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心理戦! 「必殺必中仕事屋稼業」 第20話「負けて勝負」1/3

嶋屋の座敷の奥。
津川雅彦さん、緒形拳さん、草笛光子さん、林隆三さんの傑作。
それぞれの表情から読み取る、心理戦。
「必殺必中仕事屋稼業」、第20話。
「負けて勝負」。


おせいが西洋札、トランプを手にしている。
「あ、2が2枚」。
「じゃ、3枚いただきましょ」。

そう言うと向かい側に行き「6が3枚」と言う。
また元の席に戻ってきて、ため息をつく。
「女将さん、入ってもよろしゅうございますか」。
利助が来る。

「はいどうぞ」。
あわてて、おせいが札を隠し、平静を装う。
「本日の商いでございます。お改めください」。
おせいは利助が出した、台帳を見ている。

「女将さん、お殿様の札が」。
利助はおせいが隠したはずの、トランプを見つけていた。
「やっぱりいらっしゃるんですか」。
利助の問いにおせいは「まいります」とキッパリと答えた。

薬種問屋大和屋。
とても美しい、女将がお客にお辞儀をすると店を閉め、奥に入って行く。
「お待たせいたしました。離れの方へどうぞ」。
座敷にはおせい、数人の旦那衆が待っている。

女将の名は、お照。
お照の声でおせい、数人の旦那衆が離れに入っていく
そこには、1人の男がいた。

彼を見たお照が「伊三郎さん、あなた、まだお帰りにならなかったんですか」と言った。
「こんな面白い座興が残ってるんじゃ、帰るわけにいきませんよ」。
伊三郎と呼ばれた男は、年齢が半兵衛と同じぐらいだろう。
人形師の伊三郎。

少しなまめかしい感じのする、なかなかの美青年だった。
「ここは旦那様が特に親しかった人だけが集まるんです」。
お照の言い方にはあからさまではないが、伊三郎に出て行ってほしいという気持ちが伺えた。
だが伊三郎は「それじゃ私にも資格がある」と言った。

「実は私の母は」。
その声をお照の「伊三郎さん!」という叫びが遮った。
お照はおせいたちに、伊三郎の母にはお照の父が生前、世話になったのだと話した。

「それじゃさっそく始めましょうか」。
伊三郎の言葉で、5人がテーブルを囲む。
「まず、あたくしの番ですね」。
伊三郎が王様の札を置き、トランプを切り始める…。

半兵衛が、自分の店でエビの天ぷらを作っている。
自分で一つ食べ、繋がれてる子犬にやる。
「闘犬にしてやる」と半兵衛は言う。

「将来はガッチリ稼いで、お父さんに恩返しするんだよ」。
「うちは犬相手の商売じゃないんですよ」。
お春があきれたように言う。

「犬は俺をこき使わねえ…」。
ぼそりとつぶやいた半兵衛にお春が「何ですって?」と聞き返す。
「ほおら、おかあさんとこいきな」。

半兵衛が子犬をお春に抱かせる。
「いじめんなよ」。
そう言うと半兵衛は手桶を持ち、風呂に行く。
しかし、表では利助が待っていた。

利助の顔を見た半兵衛は「負けたのか」と聞く。
「いくら。
「150両」。

おせいがトランプで負けた額だ。
「まだ良い方なんですよ」。
中には、200両、400両負けたのもいると利助は言う。

ただ一人、勝ったのは伊三郎だった。
一晩で千両稼いだ。
「あたくしの名代で」と、おせいは半兵衛を大和屋へ送り出そうというのだ。

ふうん、と言った風情の半兵衛についにおせいは「お願い半兵衛さん!」と叫ぶ。
「あたしもう、悔しくて悔しくて」。
「ねえねえねえ、仇討ってちょうだい!」

いつも冷静なおせいからは、考えられない態度だった。
半兵衛は思わず、にやりと笑った。
「やらせていただきます!」

「良い人に拾われるのよ」。
お春が子犬を持って、空き地に来ていた。
首には、小さな包みがついた首輪をしている。

お春は子犬を放し、歩いていく。
そのお春の前に、伊三郎が現れた。
あわてたお春は「あ、あたしの犬じゃないんですよ」と言った。
「うち、食べ物商売しているんで」。

「良い顔してる」。
伊三郎の言葉にお春はホッとして「かわいいでしょ?」と言った。
「あなたが、ですよ」。

伊三郎の言葉に、お春はきょとんとした。
「あたしは人形師でね、良い手本になる女性を探してるんです」。
お春は吹き出した。
「嫌だ、人形の手本だなんて」。

「この犬はあたしが引き取りましょう」。
伊三郎は子犬を抱き上げた。
「会いたくなったら、美川町の伊三郎を訪ねてきてください」。
お春が笑顔になる。

坊主そば。
まるで良いところの旦那に見える格好をした半兵衛が出て行くところだった。
お春が帰って来た。

「おい、犬はどうした」。
「捨てた」。
「捨てたあ?」
「大丈夫よ、良い人に拾われたから」。

「誰」。
「人形師の伊三郎って人」。
「伊三郎」。

半兵衛の反応にお春が「知ってんの?」と聞く。
「名前だけな」。
半兵衛はお春に「どんな人」と聞いた。

「それが素敵な人なのよお。物静かで」。
お春がうっとりしたように答える。
「てやんでえ。男が見かけでわかるかい!ろくでなしでもしれねえじゃねえか」。
半兵衛の言葉にお春が「あたしの目に狂いはないわよ。ろくでなしを毎日見てるからね」と言った。

大和屋に行った半兵衛にお照が「あなたのことは嶋屋さんから伺ってます」と言った。
「伊三郎さんを負かしてください」。
「一体、どういう人なんです」。

「あの人は、父のお妾さんだった人の息子さんです」。
半兵衛はビックリした。
「お嬢さんとは腹違いで?」
「そうじゃないんです。父親は違う人なんです。とうの昔になくなったそうですが」。

太和屋の離れに、半兵衛が入って来る。
伊三郎がいるのを見て、「こいつが伊三郎か」と思った。
笑顔でテーブルについた半兵衛だが、散々に負けてしまった。

そこで引っ込みがつかないのは但馬屋だった。
100、150。
小判を次々、但馬屋が積み上げていく。

だが伊三郎は、一向に降りない。
但馬屋が、ついに折れた。
伊三郎は、さぞかし良い札を持っているのだろう。
絶対に勝てないだろう。

降りれば、但馬屋はそこで負けになる。
それでももう、負けることには変わりはない。
一体、伊三郎はどんな札を持っているのか。

「ないんです」。
伊三郎が開けた札には、何も揃った番号はなかった。
「ない?!」
「何にも、ない?!」

「…はったりか!」
うわああああ。
但馬屋がガックリと膝を折る。

日も高くなった大和屋から、伊三郎が出て来る。
続いてその背後に、半兵衛が出て来る。
フラフラと、但馬屋も出て来る。

伊三郎は、小判を包んだ風呂敷を持っていた。
後ろにいる半兵衛を振り返って、見る。
「力づくで取り戻そうなんてしませんから」。

半兵衛が人懐こく笑った。
それを見た伊三郎は「半兵衛さん。良かったら家に来て、お茶漬けでも食べて行きませんか」と誘ってきた。
半兵衛は承知した。

伊三郎の包みを「持ちましょうか」と言った。
「いや、結構です」。
誘って来たというの、そのあまりにそっけない言葉に半兵衛はまた笑った。

伊三郎の家には、人形がたくさんあった。
その個性的な人形を、半兵衛はひとつひとつ見ていた。
「なすの糠漬けは、お好きですか」。

半兵衛は人形は儲かるか、伊三郎に聞いてみた。
「いや、だめですね」。
伊三郎は、自分が作る人形は、世間に受け入れられないと言った。
現代風に言えば、前衛的すぎるのかもしれない感じなのだろう。

「何でそんな割の悪い仕事を続けてるんです。博打で食った方が早いのに」。
「意地、ですかね」。
「意地」。
「ええ」。

「例え世間の人には受け入れられなくても、いったん出した表看板。引っ込めるのは悔しい」。
「大人げないと思いますか」。
「いや、いいねえ。あんたがだんだん好きになって来たよ」。

「なすの漬物?」と半兵衛が聞く。
「これですよ」。
伊三郎は植木鉢に入った、なすの小さな木を持ってきた。

そこにはいくつか、袋が下がっていた。
「これをね、こうやって袋を切る」。
袋を切って、出てきたなすを皿に入った水につける。

そして、ご飯の入った椀の上に乗せる。
お茶をかける。
食べた半兵衛は「うん、うんめえや!これがほんとうのお新香だ」と、声を上げた。
「はははは」と、伊三郎が笑う。

半兵衛も笑う。
笑いながら半兵衛は「勝ちてえ」と、心の中でつぶやいた。
「俺はどうしても、こいつに勝ちてえ」。

半兵衛は政吉に、伊三郎のことを話した。
「生きたままの糠漬け?」
「あそこまで徹底してりゃ、けちのつけようがねえや」。

その時、表を人々が走って行くのが見えた。
「但馬屋が?!」と、口々に言っている。
あの但馬屋が、包丁で一家を刺し、自殺したのだった。

伊三郎の家の中で、犬が鳴いている。
それを見たお春が「わあ、元気そうね」と言った。
「良かったわね。良い人に飼ってもらって」。

「来ましたね」。
お春を見て、伊三郎が言った。
「あのお、そこを通りかかったもんですから。犬が元気かしらって」。
「それだけですか。人形を見たいんじゃないですか」。

「さ、どうぞ。お見せしますよ」。
伊三郎は、お春を家にあげた。
たくさんの人形を見たお春は、「わあ、綺麗!」と目を輝かせた。

「イキイキしてるわ!」
「今までのお人形と全然違うんですの」。
人形を見ているお春の背後から、伊三郎が抱きつく。
「いいでしょう、ね?」

「あ、あたし、そんなつもりで来たんじゃないんです!」
「ここに来たのが、その証拠ですよ」。
「いつもそうやって女の人を?」
「あたし、亭主持ちなんですよ!」

お春がキッパリ、拒絶する。
「どうせ女房を、ほったらかしにするような亭主なんでしょ」。
「だったらあなただって、好きなことをする権利がありますよ」。

お春は身をよじって、逃げようとする。
「わかりました」。
さすがに伊三郎は無理強いするようなことは、しなかった。

「今日のところはひとまず、お帰んなさい。でも気持ちが決まったら」。
お春は、ハッと息をのんだ。
「明日も明後日も、同じ時刻に待ってます」。

お春が伊三郎の家を出て行く。
それをじっと、なまめかしい目で見ている伊三郎。
お春は一瞬、立ち止まり、振り向こうかと思った。
しかし、そのまま、歩いて行った。

伊三郎が出かける。
政吉が、後をつける。
伊三郎は、出会い茶屋に入っていく。
座敷には、女が待っていた。

「遅いじゃないの。何してたの」。
女が咎めるように言った。
「何もしてませんよ」。
「まさか新しい人でも、できたんじゃないでしょうね」。

そう言った女がすぐに「できるわけないわよね。あたしがいるんだから」と言った。
「大した自信だな」と、伊三郎が言う。
「だってあなた、私がいなけりゃ暮らしていけないのよ」。
政吉がそっと、座敷をのぞいている。

「贅沢できるんだって、あなたが人形師の修行ができるんだって、あたしが大和屋の身代を継いだからじゃないの」。
女の自信ありげな声に向かって、伊三郎が言う。
「しかしもう、その身代も左前だ」。
女が押し黙る。

伊三郎は続けて言う。
それはそうだ。
遊びには達者な、お照が継いだのだから。

相手の女は、お照だった。
「だけどあなたに儲けさせてあげたじゃないの!」
「おとっつぁんと親しい人たちを欺いてまで!」
あの博打は、いかさまだった。

お照が、グルだったのだ。
「それは、わかってるよ」。
「だったらもう少し、優しくしてくれたって良いじゃないの」。
お照の声が、甘えを含んだ声になる。

伊三郎とお照の2人が密会している間に、半兵衛と政吉は大和屋の離れに忍び込む。
今なら、誰もいないはずだ。
2人が調べると、テーブルに仕掛けがあったことがわかる。
テーブルの上にある札が落ちて、伊三郎の席まで来るようになっていた。

半兵衛と政吉からこれを聞いたおせいは「できることなら命を取らないで済ませたいのです」と言った。
すると、半兵衛が言った。
「博打で殺すってのはいかがです?」
「博打で?」

幸い、伊三郎もお照もまだ、いかさまがばれたことを知らない。
そこでまた博打に誘い、今まで稼いだ金を吐き出させる。
もう一度西洋博打をやりたいと、おせいはお照に申し出る。
資金は2千両。

大金にお照の手が密かに、ぎゅっと結ばれる。
だたあくまで声は冷静に「わかりました」と言った。
「さっそく、伊三郎さんに連絡を取ります」。

その日、お春の頭には伊三郎の「明日も明後日も同じ時刻に待ってます」の声が響いていた。
半兵衛が出かけようとする。
「どこ行くの」。
「今日は蕎麦屋の寄り合いでしょ」。

「今日も朝帰りだったじゃない」とお春がすねたように言う。
「今日は早く帰って来るよ」。
「今夜も一緒に居てよ。じゃないとあたし…」。

「じゃないと何だ」。
お春が、うつむいた。
「あれえ、変だなお前」。

「早く帰って来るよ」。
そう言って、半兵衛は出て行った。
「知らないよ、どうなったって」と、お春がつぶやいた。


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