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メリークリスマス アンド アイラブユー 「山羊の羊の駱駝の」

すごく印象的な話で、この季節になると思い出していました。
なのに、タイトルがわからない。
「ロングロングケーキ」の中に収録されているのを見つけました。
「山羊の羊の駱駝の」というタイトルでした。

大島弓子のマンガは、とても繊細な絵で描かれてます。
猫を擬人化して、というか、猫が自分を人間だと思っている。
だからそういう姿で、出て来る。
でも、頭の上には猫の耳がある。

いかにも少女マンガという絵柄で、メルヘンぽく見える。
しかし、大島弓子の描く世界は実はとてもシビア。
4分の1世紀前の片思いの少女にそっくりの女子高校生に出会う「たそがれは逢魔の時間」。
だが妻には恋人がいて、その少女は女子高生売春をしていた。

大恋愛の末、一緒になった夫婦。
だが夫は倦怠感を感じ、会社に気になる女性ができていた。
そんな時、妻が階段から落ちる。
お腹に子供がいたことに気付かなかった妻は、流産。

これをきっかけに、妻は精神のバランスを崩していく。
叫び、笑い、泣き、空中に向かって話しかける。
死んだのは娘だと言って、名前を付ける。
そしてダリアの帯を作って、喪服に締めるという「ダリアの帯」。

山岸涼子がこんな話を描いたら、肌に突き刺さるような痛さを感じるものになるでしょう。
きっと、心理も、起きている現象も怖ろしく描く。
大島弓子の、ほわほわとした絵だから夢物語のように読める。
だけど「大島弓子って背筋が凍るような話があるよね」と言った人がいるように、実は怖いんです。

この話も、とてもシビアで切なくて、哀しい。
厳格な父。
しかしこの父は本当の意味で、雪子に厳格な躾をしているのではない。

教育評論家で、次期市長候補。
雪子はその父にふさわしい、娘でなくてはならない。
おそらく、小さな雪子にとって心のよりどころだった犬・ジロ。

そのジロが近所の子を噛んだということで、父は雪子に知らせるまでもなく薬殺した。
どうしてジロが噛んだのか、ジロの言い分も聞かず。
それが父の体裁だと、雪子は言っている。

この時、雪子は父を愛することをやめたのでしょう。
雪子は泣くのをやめてしまった。
子供らしく振舞うのを、やめたのでしょう。

父の前で、母の前で、感情を出すのをやめたのかもしれません。
父に対する信頼もなくしてしまった。
「敢然と無視されたのはあの記者ともう1人、あたしです」。

「あの写真が私でなかったら、私はどこにもおりません」。
雪子は父に、無視され続けていると思っている。
記者はその時だけだけど、雪子はずっと無視されていると思っているんですね。

自分を無視しなかったのは、犬だけ。
ジロだけ。
だから、雪子は呼びかける。

どこにもいない犬。
どこにもいない私。
たった一人の理解者。

ジロよ、帰っておいで。
私の肩に帰っておいで。
ジロは帰ってきてくれた。
だから私は夕方になると、街を徘徊する。

家に帰りたくないんじゃない。
私は、ジロと一緒に歩いているのだ。
そう考えると雪子のこの言葉は、とても痛々しい。

こんな時、雪子は献金活動をしている天使様に出会う。
自分の電車賃を入れた音は、荘厳な鐘の音だった。
「ありがとう」の笑顔は、天使だった。

雪子はそれをもう一度経験したくて、そこに通い始める。
お金を箱に入れ続ける。
そのために妙な雑誌の編集者に引っかかり、クラスメートから借金をしまくる。
でも雪子は止められない。

ここでこの話が雪子のモノローグで占められていたところに、陽差子というクラスメートが入って来る。
陽差子は忠告するが、雪子は献金がどう使われようと関心がない。
雪子は、ボランティアに協力しているのではないのですから。
彼女は、他で得られなかった自分の幸福感のためにやっているのですから。

でもそんなことは、陽差子にはわからない。
だから陽差子は、怒る。
詐欺に加担させないでくれと思って、お金を返してくれと言う。

しかしそうやって献金をしていた雪子には、わかってくる。
ジロは雪子に何かしたい、何かしたいと思っていたことが。
それはジロが、犬が自分にくれる無償の愛。

本来なら、雪子の父母がくれるはずのもの。
それをジロはくれていたのだと。
これが自分を幸せにしていたのだと。

ジロはそれで、幸せだったのだと。
自分もまた、そうなのだということ。
人を幸せにできる、そして自分は幸せに感じる。

それができる。
私にはわかりました。
わかった私はやっと、言えます。

メリークリスマス。
メリークリスマス。
ありがとう。
アイラブユーと。

天使様の羽は、雪子にも生えた。
その雪子に気が付いたのは、陽差子。
お金を返して…というのは当たり前だと思うけど、陽差子は雪子を追い詰めてしまった自覚がある。

無償の愛は、自分にはまだできない。
だからクリスマスソングは歌えない。
それでもいつかきっと、できる時が来る。

できるようになりたい。
そうしたら、言いたい。
ジロが雪子に何かを残したように、雪子も陽差子に何かを残した。

メリークリスマス。
メリークリスマス。
ありがとう。
アイラブユーと。

シビアな話です。
しかし静かに、でも確実に希望を残して、このクリスマスの季節の話は終わります。
あたし、私と一人称が変わりますが、それさえもこの不安定な少女にはふさわしい。
大島弓子、すごいです。



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Comment

少女漫画は全然読まないのですが
編集
凄く興味を惹かれますね。
男の発想では出てこない、女性独自のの世界観を感じます。

我が家は、この主人公と同じく「犬系」でしたんで、「他者に対して何かをしたがる」感は凄く分かりますね。破滅的なラストと思うんですが、絵柄で感じさせないんでしょうね。読んでみたいけど買う勇気が・・・。
2017年12月04日(Mon) 00:30
地味JAM尊さん
編集
>地味JAM尊さん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>凄く興味を惹かれますね。
>男の発想では出てこない、女性独自のの世界観を感じます。

男の人だと、あの絵にためらいを感じる人もいるかもしれません。
吉本ばななという小説家が出てきた時、大島弓子の世界だなと思ったんですが、やはり彼女の原点は大島弓子さんでした。

>我が家は、この主人公と同じく「犬系」でしたんで、「他者に対して何かをしたがる」感は凄く分かりますね。

人間のために働くワンちゃん見ると、尊いものを見た気持ちになります。
人に喜んでもらえる、人の役に立ち、必要とされている。
その喜びで頑張っているんだなあと思って…。

>破滅的なラストと思うんですが、絵柄で感じさせないんでしょうね。読んでみたいけど買う勇気が・・・。

山岸涼子さんだったらものすごい破滅になると思うんですが、何か、希望を感じさせるんですよ。
前に書いたんですが大島さんの「ダリアの帯」なんか、発狂した妻と山奥で暮らして、最後は畑で夫が倒れて亡くなって。
誰も知らない。

すると狂った妻が今度は死んだ自分と話している、そうか、妻はこうしていろんなものと話していたんだってわかる。
ものすごい結末なんですけどね。
絶望感がないんです。
機会があればぜひ。

コメントありがとうございました。
2017年12月04日(Mon) 21:50












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