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狂っていく歯車 「さびたナイフ」

河あきらさんの「さびたナイフ」。
本が手元にないので、いろいろと間違っている部分はあると思いますが、ご容赦を。
河あきらさんは、この作品の前に「故郷の歌は聞こえない」という作品を描いてました。
その中に、主人公の恋人の義理の兄が出てきます。

彼は義理の妹の主人公の恋人が好きで、親の留守中に無理やり関係を結んでしまいます。
ショックを受けた義妹は家出をし、自殺をしようとします。
電車に飛び込む寸前、ある老人に助けられ、そのままその家で暮らすことになりました。
義兄は義妹への思いを抱いたまま、同じような遊び人風の女性と付き合います。

その女性は自分の恋人が、義妹を好きであることを知りながら付き合っています。
しかし義兄は彼女が撃たれそうになった時、とっさに身を乗り出してかばって撃たれます。
その後、彼女に会った主人公は、彼女の手首にくっきり傷が残っているのに気づきました。
彼がとっさに自分をかばって撃たれたことに衝撃を受けた彼女は、彼が死んだ後、後を追おうとしようとしたのでした。

この辺りの彼女の目。
表情が非常に憂いを含んでいて、印象に残りました。
美乃はこの彼女をもっと美しく、もっとインパクト強く描かれたような感じでした。

当時のマーガレットを見た友達は「哲也も愁一も、美乃が素敵で印象に残らない」と言いました。
その後、美乃のような女性は描かれていません。
河さんの描く美女の集大成が、美乃という感じです。

美乃の生い立ちは、彼女自身から語られています。
おそらく、彼女の母親は故郷に帰った父親と音信不通になったまま、美乃を産んで亡くなったのでしょう。
それで、美乃は愁一の家に引き取られた。

しかしその家では、美乃の父親のことを良く言うわけない。
母のことも悪く言ったのでしょう。
美乃は孤立感を深め、反抗的な少女に成長しました。

でも、愁一の父母は文句を言いながらも、美乃の面倒をちゃんと見ているのです。
美乃の母の遺産があったのかもしれない、そこはわかりません。
だけど美乃は引き取られて、虐待されているわけじゃなかった。
なので、そこまでグレる必要もない気がするのも事実。

美しい容姿、ちゃんと面倒を見てくれる親戚。
今から思えば、全然恵まれている身の上に見える。
でも美乃は、傷ついている。
孤独だ。

美乃は、哲也に髪の色を指摘され時に複雑な表情を見せます。
勇の視線に対する、美乃の言葉はウンザリという風にも感じられます。
小さい時から、美少女であるがゆえに注目される。

くわえて、父も母もいない。
父の顔は知らない。
美乃はずっと、好奇の目にさらされてきていたのかもしれません。
その結果、自分を守るために、ああいう反抗的な少女にならざるを得なかった。

哲也は札付きのワルで、怖いもの知らずに見える。
だが街で美乃が見た時の哲也が語った身の上で、哲也も複雑な家庭に育っていることが伺える。
30前にしか見えない、派手目で綺麗な母親。

10歳も年をごまかして、水商売をしていると哲也は言う。
哲也の母のことを語る言葉は非常に、第三者的。
親子というより、本当に年の離れた水商売の女性と彼女に囲われるツバメのように見える。

美乃が哲也が女性をひっかけてると間違えたのも、無理はないと思える2人だった。
母親の仕事のためか、それとも母親の恋愛のためにか。
哲也は子供らしく甘えるより、母を理解しようと努めたに違いない。
結果、母を冷静に見て、思春期を迎える頃からはまるで恋人のように接するようになったに違いない。

母の恋人に邪魔にされたことも、あるに違いない。
だから哲也は、表面上は強くなった。
地元のチンピラが、哲の顔を知っているほどに。

でも哲也も、傷ついているんです。
美乃と同じく、孤独。
哲也が美乃に惹かれたのは、その栗色の髪とエキゾチックな顔の他に、自分と同じ孤独の香りを感じたから。

そして、美乃が好きだけど、その気持ちを素直に出せない秀才の愁一。
退屈な日常と、注目を浴びたい幼い跳ね返った気持ちの家出少年、勇。
今思うと愁一の犯罪計画は完全どころか、稚拙もいいところ。

捕まらないわけがない。
この辺りの現金強奪がうまく行くという幻想は、三億円事件が影響しているのでしょうか。
あと、今思うといくら現金強奪犯だとしても、日本の警察があの状態で、未成年に威嚇射撃はしないでしょうね。

愁一の死因は、破傷風。
私の母親が子供の頃には、裸足で遊んでいて釘を踏んで、黙っていた兄が祖母にぶん殴られて怒られたなんて話があったそうです。
破傷風を恐れたんですね。

この頃、CMがものすごく怖かった映画「震える舌」がありました。
テレビのCMも、ポスターも怖かった。
エクソシストかと、悪魔憑依のオカルトホラーかと思えるような怖さでした。

ラジオのDJが休憩中、廊下で「震える舌」のCM聞いたけど、こわいねえ~!と言ってたぐらいです。
あれは水たまりで遊んでいて、傷を作り、破傷風に感染した幼い娘とその父母の闘いを描いた映画なんです。
原作もあります。
その症状が本当に怖くて、悲惨。

だからこそ、回復した時に本当に安堵し、生命力の強さに感動できるんですが。
私はあれで、土いじりが大嫌いになりました。
予防注射している世代ですけど。
学校で定期的に校庭の土壌検査とかやってましたが、あれは破傷風菌などがないか調べてたんですね。

「動物のお医者さん」というマンガでは、主人公たちが何の菌か当てる試験が出てきます。
シャーレをうっかり割ったのを見た講師は顔色を変え、消毒をして翌日まで誰も立ち入らないように言い渡します。
主人公たちはそれで、破傷風菌だ!と判断し、「あぶねー!」と騒ぎになっていました。

実は講師のひっかけで、破傷風菌ではなかったんですが。
そんな危ない菌、お前たちに扱わせるか!と。
(この答えはヤクルトミルミルの乳酸菌)。

市川崑監督・萩原健一主演の時代劇映画「股旅」でも、主人公と旅をする3人のうちの1人が破傷風で死にます。
カッコいい渡世人になれず、未熟で、弱くて、惨めな若者3人。
そのとどめが、破傷風での死。
これもかなりきつく、ホラーとは違うけど怖い映画でした。

河さんはこの辺りの映画に影響を受けて、愁一の死因を破傷風にしたのかもしれません。
「バッドエイジ」シリーズの主人公たちには、当時のスターの面影を感じるからです。
アメリカンニューシネマの影響を受けていた時代なのか。
彼らは、映画やドラマの中で良く破滅していました。

ラストは、読んだ子供には衝撃的な記憶として残ったほどに、全員が破滅する。
「俺たち、何であんなことしたんだろうな」と言う勇の言葉。
彼らは普通に感情をこじらせ、普通に思い通りになったりならなかったりの青春を過ごし、大人になるはずだった。
だがその歯車は、狂ってしまった。

全員、子供過ぎて、自分たちのやっていることの重大さがわかっていなかった。
ちょっとした冒険で、若い日の無茶で終わるなら、良かった。
この後の美乃は、どうなったんでしょうか。

おそらく、愁一が道を踏み外した挙句、死んだのは美乃のせいだと言われたでしょう。
愁一の父母が美乃を恨み、憎んだことは容易に想像できます。
少年院に送られたであろう美乃が出所しても、当然、引き取りは拒否したでしょう。

こうなると、美乃は孤児になってしまう。
だから、美乃の父親が探し出された。
日本に残した娘が、そんなことになっているのを知った父親は仰天した。

それで、美乃に連絡を取って来た。
一緒に暮らそうと言った。
日本に居づらい美乃は父親を頼って、ギリシャに行くことにした。
それで結婚を前に思い出の残る場所にやってきた勇と、再会。

河さんは、若い時の一時の無茶で、一生消えない後遺症や傷を抱えたり、死んでしまう主人公たちを良く描きました。
無茶をするのは良いけど、ほどほどにしないと。
一生抱えてしまうような傷を残しては、いけない。
子供や若い読者にそんな警告するために、最悪の破滅を描いたのでしょうか。

勇はともかく、美乃は幸せになれたでしょうか。
確かに、美乃のしたことは愚かだし、犯罪。
反社会的行為。

河さんはちょっとしたことから、若者の歯車が狂って行くドラマを描かせたら、右に出る者はいなかったと思います。
この「さびたナイフ」と「わたり鳥は北へ」は、その代表みたいな作品です。
ゴーゴー喫茶とか、時代もすごく出ているので、本当に復刊してほしい。

言葉もおそらく、あまり通じない国に行った美乃。
ずっと離れていた父親は、美乃に愛情を持っていたでしょうか。
あまり明るい想像は、できません。
それでも美乃は、幸せを見つけたのだと思いたいです。


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Comment

孤高のヒロイン
編集
ちゃーすけさん、
続けざまにありがとうございます。

河氏の読み切りは、影のある若い男性キャラを主役に据えるのが専らでしたが、「さびたナイフ」の主役は美乃。
お友だちが仰った通り、美乃のキャラクターは見事に立っていましたね。

小説なら彼女の背景の描写がもっと必要ですが、「画」の魅力がそれを補い、父がギリシャ人程度の情報で、読者の想像に任せることができた。
美乃の魅力が確立されることで、3人の少年たちの動機が説得力を持つ。
まるで実写映画のキャスティングみたいです。

ままごとのような犯罪の結果、2人の少年が命を落とす。
こんなことで死んでしまうなんて、という感覚。
「傷だらけの天使」最終回、風邪で死んでしまった乾亨が、当時の10代に植え付けてしまったあの感覚。

加えて、美乃も愁一も哲也も、お互いを大して知っていない。
思春期の思慕を土台に、互いを理解していこうとしていた矢先の破滅。
美乃は自死できるほどには、愁一を知ってはいなかった。

ちゃーすけさんが想像してくださった、その後の美乃、ありがとうございます。
そういう軌跡なのだろうと私も思います。
最低限の描写なのに、美乃が魅力的に描かれていることが、「さびたナイフ」の世界を支えていたことを認識できました。
2018年05月06日(Sun) 08:29
kaoru1107さん
編集
>kaoru1107さん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>河氏の読み切りは、影のある若い男性キャラを主役に据えるのが専らでしたが、「さびたナイフ」の主役は美乃。

男性キャラを主人公に描くので、この人は女性なのか?
河あきらさんは男性という噂もありました。

>お友だちが仰った通り、美乃のキャラクターは見事に立っていましたね。

他の作品だったら、美乃は男性にしていたと思います。

>小説なら彼女の背景の描写がもっと必要ですが、「画」の魅力がそれを補い、父がギリシャ人程度の情報で、読者の想像に任せることができた。
>美乃の魅力が確立されることで、3人の少年たちの動機が説得力を持つ。
>まるで実写映画のキャスティングみたいです。

美乃の絵柄がすごく良かったですよね。
他の河あきらさんの描く女性とは違っていた。
だから美乃が浮いた存在であることが、見てわかる。

>ままごとのような犯罪の結果、2人の少年が命を落とす。
>こんなことで死んでしまうなんて、という感覚。

哲也も、愁一も、哲也のいたずらが原因。
草を縛って人を転ばせる、ちょっとしたいたずら。
このいたずらが愁一の破傷風に感染した傷の原因であり、哲也が銃撃される原因になるとは。
河さんの作品の油断できないところは、こういうところですよね。
何が悲劇のきっかけになるか、気が抜けない。

>「傷だらけの天使」最終回、風邪で死んでしまった乾亨が、当時の10代に植え付けてしまったあの感覚。

普通に日常に起きて、何ともないはずのことが人の命に関わってしまう衝撃ですよね。

>加えて、美乃も愁一も哲也も、お互いを大して知っていない。

そうですよね!
美乃に哲也のことを聞いたとしても、大した情報があるわけじゃない。
哲也と愁一に至っては、学校の不良と生徒会長というだけ。
ほとんど会話も成立していないのに。
それがあれだけの重大な事件の共犯者になるところからして、歯車がおかしくなってるんですよね。

「わたり鳥は北へ」の次郎とアザミも同じです。
偽装誘拐で逃避行するというのに。

>思春期の思慕を土台に、互いを理解していこうとしていた矢先の破滅。

哲也は愁一の落ち着き払った態度にイライラしていた。
哲也にそんなデリケートで臆病な部分があるなんて、誰も知らない。
そういうことを知って行って、理解して行って、そこから始まるというのに。
その先がなかった。

>美乃は自死できるほどには、愁一を知ってはいなかった。

あそこで美乃は自分を刺せなかったというのが、悲しかったですねえ…。
そこまでの関係は築けてなかったというのが。
しかも、一つ屋根の下にいたのに。
そういうことでも、この2人はこれからだった。

>ちゃーすけさんが想像してくださった、その後の美乃、ありがとうございます。
>そういう軌跡なのだろうと私も思います。

これも美乃が一言、父から連絡があってギリシャに行くと言っているだけなんですけど。
そういうことなんだろうなあ…と思いました。
そしてそういう父親と一緒に暮らして、言葉もろくに通じない国で美乃は幸せになれたのかなと思うと。
どこまでも哀しい話だと思いました。

>最低限の描写なのに、美乃が魅力的に描かれていることが、「さびたナイフ」の世界を支えていたことを認識できました。

哲也の言っていた栗色の髪も綺麗に描いていますし、あの目。
どこか虚ろで悲しげな瞳。

河さんはその後、美乃のような容貌の女性を描いていないんですよね。
美乃は河さんの絵としては、特殊。
つまり、美乃の描写があの物語世界を成立させていた、そういう風に描かなければならなかった。
だから河さんは美乃の絵を渾身の力で描き、説得力を持たせたと思いました。
おっしゃる通り、美乃は河さん唯一の、孤高のヒロインですね。

懐かしいマンガの話ができて、うれしいです。
コメントありがとうございました。
2018年05月06日(Sun) 22:15












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