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それが妙子の答え!

今年の夏、暑かったですね。
もう25年も前になりますが、93年、記録的な冷夏がありましたよね。
真夏に長袖を着るほど涼しくて、雨ばかり。

デニーズのCMに漫画家・江口寿史さんのイラストで「暑いな~。そうだ、デニーズに行こう」というのがありましたが、途中で放送しなくなりましたもん。
そしてそのまま、夏が終わりました。
秋には米騒動が起きるし、昔なら飢饉になったんだと思いました。

その翌年の94年。2年分の夏が来たような猛暑でした。
夜も気温が25度以下にならない、連日の熱帯夜。
会社を出て、近くにある電化製品の会社の大きなデジタル時計で25という数字を見るたび、「今夜も熱帯夜…」と思いました。

頼むから、2年分暑くならないで。
夏は1年ごとに来てください、って感じでした。
8月の終わりにはニュースで、関西の人が「もう嫌です」と泣いてました。

この年からです。
人の体温の気温を連発。
熱帯夜が何日も、何日も続くようになったのは。
95年の夏も、異様に暑かった。
まだそんな夏に慣れてもいなくて、ゼイゼイ言いながら毎日過ごしてました。

このドラマはそんな暑い夏の中、放送されました。
「沙粧妙子 最後の事件」。
夏の初めにも、佐野史郎さんの「限界団地」を見て、このドラマを思い出してました。

今見ると、佐野史郎さんの池波宗一は本当にすごい。
佐野さんしかできませんね、これ。
原作者にとって、池波は最初は妙子のサポートでしかなかったようです。
それが佐野さんを見ていて、考えが変わったそうですから。


以下、ほんとに全部、ネタバレしてますので、ご注意を。


佐野史郎さんの池波宗一の圧巻なシーンは、妙子との電話です。
完全なる2人芝居。
2人の会話だけで、話が進む。

全ての連続殺人事件は池波宗一が仕組んだものだったと、妙子は知った。
皆、池波の洗脳によって連続殺人犯になったのだった。
池波の姿はもう、ラボにはなかった。
ラボは破壊され、池波は逃走していた。

雑踏の中、妙子の電話が鳴る。
「もしもし」。
「妙子?」
池波からだった。

「姿見せてくれない?」
「こんなことでは、僕たちの関係は壊れないだろう?」
「あたしを説得してくれるんじゃないの?」

2人の会話にはまったく関係なく、人々が行きかう。
「僕は思った。プロファイリングチームで君と知り合ってから何度も」。
「何?」
「君が女でなければ、良かったのにって」。

そう言いながら、池波の表情は変わらない。
「僕たちの関係は、恋愛感情なんて安っぽいものじゃない」。
「もう2人だけだ。この人類の中で、同じ感覚を共有できるのは僕と妙子の2人だけなんだ、そうだろう」。
たたみ掛けるように言う池波。

妙子は池波に尋ねる。
「どうして向山にマニュアルを提供していたの。あれは精巧な洗脳のマニュアルでしょう」。
「サンプルがほしかった。新しいプロファイリングチームのために、もっと多くの」。
「データをたくさん、集めることが必要だった。サンプルが欲しかった」。

「それを向山に悪用された、ってこと?」
「そうさ」。
「向山は日置武雄があまりにも自分の思う通りに変わっていくので、おもしろくなってしまったんだ」。
「わかってほしい」。

妙子は、辺りを見回す。
大きなショッピングモールの中。
人々が右に左に、歩いていく。
だが、池波はどこにもいない。

しかし、本当は池波は妙子の後ろにいる。
少し離れたところで、壁にもたれかかるようにして妙子を見ながら電話している。
妙子は階段を上っていく。

「あなたは向山を殺した。どうして」。
「どうしても」。
妙子は階下を見下ろす。
いない。

「妙子だったらわかるだろう」。
妙子の顔がゆがむ。
「あたしが言ったこと、覚えてる?」
「何?」

妙子は携帯に話しかける。
「心理学に長けていて、犯罪に対して計算高い。これだけ大胆な行動を取れる人間が、2人だけいる」。
「梶浦と、…あなた」。
池波は無言だ。

妙子が言う。
「質問に答えてくれる?」
「何」。

「梶浦どこにいるの」。
池波は応えない。
妙子の声が高く、鋭くなる。
「どこ!」

「梶浦は今頃は全く別の犯罪の準備を始めているよ。妙子のために」。
その言葉に、妙子の顔が苦痛にゆがむ。
池波が言う。

「妙子。僕を理解できるのは君だけだ」。
「君を理解できるのも、僕だけなんだ」。
「恋愛感情なんて問題じゃない」。
「そのことに早く気づいてもらいたくて、僕は梶浦を使った」。

「梶浦を使った…?」
妙子の言葉に、池波が抑揚のない声で言う。
「ここだよ」。

その声で妙子が正面を見る。
正面は、離れた、吹き抜けを挟んだ向かい側の通路だった。
そこに池波がいる。
こちらを見ている。

「もう僕たちは2人っきりなんだ」。
「そうね」。
「良いこと教えてあげる。梶浦に会いたいんだったら方法が一つだけあるよ」。

「どうすれば良いの」。
妙子のすがるような声。
「僕があげた薬を飲めば良いんだ。そうすれば妙子の思い通りの梶浦に会える」。
それは、つまり…。

池波が梶浦を殺害している、ということだ。
妙子の顔が、ゆがむ。
「池波さん…!」

「一緒にやってこ。これからも」。
妙子が目を閉じる。
泣きそうになる。

哀しそうな沙粧妙子。
池波が、妙子を見つめている。
妙子が目を開けた瞬間。
拳銃を池波に向ける。

池波の声が、多少鋭くなる。
「それが妙子の答え!」
妙子は黙っていた。

据わった目を、池波に向けたまま。
拳銃も向けたまま。
「撃ちたいんだろう?」

池波が周りを見る。
吐き捨てるように言う。
「誰に当たったって、かまやしない」。

「あなたまで失いたくなかった…」。
妙子の声は悲壮だった。
「松岡君は良いパートナーみたいだ。君が留まっていられるのは、彼の影響かもしれない」。
「だけど彼を変えるのは簡単だよ」。

妙子の目には、池波が梶浦に見える。
目の焦点が合わなくなる。
池波が笑う。

妙子の呼吸が、荒くなっていく。
池波が真っ赤なバラの花束を持っているのが、妙子には見える。
いや、梶浦が持っている。

妙子の呼吸が過呼吸の発作のように、苦しくなっていく。
目が彷徨う。
もう、妙子には池波を撃つことはできない。

目の焦点が合わず、フラフラになる。
それを見た池波が笑う。
悠々と、携帯電話のイヤホンを外し、池波は人混みの中に消えた。



圧巻の2人芝居。
池波は妙子に何を求めていたのか。
これの前、日置の護送後、妙子が梶浦の幻を見るシーンがありました。
倒れた妙子が目を覚ますと、自分のベッドの横で池波と梶浦が話しているのが見える。

「目が覚めた?」
優しく言って、近寄って来る梶浦。
妙子が手を伸ばす。
その手を梶浦が取る。

妙子が梶浦の首に手をまわし、抱擁する。
微笑む。
その顔は、幸せに輝いている。
刑事の時には見せたことがないような、幸せな優しい女の顔。

妙子が抱きついていたのは、松岡だった。
「沙粧さん…」。
松岡の妙子を見る目には、痛々しさと哀しみがあった。
心から沙粧を可愛そうに思っている目だった。

2人を見ている池波の目は、冷たかった。
何も言わず、池波は出て行く。
きっと、妙子と梶浦を池波はこうして見ていたのだろう。
ずっとずっと。

梶浦、池波、どちらも天才だった。
それと対等に付き合える女性は、妙子だけだった。
しかしプロファイラーではなく、女性として妙子は梶浦を選んだ。
池波は妙子への恋愛感情を、こじらせた男だったのか。

…私は、池波は妙子に恋愛を求めていたわけじゃないと思いました。
自分と妙子の関係は恋愛なんて、浅いものではない。
恋愛なら、いつかは冷める。
でも自分と妙子の関係は、冷めるようなものではない。

自分と妙子はもっと、深いところで理解し合っているのだ。
世界中で妙子を理解できるのは、自分しかいない。
自分を理解できるのも、妙子しかいない。
恋愛など、そのような崇高な関係には及ばない。

池波は、こうも思ったかもしれません。
自分のような存在に必要な相手は、恋人などではない。
必要なのは、自分を理解できる存在。
人類の中で唯一無二の存在だ。

それができるのは、妙子だけだ。
だが妙子は女性だ。
そのために、突き詰めると恋愛にしか行かなくなってしまう。
だから、妙子が女でなければ良かったのに、と池波は言ったのだ。

そして自分がそう思っていたのに、あっさり妙子と梶村は恋愛関係になった。
崇高になれた3人の関係を、梶浦が壊した。
池波は同じ崇高な仲間ではあるが、この時、梶浦をどこかで憎んだ。

池波の気持ちって、そんな感じでしょうかね。
そんな想像をさせるような、佐野さんの池波ってそう言う存在だったんです。
最初に書きましたが、池波宗一は当初の設定では妙子のサポートだけだったそうです。
でも佐野さんを見ていたら、こうなった。

結果として、大正解です。
それほどの存在感が、佐野さんにはあったということです。
「沙粧妙子」は、サイコサスペンスとして名作です。
その理由は佐野史郎という類稀な個性の俳優がいたということが、大きいでしょう。



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