こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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白く輝くナイフのように 「さびたナイフ」

「錆びたナイフ」といえば、石原裕次郎さんの有名な歌。
しかし私には「さびたナイフ」という、河あきらさんのマンガの記憶です。
70年代後半の作品だったと思います。


風の強い海沿いの崖の上。
1人の女性が、立っている。
そこにもう1人、青年がやってくる。

女性の容貌は、ショートカットでエキゾチックな美人だった。
2人は顔を見合わせる。
「勇…?」と、女性が尋ねる。
「美乃さん?」


7年前。
大音響。
ワイワイと騒ぐ、若い男女。
黙々と煙草の煙が、視界を煙らせている。

ゴーゴー喫茶。
その喧騒の中、美乃は1人うつむいて座っている。
ふと顔を上げると、1人の男と目が合った。

男はじっと、美乃を見ていたようだった。
目が合った瞬間、男はニッと笑った。
美乃はハッとして、横にいる女の友達に聞く。

「あいつ、知ってる?」
「誰?」
「カウンターの…、革ジャンの男」。
「誰?いないよ」。

「え?」
美乃が見ると、その席にはもう誰も座っていなかった。
女友達は、笑いながら言った。

「美乃の顔っ、てエキゾチックだからね。男の気を引くんだよ」。
「ふふっ、我々にしちゃ、うらやましい限り!」
しかしその言葉を聞いた美乃は、再びうつむいた。

帰り道、別の女友達と美乃は、駅で制服に着替える。
今週は期末試験だ。
その友達は、美乃がうらやましいという。
一つ屋根の下に暮らす、秀才。

キッスのひとつもすりゃ、個人授業してくれるでしょ!
それを聞いた美乃は、「はっ?!あの堅物が?悪いじょーだんだ」と笑う。
「ばぁーい」と手を振る友達を見送りながら、「ほんと、悪い冗談…」と美乃はつぶやく。

電車に乗った美乃の隣に、いきなり、あのゴーゴー喫茶で目が合った男が座った。
「さっきの男…」。
どっかりと美乃の隣に陣取った男に、美乃は「何だよあんた!」と言った。
「大きな声出すよ!」

「もう出してるじゃないかよ」。
そして「綺麗だったから」と、美乃を追ってきた理由を言った。
「ふん、月並みな誘い文句」。
「髪が、さ」。

三つ編みに編みこまれた、美乃の髪。
「ライトで光って見えた」。
「あん時ゃ、気が付かなかったけど、すげえ栗色してんだな。本物か?」
その男の言葉に、美乃は複雑な表情を見せた。

【追記:
美乃が暮らす家では、愁一が机に向かっている。
母親が夜食を持って入って来た。
その気配に気づいた愁一は、さっとノートを隠した。

ノートの横には一冊の本があった。
「犯罪百科」。
愁一は母親に「美乃は?」と聞いてみた。

母親は「さあ…。あの人のことはもう、気にしないことにしたの」と言った。
「どこでどういう友達がいるのか」。
母親が出て行った後、愁一は心の中でつぶやいてみる。
どこで、どういう友達がいるか、か。】

やがて美乃は、家に着いた。
表札を見た男は「俺、同じ苗字の上級生知ってるぜ」と言った。
「え、学校どこ?」
男は哲也と名乗って、学校と高校2年であることを話した。

「そんなことまで聞いてない」と、美乃は冷たかった。
家に入ろうとした美乃の前に、哲也が立ちはだかった。
「キスして良い?」
「…やってごらん。噛みついてやるから」。

その様子を、2階からその家の息子・愁一が見ていた。
「美乃…」。
2階からはまるで、2人が恋人のように見える。
だが哲也は「やめた!」と言って、離れた。

「ほんとに、噛みつきそうな顔してる」。
手を振る哲也に美乃は「フン」と、鼻を鳴らす。
シャッ!とカーテンが閉まるのを美乃は見た。
「あいつ、見てた?」

美乃は翌日も学校の帰り、街に出た。
街でまた、哲也を見かけた。
哲也は綺麗な、明らかに年上の女性と一緒に居た。

美乃の視線に気づいた哲也は、その女性に「じゃあな」と別れを告げた。
「あん、哲ちゃんたら」、と女性は言った。
「よお」。

「見てただけよ、また女、ひっかけてると思って」。
「あの女、高校生のガキがいるんだぜ」。
「噓ばっかり。どう見たって、30歳前だわ」。
「ほんとだって、俺のおふくろだもん」。

美乃は、哲也を見た。
「若く見えるだろ。10(とお)も歳ごまかして水商売やってるぐらいだから」。
そこに警官が子供のように見える男の子を追いかけて来るのに、出会った。

少年の逃げた先を知らないか、聞かれた哲也は少年が隠れているのを知りつつ、知らないと答えた。
美乃も、そう言った。
家出少年らしいんだが、と警官は去って行った。

「おい、もう出て来ていいぞ」。
そう言われて出てきた少年は、だが走って逃げた。
「何だあいつ」。

哲也は、学校で愁一に美乃を知っているのかと聞かれたらしい。
「てきとーに答えといたけどよ」。
それを聞いた美乃は、帰宅してから愁一の部屋を訪ねた。
秀才の愁一は、勉強をしていたらしい。

見るともなしに開かれていたノートを見ていた美乃は、「え?」と驚いた。
そこに愁一が戻ってきて、美乃はとっさにノートをセーターの中に隠してしまう。
美乃は愁一が哲也に自分のことを聞いた話をした。

「あの男は評判が悪いんだ。付き合って良い男じゃない」。
「そんなこと、本人見りゃあ、わかるわよ」。
「自分の評判が下がるからでしょ」。

愁一は、答えなかった。
「偽善者!」
美乃はそう言うと、出て行く。

翌日、美乃は哲也を探していた。
哲也は昨日の少年が、男に声をかけられているのを見ていた。
そして哲也はその男に「俺のダチに何か用か」と聞いた。
男は「哲か。お前の友達なら良いんだ」と言って去っていく。

少年は勇と言った。
「何だよ、お前」。
「あいつ、何て言ってた?」
「行くと来ないなら、世話してやるって」。

「その年で、ヤクザの仲間入りする気か?」
勇は、びっくりした。
美乃が「あたし、行くわ」と言ったとたん、勇が倒れた。
「おい?」

勇の前に、食事が並んでいた。
「美乃おねーちゃんが、おごるってさ」。
勇はもう、何日もろくに食べていなかった。
「構わない。どうせ遊びに使っちまう金だから」。

「お前、いくつだ?」
「せいぜい、12~3にしか見えないぜ」。
「14だよ!」
勇がムッとして答えるが、その直後に「い、いや16」と言い直した。

「嘘つけ」。
「それ食ったら、家に帰れよ」。
「嫌だ!」

勇は家にいて、代わり映えもしない毎日が嫌だったらしい。
そのうち、何か世間をあっと言わせることをしてやる。
「…似たようなこと考えてる」と、美乃は笑った。
「偶然だな。俺もだよ」。

その後、美乃と勇は哲也の部屋に行った。
美乃は哲也に、愁一のノートを見せた。
勇は美乃を、じっと見ていた。
「何よ」。

「お前、外人みたいだな。あいのこか?」
「ハーフって言ってほしいね。年下にお前呼ばわりされるの、感じ悪いよ」。
「美乃おねーちゃんって呼べってよ」。
「どことのハーフ?」と、哲也が聞いた。

「地球儀出そうか?」
「ばーか」。
「…父が、ギリシャ人らしいんだけどね。会ったこともない」。

母親が亡くなってから、美乃は愁一の家に預けられた。
「あの家でずっと、父や母の悪口を聞いてきた」。
「金が出来たら、あの家を出て父親のいる国に行ってやる」。

「一昔前の、父を訪ねて三千里だな。お涙ちょうだいだ」。
「ただ行ってみたいだけよ」。
勇はますます、美乃をじっと見つめていた。

「何よ、ハーフがそんなに珍しい?」
「別に!」
ノートを見ていた哲也が「何だ、こりゃあ!」と叫んだ。
「誰が書いたと思う?」

「まさか」。
「愁一」。
それは、綿密な犯罪計画だった。

「なあ…。もしかしてこの通りにやったら、完全犯罪になるんじゃねえか」。
「…でしょう」。
勇も目を輝かせた。
『やってみるか?』

呼び出された愁一は、青い顔をしていた。
「お前たち正気か!」
「これだけのものを見せられたら、誰だってくるっちまうよ!」

哲也はこの、銀行からの現金強奪を実行しようと思っているのだった。
「なら…」。
愁一が口を開いた。
「指揮は俺が取る…!」

哲也も、美乃も、勇も驚いた。
「お前たちが捕まってこのノートが出たら、俺も共犯者だ。それは困る」。
「リーダーは俺だ!嫌ならやめろ!」

哲也も、美乃もあっけに取られていた。
だがその日から、強奪事件の打ち合わせは始まった。
「いや、それはダメだな」と、愁一は積極的に参加した。

その様子は生き生きとしていて、美乃は「愁一…?」と、いぶかしんだほどだった。
やがて、年の暮れも迫ったある日。
美乃はメガネをかけ、ストレートのミディアムヘアのウィッグをつけて銀行に向かった…。

それはボーナスを狙った強奪で、まず、店の前で勇がひったくりを起こす。
警官が追う。
その隙に発煙筒を持った哲也が、現金輸送車の前に立つ。
ダイナマイトと言って脅し、現金を奪った。

途中、警官が戻って来てしまうと美乃が外を見て悲鳴を上げる。
あそこに血だらけの男が!
その悲鳴で警官は、外に走って行く。

警報ベルを鳴らそうとした警備員に哲也は、発煙筒を投げつける。
ダイナマイトと思った警備員が、伏せる。
しかしそれはただ、煙を上げるだけだった。
非常ベルが押される。

いち、にい…。
現金の束を前に、哲也も美乃も勇も興奮していた。
だが愁一は冷静に、この札は使えないと言った。

新札で番号が揃っている。
寝かせておくしかない。
いつまで?
7年ぐらい…。

哲也もがっかりするが、愁一は言う。
「明日からは、普段通りに生活するんだ」。
「いいな。遊びは終わりだ」。

だが早速、美乃は一緒に遊んでいた女友達に呼び出される。
女友達は美乃に、事件の新聞を見せた。
「昨日、この銀行にいただろ。メガネかけてヘアピースつけてたけど、確かにあんただった」。

女友達は含み笑いをした。
「あの近くなんだ、あたしの家。人のいないところで、話をつけない?」
人気のない林に呼び出された美乃は、脅された。
「知らないって言ってるだろ、あたしじゃない」。

「昨日や今日の付き合いじゃないんだよ、間違うはずないだろ?!」
「だからさ、ちょっとこっちに遊ぶ金をまわしてくれりゃ、サツになんかいいやしないよ」。
「知らないって言ってんだろ!」
「サツに、ばらされてもいいのかい?!」

「そいつは困るな」。
「何だよ、あんた!」
物陰から、哲也が出てきた。

「女の子がね、そんな怖いこと言うんじゃないの。ケガでもしたらどうするの」。
哲也は、ナイフを出した。
「顔に傷つけられたり、さ」。
「ひっ!」

「哲…、ばか、よしなよ!」
美乃も仰天した。
「13日に見たことは忘れなさい、いいね?」

「あ…」。
友達は震えだした。
「忘れろって言ってんだよ、ほんとに傷つけるぞ!」

哲也のナイフの刃が、顔に向いた。
「わかった、忘れる!忘れるよ!」
女友達は叫んだ。

美乃は哲也に文句を言った。
「助けてやったんじゃねえか」。
「かえって、まずくなったわ!」

しかし、警察は哲也が使ったバイクから、すでに哲也にたどり着いていた。
主犯と思われる少年の自宅を家宅捜査。
愁一も哲也も美乃も勇も、一時姿をくらますことにした。

「俺は冬期講習と言って出て来るが、お前は?」と、愁一が美乃に聞く。
「黙って抜け出すのは慣れてるよ」。
こうして、哲也も美乃も勇も、そして愁一も家を出て来る。
行き先はある、海岸近くの雑木林の中の一軒家だった。

【追記:
哲也は「何が完全犯罪だよ」と、ぼやいた。
こんなに簡単にばれるなんてよ」。
すかさず美乃が「愁一のせいじゃないわよ」と言う。】

「俺んちの周りに似てる」と勇が言う。
「お前んち、こんな僻地にあんのか」と哲也が言う。
一軒家で、4人の生活が始まった。
金は海岸沿いの崖に埋めることにした。

その時、哲也が血判状を書こうと言い出した。
「雰囲気だよ、雰囲気!ほら、美乃も」。
美乃も促されて、名前を書いた。

名前の下に、血で彩った指の判を押す。
指を切るのは、哲也のナイフだ。
ナイフは白く、陽を受けて輝く。

哲也は勇相手に、野山をかけて遊んでいた。
愁一は勉強をしていた。
勇が、愁一は卒業したらどうするのか聞いた。

医者になるのだろうと思ったが、愁一は「ギリシャに行くかな」と言った。
「美乃と?」
愁一はそれには、答えなかった。

【追記:
哲也が愁一に詰め寄っている。
これからどうすればいいんだ。
「よお!秀才さんよ!」

美乃が怒った。
勝手に引き込んでおいて、今度は愁一のせいか。
哲也は出て行く。

美乃が追って来た。
哲也は「あんたはいつも、愁一の味方なんだな」と言った。
「俺、あいつが平然としていると、イライラするんだよ」。
「こっちは一生懸命、バカやって遊んで不安を紛らわせてるっていうのによ」。】

そのうち、哲也は風邪を引いた。
咳をしている哲也は、勇を呼んだ。
「ちょっと来いよ」。

その夜だった。
美乃が寝ているところに、勇が侵入した。
それに気づいた美乃が、勇を平手打ちした。
電気がつけられた。

「何でこんなことしなきゃいけないのよ、勇!」
「どうした」。
すると哲也が「俺がそそのかした」と言った。

「勇だって男なんだよ。いつまでも我慢してるこたぁねえんだ」。
「あんた!」
美乃がカッとなった瞬間、哲也が殴られた。

床に転がった哲也は、激しくせき込んだ。
「初めて、激高したな、愁一さん」。
愁一はハッとした。

いつも冷静な愁一の、初めての感情の爆発した姿だった。
すぐに冷静さを取り戻した愁一は、「もういい。二度とこんなことはするな」と言って部屋に戻った。
その姿を見送りながら美乃は、犯罪計画を立てている時の愁一の生き生きとした様子を思い出していた。
あの時、本当の愁一を見た気がした。

だが今は、またわからなくなっている。
美乃は幼いころから、愁一が好きだった。
愁一もまた、美乃が好きだったのだ。
哲也だけが、それに気づいていた。

翌朝、すっかり回復した哲也は、美乃に任せられないと言って雑煮を作っていた。
「タフな人!」と美乃はあきれていた。
そこに愁一が外から戻ってきた。
「裏山の草を結んだのは、お前たちか?」

「あれ、あんたもひっかかったの?」と哲也は笑った。
哲也は左右からつまんだ草の端を結んで、輪を作っていた。
美乃もそのいたずらに引っかかって、哲也を追いかけた時、足を取られて転倒したことがある。
哲也の指には、傷がついて血が出ていた。

「傷が」。
「すぐ治る」。
そう言って部屋に戻った愁一だが、ふとした時に首筋がこわばる。
ガシャーン!

美乃がうっかり、皿を割った。
哲也が文句を言って、美乃が笑った。
その時だった。
愁一がけいれんを起こして、ひっくり返った。

『音が刺激となって、全身がけいれんを起こす』。
『この症状は…!』
医者志望の愁一には、わかった。
愁一の症状は、ますますひどくなる。

このままでは、危ない。
勇が、医者を呼びに行くことになった。
美乃が、呼び止める。
「勇。医者を呼んだら、その足で家に帰りな」。

「7年後に、またね」。
「サツに気を付けてね」。
その言葉を聞いた勇は「俺、医者連れて戻って来るからな!」と叫んだ。

だが、医者は来てくれなかった。
勇の風体から、診察料は払えないと見たのだ。
思い余った勇は、こっそり札束から落ちてポケットに入れていた一万円札を出した。
「金ならあるよ、ほら!」

それを見た医者は、行こうと言った。
しかし医者は奥に引っ込むと、看護師に警察に連絡しろという。
あんな汚いなりの子供が、一万円札を出した。
どこかで盗んだに違いない。

警察はすぐにやってきて、勇を確保した。
「勇君だね。ご家族から捜索願が出ているよ」。
刑事に囲まれて、勇は震えていた。
「君は、そそのかされて、あんなことをしやっただんだろ?」

勇は、戻ってこない。
医者も来ない。
愁一の苦しみは、ひどくなる一方だった。
窓の外を見た哲也は「勇の奴、ドジふみやがった」と叫んだ。

物陰に警官がいるのを、見つけたのだ。
家はすっかり、囲まれている。
「俺は行くぞ!」
哲也は逃げるという。

美乃が哲也を見る。
「悪く思うなよ。捕まるなんてまっぴらだ」。
「あんたは?」

美乃は目を伏せた。
ふっと、哲也は笑った。
「聞くだけ、野暮か」。

美乃は愁一と残る。
哲也が叫んだ。
「じゃあな!捕まったら、主犯は俺だって言えよ!」
「7年後にまた会おう!」

哲也は、出て行く。
苦しむ愁一に、美乃は笑いかける。
「美乃?」
美乃だけは残ったのが、愁一にも分かった。

警官が家を囲んでいるのを、哲也は上から見下ろしていた。
その時、哲也はわざと木を折って音を立てた。
警察が哲也に気付く。
「止まれーっ!」

「へっ、誰が言う通りにするもんかよ」。
哲也は逃げていく。
「威嚇射撃だ!」
刑事の声で、警官が発砲した。

その音で、愁一が背骨が折れるほど、のけぞる。
「愁一!」
哲也は止まらない。

警察の目を自分に引き付けて、美乃と愁一を助けるつもりだ。
「もう一発だ」。
「はいっ」。

警官が銃を向ける。
ガクン!
「!」
哲也が倒れるのと、銃声が同時に響いた。

「ぐうっ!」
愁一が目を見開き、体をそらす。
「愁一!」
「いきなり…、倒れたんです」と発砲した警官が、うろたえた。

哲也は弾丸が命中し、絶命していた。
助け起こした刑事は、哲也の足元を見た。
「これに足を取られたのか」。
哲也の足元で、草が結ばれていた。

警官が家になだれ込む。
「はっ」。
そこにいたのは、ビンの割れた口を自分の首筋に向けている美乃だった。
「馬鹿な真似はよしなさい。ビンを下に置くんだ」。

刑事の静かな口調に、美乃は従った。
「男の方は死んでいます」。
警官が言った。
美乃が涙をこぼす。


7年後。
海沿いの崖で、美乃と勇は再会したのだった。
勇が美乃に言う。

「愁一さんの死亡原因…、破傷風だってな」。
「…」。
「あの人、医者志望だったのに」。

美乃はやがて、土を掘り始めた。
「よせよ。もうとっくに警察が…」。
美乃は、やめない。
その様子に、勇も掘り始める。

「いたっ」。
美乃の指が、ナイフに当たった。
「ナイフ!」

「哲の!」
「血判状も!」
だがその血判状はボロボロで、何が書いてあるかもわからなかった。
「は…」。

勇は笑い出した。
「こんなもの。何が何だか、わかりゃしねえ!」
勇は笑いながら、泣いていた。

「美乃さん、結婚は?」
美乃は首を振った。
「俺、来月結婚するよ」。
「私は…、父が連絡してきた。ギリシャに行って一緒に暮らす」。

「そうか」。
「…俺たち、何であんなことやったんだろ」。
「今から考えたら、わかんねえ…」。

美乃は、血判状を風にさらす。
風は、血判状を持ち去る。
美乃が心の中で、つぶやく。
『たったひとつ、言えることは…』。

『私たちは、あの瞬間、瞬間を生きていた』。
美乃が持つ、ナイフは錆びていた。
『白く輝く、ナイフのように』。


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Comment

御礼
編集
ちゃーすけさん、
「さびたナイフ」の再現、見事な描写、感謝いたします!

そうです、そうです。この展開でした。
登場人物の背景をあまり詳しく描かず、印象的な断片で読者の想像に任せる傾向が、他の作品より強かった気がします。
そのぶんだけ、より映画的な印象が強い。

当時は作者も若かったはずですから、今思い返すと中年のキャラクターは人物像にやや厚みがなかった気がします(当時は読者である自分こそが幼い)。
本作は、若く幼い4人に描写を絞っているので、そこがまったく気になりません。
90分程度の締った青春映画のほろ苦さ。
お陰様で脳内再現できました。ありがとうございます。

それにしても、河氏は、これらをオリジナルで描いてたのが凄いです。
本当に、復刊してほしいものです。
2018年05月05日(Sat) 06:52
kaoru1107さん
編集
>kaoru1107さん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>「さびたナイフ」の再現、見事な描写、感謝いたします!

こちらこそ、ものすごく印象に残っている作品だったので、背中を押していただいた感じです。

>そうです、そうです。この展開でした。

後から思い出した部分を【追記】として足してあります。
これが70ページぐらいの読み切りに収まっていたと思います。

>登場人物の背景をあまり詳しく描かず、印象的な断片で読者の想像に任せる傾向が、他の作品より強かった気がします。
>そのぶんだけ、より映画的な印象が強い。

そうそう、美乃の生い立ち。
哲也の家庭環境。
この描き方は、こちらにいろんなことを想像させる描き方でした。

>当時は作者も若かったはずですから、今思い返すと中年のキャラクターは人物像にやや厚みがなかった気がします(当時は読者である自分こそが幼い)。

特にバッドエイジシリーズに出て来る大人は、典型的な融通の利かない大人として描かれてました。
「ゆがんだ太陽」の続編の「太陽への道」で、修を引き取った小説家は魅力的な大人でしたが。
そういう、作家が年齢とともに変わって行くのが見られる作品があると、おもしろいですよね!

>本作は、若く幼い4人に描写を絞っているので、そこがまったく気になりません。

大人がほとんど出ない。
愁一の母親と、哲也の母親が一瞬出て来るだけなんですよね。

>90分程度の締った青春映画のほろ苦さ。

ほんと、こういう映画がありそうな作品でした。

>お陰様で脳内再現できました。ありがとうございます。

そう言っていただけると、本当にうれしいです。
こちらこそ、ありがとうございます。

>それにしても、河氏は、これらをオリジナルで描いてたのが凄いです。

ほんとです。
あと、河さんはコメディも良いですよね。

>本当に、復刊してほしいものです。

もっと評価されて良いと思いますし、読みたい人も多いと思うんですが。
ほんとに、映画になっても不思議ないぐらいの作品を描いていました。

コメントありがとうございました。
2018年05月05日(Sat) 22:54












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