま、己代松はその身の回りの世話をする男として来ている。
囲炉裏端で一緒になった主水に鉄は、「あんた、どこまで行くのかね」と聞いた。
「私は甲府だ」。
「あんた、お侍さんかね」。

「奉行所のお役人様だ。失礼なことをするんじゃねえぞ」。
「お役人様か。もましてもらえないかね」。
「あんまはいらん」。
「ま、ま、そう言わず」。

鉄は目が見えないふりをして、主水に近づいた。
そして耳元でささやく。
「この宿も伊右衛門の息がかかってる。気をつけろ」。

「明日はどうする?」
「水沢に宿をとる」。
すると鉄は今度は大声で「お役人さん、甲府にはどの道を行きなさるかね」と聞いた。
「影沢へ出て、塩山へ抜ける。それが一番の近道だ」。

「そうかね、近道があるかね」。
「奉行所のお役人様が一緒なら、山賊も出るめえからよ」と己代松が言う。
「ちげえねえや」。
鉄は笑った。

主水が風呂に入っていると、外で気配がする。
壁から槍が突き出てきた。
槍を抑えると主水は、外に出る。
誰もいない。

宿のオヤジが、湯加減を聞きに来た。
「湯加減は上々だ」。
「どうぞ、ごゆっくり」。

鉄と己代松が街道を歩いていると、バラバラと男たちがやってきた。
この道は通れないと男たちは言う。
主水が、やってくる。
すると男たちは態度を変え、がけ崩れがあって、通れないのだと言い訳をした。

「ならばなおさら、代官所に報告しなければ」と言って主水は通る。
慌てる男たちに用心棒は、影沢に入っても構わないと言った。
二度と、外に出さなければいいだけだ。

鉄、主水、己代松が山の上から見下ろす影沢村。
ここまで来たと、鉄と主水、己代松に笑みが浮かぶ。
道端に年寄りが、座っている。

「じいさん、影沢ってのはこの辺りかい?」
だが老人は答えない。
老人はそのまま、崩れ落ちるように倒れた。

死んでいる。
飢え死にだ。
主水は庄屋の宗兵エの家を訪ねた。

霞村から来たのか?と庄屋は聞いた。
途中、道を邪魔されたと言うと、「ようおいでなすったなあ…」と庄屋は感心した。
「泊めてあげたいのはやまやまだが、この村には米粒が一粒もない」。

「何?」
「米粒どころか稗も粟も、人の口に入るものは木の皮も草の根まで食い尽くした」。
「犬一匹おらん。犬も猫も食い尽くしたんじゃ」。
「去年は30年ぶりの飢饉じゃった」。

宗兵エは語り始めた。
「真夏に霜が降り、秋口にはもう、雪がちらついた」。
「山の田んぼには、一粒もコメが実らんかった」。

「村中の食い物は、冬が来るまでに底をついてしまった」。
「それでも下の村から稗や粟を買えれば、まだ良かった」。
「今じゃ、この影沢の村に食い物を売ってくれる者は、ひとりもおらん」。
「助けを求めに、山を下りた者も一人として帰っては来ん」。

「みんな、霞の伊右衛門のおかげじゃ」。
後ろに並んだ村人たちが、うなづく。
「ちょいとお尋ねしますがね」と鉄が言う。
「何だってまたその、伊右衛門とか言う旦那の恨みを買ったんです」。

「そのわけは女じゃ」。
「女?」
「この村のある女を、妾に差し出せと言って来た。それを断ったがために伊右衛門の怒りを買った」。
「たった一人の男のために、この影沢の村は死に絶えようとしている。怖ろしいことだ」。

夜、鉄と主水と巳代松は並んで寝ていた。
主水が、干飯を出した。
こんなこともあろうかと、用意してきたものだ。
むくりと鉄が起き上がる。

「どうした」。
「飯の匂いだ」。
鉄の鼻は、ヒクヒクと動いていた。
「どっかで飯炊いてる」。

「おうおうおう、寝ぼけんじゃねえよ」。
部屋の外に出る鉄に、己代松は言った。
だが暗い、誰もいない台所では確かに飯が炊かれていた。

飯が盛られ、膳が用意されていた。
女性はその膳を持って、外に出て行く。
神社の鳥居をくぐり、中に入る。

鉄は後をついていく。
女性が膳を差し出し、頭を下げる。
その女性の向かい側。
1人の美しい女が前に進み出て、手を合わせる。

そして膳に、手を付け始める。
鉄はそれを格子越しに見ている。
息をのむほど、美しい。
じっと見つめていた鉄が気配に振り向くと、宗兵エが鉄を見ていた。

「お前さん、目が見えるのか」。
鉄は、にやりと笑った。
「こりゃどういうわけだ。何であの女だけ、飯が食えるんだ」。
娘の、美しい横顔が見える。

宗兵エが主水に語る。
「わしらは平家の落人の末じゃ。今から600年の昔、わしらの祖先がこの山中に流れ着い落ちてこの村を作った」。
巻物がするすると解かれ、畳を張って行く。

その巻物には、延々と平家の名が続く。
「山の中では、30年から50年起きに必ず怖ろしい飢饉に襲われる」。
「その時村の命をつないできたのは、女たちじゃ」。
「影沢の女は美しい」。

「平家の血筋を引いて、都の女にも負けない美しい女が生まれる」。
「その女たちの中からとりわけ美しい女を一人だけ選んで、飢饉の時、村の命を救うため、高く売るんじゃ」。
「遠からず、都より人買いが来る。その人買いにあの女は売られていく」。

「この村はそうやって600年の間、生き延びてきたんじゃ」。
「この山の中ではそうするより他に、生きる道はなかった」。
「美しい影沢の女を売るより、他には…」。

外から蹄の音がする。
馬に女が乗せられていた。
「娘を奪われました」と、先ほど膳を運んだ女が飛び込んできた。

「伊右衛門の一味か!」
「はい」。
「おのれ、影沢の者が死に絶えようともこの恨み晴らすのじゃ」。

主水は黙って見ていた。
松明が焚かれれ、村人が集まってくる。
「良いか!娘は影沢の命じゃ。平家の血筋の誇りじゃ!取り戻せ!」

村人が伊右衛門のところに行こうとする。
だが主水が止める。
「待った、待った。待ちなされ!」

朝になった。
鉄が巳代松に手を引かれ、街道を行く。
「てめえら舞い戻りやがったな!」

行きに道行きを止めた伊右衛門の手下2人が、飛んでくる。
「影沢に泊まろうと思ったんですが、米っつぶひとつもねえってんで腹減っちゃって。なあ?」と己代松が言う。
鉄も言う。

「ったく世の中には、悪い奴がいるもんですねえ」。
「ひとりの女欲しさに村中を日干しにしようってんだから、ひどい話じゃありませんか」。
「私ら代官所に訴えてやろうと思うんですよ、その霞村の伊右衛門とか言う男をね」。

鉄の言葉に、男たちは笑い出した。
「ところが、そうはいかねえのよ」。
「俺たちは伊右衛門の手下だ」。

そう言うと、鉄たちを連れていこうとする。
「旦那、旦那、ご勘弁を」。
そう言いながら鉄は、男たちの骨を外した。

2人の男は足をひねられ、満足に立つこともできなくなった。
「山間の湯にでも浸かって、ゆっくり湯治しな!」
巳代松はそう言うと、鉄と一緒にかけて行った。

伊右衛門の屋敷の塀に、たどり着く。
頼み人を狙い撃ちした塀だ。
中に入ると巳代松は、顔に炭を塗り始めた。

火縄をぐるぐると、手に巻き付ける。
手袋をする。
屋敷の中では、伊右衛門の寝室の戸が開いた。
連れてこられた女が、美しい桃色の着物を着せられて座っていた。

伊右衛門が入って来る。
「美しい…影沢の女は美しい。わしはお前が欲しかった」。
「影沢でお前を一目見た時から、わしの目は狂った」。

「世の中のすべての女がうとましい。大勢いた屋敷中の女も追い払ってしまった」。
だからなのか、広い屋敷の中は殺風景でガランとしていた。
「お前さえいてくれれば、霞の伊右衛門は滅んでも良いのだ」。

伊右衛門は女の手を取り、連れていく。
「何と美しい」。
女は歌い始めた。
童女のような声だった。

「あーそーびーをせむとや、うーまーれーけーむ」。
女の目は何も見ていない。
目の前の伊右衛門も見ていない。

伊右衛門は、そっと、女の着物を下げていく。
美しい肌が、あらわになった。
それでも女は微動だにしない。
ハッと、伊右衛門が外に目をむける。

廊下を、巳代松が走る。
身をかがめ、辺りを見回して立ち上がる。
向こうに、用心棒の姿が見える。

火縄に手をやりながらどん!と廊下に上がり、足踏みをする。
用心棒がその音に気付き、こちらを見た。
巳代松は素早く、部屋に走った。

一方、伊右衛門は気配に戸を開けた。
そこには、鉄がいた。
「誰だ貴様は」。
「江戸から参りました、あんまでございます」。

「用はない失せろ」。
伊右衛門は鉄の頭を、乱暴に押した。
戸を閉める。

その戸がまた、開く。
「まあまあ、そうおっしゃらずに。せっかく江戸から、遠路はるばる参ったのでございますから」。
「たっぷりと心行くまで、もませていただきます」。
鉄が自分の手を撫でる。

巳代松は部屋から部屋へ、走っていた。
一つの部屋に潜むと、外に男の影が映った。
「四間…」。
用心棒が、近づいて来る。

「三間半」。
「三間」。
「まだまだ」。

「ようし」。
「二間半」。
「二間!」

飛び出した巳代松は、竹鉄砲をむける。
用心棒がギョッとする。
竹鉄砲が火を噴く。
用心棒が倒れた。

伊右衛門の部屋では、鉄が人差し指と中指を立てていた。
「失せろと言うに!」
去らない鉄に伊右衛門が腹を立てて、鉄を蹴ろうとした。
鉄はその足を持ち上げた。

伊右衛門を組み伏せる。
「うおっ」と伊右衛門が声を出す。
「ちょっと」。
「ちょっと、つかまらせていただきますよ」。

鉄に首の後ろを抑えられ、伊右衛門は身動きが取れなくなった。
「凝ってますなあ、だいぶ凝ってます」。
鉄が伊右衛門の背中に、手を這わせる。

手を振り上げる。
ちらと女を見る。
女は、歌い続けている。

グキリ。
鉄の手が、伊右衛門の胸にめり込む。
伊右衛門のあばらが折られた。

道では、主水が待っている。
鉄が女を背負って、走って来る。
巳代松が自分にも背負わせろと言うが、鉄は背負ったままだ。
女に顔は見られたと言うと、主水は「それはまずいなあ」と言う。

だが鉄は、この娘のことを「世間のことは何にも知っちゃいない」と言った。
鉄は女の手を嗅ぎながら、走って行く。
「てめえ、きたねえよお」と巳代松が後を追う。
主水は鉄と己代松より一足遅れて、帰ることにした。

「娘が帰ってきた。霞の伊右衛門は死んだそうじゃ」。
宗兵エは、喜んだ。
「そうですか。それは良かった」と主水は答えた。

宗兵エは言った。
「あなたがどういうお方か、消えた2人のお人がどういう方か、尋ねるのはよそう」。
「このことは、わし一人の胸にすべて収めて死んでいく。だからあなたも、この村で起きたことはすべて忘れてもらおう」。

「そうですな」。
主水は囲炉裏に火を入れながら、言った。
薄く、煙が上がる。

「庄屋さまー!」
村人たちが走ってきた。
「コメが来た。都からお客様が見えました」。

馬に米俵を持って、人買いが来た。
「これはこれは長旅をはるばる、ご苦労でござった」。
宗兵エが挨拶に出る。

「いやいや、影沢の方とは先祖以来600年の付き合い。今年はまた、どんな美しい方をお世話願えるかと、楽しみにしてまいりました」。
帰ろうとする主水を、宗兵エは呼び止める。
「お役人。今宵は売られていく娘のために別れの宴を開く。それでもう一晩、お泊まり願えんか」。
「はい」と主水は答えた。

夜の宴。
鎧が並べられている。
古いが、立派な鎧だ。

真ん中には舞台が作られ、あの娘が衣装を着て踊っている。
雅楽が、奏でられている。
夜の中、松明の灯りに照らされて娘の顔は、一層美しく映った。

宗兵エも村人も、みな、先祖伝来の衣装を着ている。
主水は娘を見つめる。
「宗兵エ殿」。
「はい」。

「私には、どうしても腑に落ちぬことが一つある」。
「何でございましょう」。
「どうして、娘を伊右衛門に売らなかったんですか。そうすれば騒ぎにはならなかったはずですが」。

「それは掟じゃ」。
宗兵エの声は、当たりの良い庄屋の声ではなかった。
「影沢の女は都に住む高貴な方々にのみ、お売りするのじゃ」。

「それがこの村の、600年の掟じゃ」。
娘は踊っている。
主水はただ、見つめている…。



おていと正八が、旅人の財布をすることから始まる話。
死神がちゃんと突き止めて、鉄のところにやって来る怖さ。
正八とおていの顔を死神は知っているし、正八も死神の顔を見ている。
そのはずだけど、後にはお互い、記憶していない。

まあ、取り上げるエピソードは週1回ですが、実際には何年も経過していると思います。
それでお互い、顔を凝視などしなくて、ほとんど見ていない。
一瞬で、緊張して、覚えていない…ということでしょうか。

しかしここで正八が頼み人を見ていることから、頼み人が殺されたことがわかる。
早くしないと、仕置はなかったことになってしまう。
一応、頼み人は影沢村全体だと鉄は寅の会への言い訳も用意して、影沢村へ急ぐ。
渋る主水に「仕事は大事だ!」と辞退させようとする口調もおかしい。

主水は第1話で保護したワンちゃんに「野良犬になってひもじい思いをしたほうがいいか」。
「それとも辛抱してめざしを食ってるか、どっちが得か、よーく考えてみよう」と話しかける。
これ、当時の「どっちが得か、よーく考えてみよう」って流行語ですね。

山奥の仕置に、鉄だけが破格の安さで手を挙げる。
そのため、他の仕置人たちと摩擦が起きる。
そこで鉄。
「1ヶ月仕置をしないと、世の中が霞がかかったようになる」。

すっかり、仕置が中毒な状態になっていると語る。
それは言い訳のような、本当のような。
仕置がしたいのは、本当だろうなあ…。

人よりサルの方が多いという山奥。
江戸の法は及ばない。
霞の伊右衛門は、遠藤太津朗さんです。
第1話から、良い悪役が続きますよ!

影沢村は、座ったまま餓死しているような状態だった。
今でいう、冷夏だったんでしょうね。
アイスやビールが売れない。

景気が冷え込むどころじゃなかった。
昔は冷夏なんて、本当に飢饉で人が飢え死にする状態になってしまう。
現代だって、93年の冷夏では米騒動が起きたんですから。
冬はと言うと12月でもコートがいらないぐらい、気温は上がってきてますね。

さて、この話、山奥に入る後半から異様な世界に入って行きます。
鉄がマイペースで、あんまの振りをして軽快だからあんまり感じないですが、異様な世界です。
伊右衛門が支配するのも異様ですが、伊右衛門が影沢村を攻撃する理由が「娘」!

1人の娘を見た時から、伊右衛門はすべての女性に魅力を感じなくなった。
大勢いたであろう、屋敷の女性には全部、暇を出して追い出した。
道理で、あの広い屋敷に人の気配、特に女性の気配がなかったはず。

どこか、荒んだものを感じさせる屋敷だった。
もう、滅びることが確定しているかのような。
そして、影沢村の一人の女性に執着した。

影沢村、全部を死に絶えさせてもいいほど。
自分が滅びてもいいほど。
その通りに、伊右衛門は破滅する。
たった一人の女のために、影沢村も伊右衛門も滅びる状態になった。

まさに魔性。
当の女性は「おほほほほ」でも何でもなく、ただの子供のよう。
そんなことも認識していない。
誰もそれをおかしいとは思っていない。

この村は、平家の落人の村。
だから世間とは隔絶して、600年生きてきた。
おそらく、血も濃いであろう。
その血は、美しい女性を作り出す。

さらに村の状況を支えたのは、美しい女性。
その女性には、自我がない。
まっさらな子供のような状態を保って、どんな人にも染まるようにして売る。

人買いはというと紳士的で、たくさんのコメを持っては来るが、人身売買。
でもそれは、貧しい村が娘を宿場女郎にするのとはわけが違う。
都の高貴な方にのみ、お売りするのだと言う。

その強烈なプライド。
自分たちを追い出した世界の拒絶。
うすら寒くなるような、状況。

村を犠牲にし、伊右衛門も滅ぼし、女性から自我も感情も奪う。
そうしてまで、人を不幸にして破滅させてまで守る理由は何か。
「掟じゃ」。

わかりやすい伊右衛門の悪とはまた違うが、これも立派な悪ではないかと思う。
伊右衛門は仕置できても、掟はできない。
掟を守って、人を滅ぼすこのシステムは罰しようがない。

これを異様だと思った人は、おそらく村にはいなくなる。
だからここにいる人たちは、600年間、時が止まった人ばかり。
平家が滅び、源氏が、北条が、戦国がこの村にはなかった。

隠れ里みたいな世界。
外がどうなろうと、彼らには関係ない。
だから主水が、鉄が、己代松が誰だろうと関係ない。
自分たちはここを、守れれば良いだけ。

これって、普通の人は、関わっちゃいけない世界じゃないでしょうか。
最後に見せた宗兵エの顔と口調は、庄屋のものではない。
まぎれもなく、巻物を取って置く平家の末裔の顔。
高貴なものの、プライドあふれる顔。

600年の間、時が止まった村。
そしてこれからもずっと、時が止まったままだろう。
最後に主水は、どんなことを思ったでしょうか。
欲望と活気渦巻く世界から来た主水には、この村はどう映ったでしょうか。


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Comment

因習無用
編集
こんばんは…ご無沙汰ぶりでした。
さて『暴徒無用』真の悪とは一体何なのか?

「都に住む高貴な身分の方々にのみ影沢の女はお売りするのじゃ」と主水に語る庄屋の宗兵ヱ。
一人の女の人生を、数多の村人の命を、犠牲にしてまで守らねばならぬ掟、因習の怖ろしさ、おぞましさ…。
しかし、宗兵ヱから掟への懐疑は微塵も感じられない。
疑問も不信も抱かぬ思いにまで仕置人は手を出せない。
売られていく娘(香絵)もやがては美しさが衰え、老いていく。
その時、何も解らず、無垢でいることしか出来ない娘に待つ未来は果たしてどんなものなのか…。
描かれなかった物語の先(さき)が、何だか気になる異色のエピソードでした。
あれ?正八って死神の顔知ってるんじゃないの?
主水を突如襲ったあの槍は誰?何だったの?
それも気になるといえば気になりますが(笑)。

それでは、また…。



2017年12月15日(Fri) 22:48
キラさん
編集
>キラさん

こんにちは。
コメントありがとうございます。

>さて『暴徒無用』真の悪とは一体何なのか?

この話、実はとても深い話ですよね…。

>「都に住む高貴な身分の方々にのみ影沢の女はお売りするのじゃ」と主水に語る庄屋の宗兵ヱ。

これを胸を張って誇らしげに言っているところが怖いです。
何も疑問に思ってないのがよくわかります。

>一人の女の人生を、数多の村人の命を、犠牲にしてまで守らねばならぬ掟、因習の怖ろしさ、おぞましさ…。

村人を幸せにするための掟ではないんですよね。
じゃあ、誰のための、何のための掟なのか。
それを守ってどうするのか。

>しかし、宗兵ヱから掟への懐疑は微塵も感じられない。

ここですよね。
最後に実に背筋を伸ばして、誇らしげに語っている。

>疑問も不信も抱かぬ思いにまで仕置人は手を出せない。

騒動に決着をつけるだけで、何も変わらない。
本当に人を救ったことにはならない。
そこまでは立ち入る領域ではないにしても。
主水の気持ちはどんなだったでしょうね。

>売られていく娘(香絵)もやがては美しさが衰え、老いていく。
>その時、何も解らず、無垢でいることしか出来ない娘に待つ未来は果たしてどんなものなのか…。
>描かれなかった物語の先(さき)が、何だか気になる異色のエピソードでした。

要するに、かわいがられるために無垢な状態にしておくだけなんですよね。
村人のためでも本人のためですらない。
昔のヨーロッパの貴族が愛玩動物として、自分たちのそばに置いておいた人たちがいたそうです。
いや、何ということをするんだと思いますが、その人たちの寿命は短かったとか。
人はやはりペットではない。
そういう状態で長生きはできないんです、と聞きました。

>あれ?正八って死神の顔知ってるんじゃないの?

この疑問は後にも出てきますね。
当時は短期間に何度も見返すなんてことはなかったから、設定が変わっちゃうこともあったのかな?

>主水を突如襲ったあの槍は誰?何だったの?
>それも気になるといえば気になりますが(笑)。

あれは後に出て来る元武士らしい用心棒の仕業なんでしょうか。
早く帰れという脅しでしょうか。
本気で狙ったのかな?
主水が本当の昼行燈なら交わせなかったのかも。

本編を見た後、見た人にいろんなことを想像させ、気にさせるのはうまい作りだということですよね。
ということは「新・仕置人」、よくできてるんだなあと思います。

コメントありがとうございました。
2017年12月16日(Sat) 17:13
必殺ファンとして有名な京極夏彦さんが
編集
この回の世界観に影響を受けたであろう作品「後巷説百物語」の「赤えいの魚」を思い出しちゃうんですよね。ビデオ版の「赤面ゑびす」の元の話?なのかな。やはり「掟」に違和感を持たないことから起きる「掟の崩壊」までも描いていて、『暴徒無用』に続編があったらこんな悲劇になっちゃうのかな?と思います。未読であればお試しを。
2017年12月17日(Sun) 01:15
地味JAM尊 さん
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>地味JAMさん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>必殺ファンとして有名な京極夏彦さんがこの回の世界観に影響を受けたであろう作品「後巷説百物語」の「赤えいの魚」を思い出しちゃうんですよね。ビデオ版の「赤面ゑびす」の元の話?なのかな。

「赤面ゑびす」、博太郎さんが熱演されていましたね。
西崎みどりさんも出演されて、「仕舞人」を見ていた者には感慨深いキャスティングでした。
あれも甲兵衛が狂って、島民は解放されるのではなく、狂った甲兵衛を担いで行くラスト。

掟により神のように君臨する甲兵衛自身が掟の意味のなさと自身の意味のなさに絶望しているというのに。
狂ってもなお、守られる掟。
「この島は救えねえ…」。

http://kotatuneco.blog59.fc2.com/blog-entry-1617.html
http://kotatuneco.blog59.fc2.com/blog-entry-647.html
で書いていますので、良ければご覧になってください。

>やはり「掟」に違和感を持たないことから起きる「掟の崩壊」までも描いていて、『暴徒無用』に続編があったらこんな悲劇になっちゃうのかな?と思います。未読であればお試しを。

「後巷説百物語」は読んだんですけど、覚えてないのは何故?
もう一度、読み返してみます。
ありがとうございます。
2017年12月22日(Fri) 22:09
今更ながら未見ですみませんでした~
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ちゃーすけさんが同じこと書いてる~恥ずかしっ!
自分はムック本での「怪」の紹介記事見てコメ書いたんで
早速中古のDVD-BOXポチリました。

百介が冬彦さんか・・・。仕舞人ワールド+正平ちゃんwith冬彦さん・・・。
色んな意味で「御命ご用心」だ・・・楽しみでもあり恐ろしくもある。
2017年12月23日(Sat) 00:57
地味JAM尊 さん
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>地味JAM尊さん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>ちゃーすけさんが同じこと書いてる~恥ずかしっ!

いえいえ、そんな、把握できるものではないですから、お気になさらず。
教えてくださって、かえってありがとうございます。

>自分はムック本での「怪」の紹介記事見てコメ書いたんで
>早速中古のDVD-BOXポチリました。

私は最初、WOWOWで見ました。
結構、はしょっていたようで、確かにラストなんて唐突に佐野さんが「世は不思議なり」って言ってる感じでした。

>百介が冬彦さんか・・・。仕舞人ワールド+正平ちゃんwith冬彦さん・・・。
>色んな意味で「御命ご用心」だ・・・楽しみでもあり恐ろしくもある。

「七人みさき」にワンシーンだけ、藤田さんが出ていたり。
小松政夫さんとかも、皆さん、必殺ファンの気持ちをわかってくださっての出演だと思いました。
本田さんのサービス精神豊かなこと!
近藤正臣さんも良いですよ~。

コメントありがとうございました。
良ければ感想、聞かせてくださいね。
2017年12月24日(Sun) 18:59












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