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西暦2000年に本物の二十歳になるんだから 「夏の夜の獏」
2018/06/05(Tue)
昔、子供が大人の恰好をしてギャングの世界を描いた「ダウンタウン物語」という映画がありました。
その中で、まだ子供のジュディ・フォスターの貫禄とセクシーさが、話題を呼びました。
大人の世界で過ごす時間が多い子役は、大人に移行する過程でかなり苦労するらしいです。
ジュディはその頭の良さもあって、大人から子供に移行するのに成功しました。

子供でいることを期待されながら、大人の中で過ごす。
大人の分別を期待される。
同世代の中で過ごす時間より長いと、子供の世界でどうしたらいいかわからない。
難しいんだろうな。

さて、この主人公は8歳の走次くん。
走次くんから見た世界を実写化するとしたら、「ダウンタウン物語」みたいになるのでしょうか。
早熟な子供から見た世界は、どんな感じなんだろう。

ほとんどの人が、年齢にふさわしくない精神年齢であると走次くんは思う。
精神年齢がそのまま、姿になれば世の中のほとんどは子供。
彼だけは大人。

彼からすれば、精神年齢と実年齢のバランスが取れているのは小箱さんだけ。
でもそれは、彼が小箱さんを好きだからなんでしょうね。
その小箱さんが帰れば、彼はおじいちゃんと2人だけで留守番。
だけどおじいちゃんはもう、彼とまともな会話にはならない。

おじいちゃんが眠ってしまえば、彼は静かな家に一人。
夕方の一人は寂しい。
それが子供なら、なおさら。

タイトル通り「夏の夜の獏」だからまだ、秋冬より日暮れは遅い。
それでもやっぱり、日暮れ時は寂しい。
この静けさが、僕を大人にしたのだと彼は分析する。

猫が老成する、悟りを開くのは早いと描写される。
それは猫が一人上手だからなんでしょう。
実際、猫は人の何倍もの速さで人生を駆けていく。

大人からすれば、彼は鼻持ちならない子供。
子供からすれば、彼は癇に障る奴。
彼は居場所がない。

その居場所のなさは、実は彼の家庭から来ていたということがわかってくる。
大人なんじゃない。
彼は大人の事情の中で、必死なんです。
子供なりに、懸命に適応しようとしているだけでした。

それが走次が失恋した瞬間に、破れる。
子供と思い込んでいたお兄ちゃんが、年相応の姿に戻る。
将来性がある愚か者と言われていたお兄ちゃんは大人。
彼はまだ、ただの小学生だった。

大人に庇護されながらでないと、生きていけない子供。
家族が揃っていてほしい子供。
でもその家族はもう、バラバラ。

父と母は離婚寸前。
その現実が、つらかった。
懸命に走次は、二十歳の分別で離婚阻止作戦をとっていた。

でもそんなものは、何もならなかった。
もう、最初から決まっていたことだった。
大人はそう、決めていた。

「山羊の羊の駱駝の」の雪子みたいに、走次も泣かなかった。
雪子も、走次も子供らしくいられなかった子供。
それが最後、泣くことで、感情を解放させる。

おじいちゃんがまだ元気だった頃、お母さんとお兄ちゃんと4人でハイキングに行った記憶。
この時から、お父さんは外れていたのだろうか。
でも走次は、お父さんにおみやげを持って行った。

この記憶と、最後のいつのまにか向かっていた、元の家の描写はきつい。
とても切ない。
ハイキングの時のように、一緒にいた頃の家族が蘇って来る。

子供が成長して、独立すれば、だいたいは夫婦2人になる。
そして、どちらかがいなくなれば、1人になる。
人間の人生の終わりもまた、野生動物と同じ。
切ないものです。

でもこの子にはまだ、そんなことはわからない。
わからなくていい。
ただ、家族は一緒にいるものだ。

この子はただ、自分を守っていただけだった。
大人にならなきゃいけなかっただけだった。
最後に家から走って行きながら、走次は泣く。

いいんだ。
12年後の西暦2000年に、僕は本物の二十歳になるんだから。
途端に、走次は子供に戻る。
この描写の見事さ。

僕は大通りを消防車のサイレンのように泣きながら、歩きながら、近未来の夢を見ていた。
大島弓子の感性は、素晴らしい。
今、走次くんは37歳?
彼が夢に見ていた近未来は、今、どうなのでしょうか。


大島弓子さんがこの作品について、次のように語っていました。
これは魔法で、主人公は周りに子供になる魔法をかけていた。
そしてちょっと、バカにしていた。

でも最後、兄と主人公が好きだった女性が愛をはぐくんで、その愛が魔法を溶かしてしまった。
そう考えると、ちょっと違った作品になりませんか、と。
やっぱり、大島弓子作品は深い。


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