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ごせんりょう 「必中仕事屋稼業」第20話「負けて勝負」2/3

大和屋の離れでは、おせいがいそいそと伊三郎を待っていた。
「おばちゃん、こっちが早く着過ぎたんだからしょうがないだろう」。
おせいの横にいたのは、政吉だった。

「来た」。
伊三郎が現れた。
「あれ、半兵衛さん皆さん、お早いですね」。

「さっそく始めましょうか」。
おせいは「甥っ子の政吉って言うんです」と言って、政吉を紹介した。
政吉を見た伊三郎は「どうです、ご一緒にあなたも」と誘った。

「やらせてくれますか!」
政吉が、うれしそうに言う。
まるで、小さな子供のような態度だった。
「だめ!」と、おせいが声を上げた。

「あっち行ってらっしゃい、あっちへ」と半兵衛が政吉を追い払う。
それもまた、小さな子供に対するような態度だった。
「では」。
伊三郎が、鮮やかな手つきでカードを切り、配る。

「では、あたしは25両」。
博打が始まる。
「あたしは降ります」。
「では25両」。

テーブルの下で、伊三郎はひそかに、テーブルから落ちて回って来た札を取る。
良い札だ。
「あたくしの勝ちだ。7が3枚」。

伊三郎がそう言ったが、途端に顔がこわばる。
半兵衛の持っている札の方が良かったのだ。
ニヤリと半兵衛が笑う。

博打は進む。
「その上に20両」。
お照が「降ります」と言う。

「20の上に50」。
小判が積まれていく。
伊三郎が札を取る。
ギョッとした顔をする。

ひそかに回って来た札は、全く良いものではなかった。
「合わせて30」。
伊三郎が固まっていた。
「伊三郎さん?」と促され「あ、降ります」と言った。

「ちょっとツキを変えて来よう」。
そう言って、伊三郎は席を立った。
廊下でお照に「ダメだ。仕掛の順番がめちゃくちゃだ」と言う。

伊三郎は、顔を洗う。
そして言う。
「あの半兵衛さえ何とかすれば…」。

部屋に戻ると政吉がおせいに「なあ、約束じゃねえか」と、すねていた。
「やらせてくれよ~」。
それを見た伊三郎はお照に向かって「お嬢さん、あたしにお酒を」と言った。
「はい」。

伊三郎の目が光る。
半兵衛が酒を飲む。
その杯をお照が下げていく。

札が並ぶ。
半兵衛が札を置いていく。
チャリンと小判の音が響く。

「5両」。
「あたしも、あわせます」。
半兵衛の頭が、がくりと下がる。
伊三郎が「半兵衛さんあなたの番ですよ」と促す。

「ああ、5両ですね」。
そう言った半兵衛がまた、がくりと首を垂れる。
「どうかしたんですか」。
「困ったな」。

「ちょっと横にならせてくれ」。
おせいが「半兵衛さん」と、不安げに声をかける。
「横にならせてくれ」。
「こんな大事な時に酔っぱらっちゃって」と、おせいが困惑する。

「敵に後ろを向けましたね」と、半兵衛の背に伊三郎が声をかける。
「代わりに坊やを」と、政吉に参加するように言う。
「ダメ!」と、おせいが言う。

「いいじゃないですか」。
伊三郎の声で、うれしそうに政吉が参加する。
遊びに参加する、小さな子供のような態度だった。

もう、留められなかった。
博打が始まった。
「合わせます」と、おせいが言う。

「その上に何両か、行きますか」。
「1両」。
「1両の上に25両」。

札を取った政吉に伊三郎が「ああ」と言って、制する。
「あなたの番じゃない。あなたの番が来てからね」。
おせいが「1両の上に25両合わせます」と言う。

すると政吉が「これじゃダメだろうな。8がひとつじゃ」と言って、札を見せた。
「見せちゃいけないんです」と、伊三郎が言う。
「人の手が読めちゃうでしょう?」

政吉が口をとがらせて、札を伏せる。
「そうそう」。
「あたし、降ります」。
おせいが降りる。

「1両の上に1両」。
「1両の上に1両」。
伊三郎が賭ける上に、楽しそうに政吉が乗って行く。
「1両の上に2両」。

「2両の上に2両」。
「2両の上に50両」。
伊三郎の言葉に「…降ります」と、政吉が言う。
良い札で、伊三郎の勝ちだった。

また、次の回が始まる。
「降ります」と、おせい。
「じゃあ25両」と、政吉が言う。

「合わせましょう」。
「勝負」。
「2と6の二組」。
伊三郎が、テーブルの上のすべての小判を持って行く。

次の回が始まる。
「10両!」と政吉が、はずんだ声で言う。
ところが伊三郎は、「降ります」と言った。

まだ、掛けてもいない。
「え?」
「降りました」。

「ああー、1と6全部なんだけどな」と言って、政吉が自分の札を見せた。
「そうだろうと思いました」。
だから賭けが始まる前に、伊三郎は降りたのだ。
残念そうな政吉。

「今度は、あなたの初めての親ですよ」。
伊三郎に言われて、政吉がたどたどしい手つきで札を切る。
律儀にみんなに配る。
まるで子供のようだった。

自分の前に置かれた札を一枚、めくってみる。
もう1枚、足す。
さらに、また1枚足す。
目つきは真剣だ。

「50両」。
「まず、あたしの手から替えてもらえますか」。
伊三郎に言われて「あ。そっか」と政吉が言う。

「2枚」。
政吉が2枚、伊三郎に札を渡す。
2枚もらった伊三郎は、無表情だ。
だが伊三郎は、心の中で歓喜していた。

『来たあ』。
『待ちに待った手がやってきた』。
「あたしは2枚ください」と、おせいが言った。

「あなたは替えるんですか、替えないんですか」。
政吉が札を取らないので、伊三郎が聞いた。
だが、政吉は首を横に振る。

しかし、伊三郎が手を伸ばそうとすると「あ、ちょっと」と止める。
「やっぱり替えてみます」。
そう言って、札を一枚とる。

「お望み通り、50両から」と、伊三郎。
「あたくしは降ります」と、おせいが言う。
「50両の上に50両」と、政吉が言う。

「50両の上にもう50両」と、伊三郎が言う。
持っている札からして、伊三郎は絶対に降りない。
勝てると確信している。

「50の上に100両」と、政吉が言う。
積み上げていく小判におせいが「政吉」と腕を取る。
だがその手を政吉は、振り切った。

「100の上に100」。
「100の上に200」。
ついにおせいが叫ぶ。
「おやめ!」

「横から声を出さないでください」。
伊三郎が冷たい声で、おせいを黙らせる。
「200の上に200」。
「半兵衛さん」。

おせいが半兵衛を起こしに立つ。
「200の上に500!」
政吉が手を開いて、5という仕草をする。

そこで初めて伊三郎が、ぎょっとする。
今までは自信満々だった。
だが、政吉があまりに引かない。
引かなさすぎる。

初めて、伊三郎の心に疑念が浮かんだ。
『この手に勝つのは、1の4枚ぞろいだけだけだ…』。
『そんな手が、この男に入るわけがない』。

伊三郎の手は、王様が4枚だった。
『そんな手が、この男に入っているはずがない』。
伊三郎は再び、自信を持った。

「現金がないんだから、手形を書いていただいてください」。
「堪忍してやってください、この現金だけで」。
おせいの声が悲壮に響いた。

「ふざけちゃあ、いけませんよ、いったん口に出したことは、実行していただきます!」
「手形を書いていただきます」と冷酷に伊三郎が言う。
「政吉!」と、おせいが叫ぶ。

「500両」。
政吉が上ずった声で言う。
伊三郎も言う。
「お照さん、あたしにも手形を書いてください!500両の上に千両!」

部屋の中をおせいと、お照が行ったり来たりしている。
「俺は、千両の上に5千両!」
政吉が叫んだ。

「えっ?」
「5千両?」
伊三郎がさすがに、聞いた。

「あなたね、素人が5千両なんてもう、遊びじゃないんだ」。
だが政吉は譲らない。
駄々っ子が座り込むような態度だった。

「よろしい」。
伊三郎が「あたしがね、今アタシの手を見せてやるから。その上であなたが勝てると思うなら、5千両出しなさい」と言った。
「良いですね?」

「はい」。
伊三郎が、札を見せた。
「あたしはこの手なんだ。これでも来ますか」。

札には、王様の絵が4枚あった。
「うん!」と、政吉がうなづいた。
「うん?」と、伊三郎が聞き返した。

「うん!」
再び、政吉が言った。
そして、うなづく。

「何、これでも5千両来るっての?」
「うん!」
政吉が、うなづく。
視線はまっすぐだ。

「わかってんの、あなた?殿さまが、あたしは4枚持ってるんだ」。
「それでも5千両来るの?」
「ごせんりょう」。

政吉の声は、完全にうわずっている。
伊三郎が、目を見張る。
「ほんとに?」
「ごせんりょう」。

政吉の目が座っている。
何かに取り憑かれたように、伊三郎を見ている。
伊三郎が政吉を凝視したまま、動かなくなった。

自分の札を見直す。
視線が落ちる。
『まさか』。
伊三郎の目が泳ぐ。

いぶかしげに、政吉を見る。
『まさか』。
頭を抱える。

その時、おせいが明るい声で言った。
「しめて6500両になりますよ!」
声が弾んでいる。

伊三郎が、おせいを見た。
おせいがニッコリした。
あまりにも晴れ晴れとした笑顔だった。
その笑顔は、自分の勝ちを確信していた。

伊三郎が顔を上げる。
『まさか!」 
伊三郎の口が、あんぐりと開いていく。

扇形に広げていた札を、政吉が1つにまとめていく。
その顔からは、今までの愚鈍そうな表情が消えていた。
笑っている。
いかにも、してやったりという笑顔だった。

『しまったぁ…』。
『仕組まれた』。
『こっちに殿様入れときながら、向こうは1を持ってるんだ』。
『へたなふりして、騙しやがった…!』

伊三郎の目が、目が充血していく。
口元がゆるむ。
目を閉じる。
札を投げる。

「降りたぁ…」。
お照が、へなへなと崩れる。
負けた。
今まで稼いだ以上の金が、政吉に流れていくのだ。

「終わったか」。
半兵衛がむっくり、起きる。
政吉が札を投げる。

そこには、1など1枚もなかった。
『ええ?』
『何にもない?』
但馬屋の時と同じだ。

だが、あの時、ない札を但馬屋に見せてやったのは、伊三郎だった。
ぎゃああああ!
まるで、刺されたかのような伊三郎の悲鳴が響く。
伊三郎が、真っ白になる。

川辺で向き合う、半兵衛と伊三郎。
伊三郎が、懐に手を入れる。
匕首だろうか。
半兵衛に近づく。

緊張が走る。
伊三郎が、懐から包みを出す。
「ぶすり」。

だが伊三郎の手には、匕首はなかった。
「ブスッ、と行きたいところなんだがね。博打の借りは博打で返しますよ」。
「悔しいからね」。

伊三郎はその足で、上方へ行くと言う。
「何しに」。
「修行ですよ修行」。

「帰って来れんのかな」。
「はははっ」。
「その時は、お手合わせ願いますよ」。

「いらっしゃい!」と、受けて立つとばかりに半兵衛が言う。
「あはははは」。
「約束しましたよ」。
去って行こうとする伊三郎だが「そうだ」と言って立ち止まった。

「この人形を、渡してやってほしい女がいるんだ。家へ訪ねて来ると思うんだ」。
伊三郎は小さな、紙でできた人形を渡した。
それは、伊三郎の姿を形どったように見えた。

「良いですよ。女の人にね」。
半兵衛が受け取る。
「いや、そう、大して関わりがある女じゃねえんだが」。

「良い女でね」。
伊三郎の声が、真剣になった。
「女房にするなら、あんな女が良いんじゃねえかなあって程度の女で」。

この伊三郎がわざわざ、人形を渡そうとするのだ。
思いがないはずがない。
伊三郎が遠い目をした。

「じゃ、また」。
伊三郎は、手を振って去っていく。
半兵衛も笑顔で送る。

人形を手に、半兵衛は伊三郎の家で待つ。
「遅いなあ」。
そう独り言を言って、通りに目をやった。
ギョッとする。

こちらに歩いて来たのは、お春だった。
半兵衛が思わず、影に隠れる。
お春の手が、伊三郎の家の格子戸にかかる。

だが開けない。
そのままお春は、家の中を見ていた。
半兵衛の手が、人形をぎゅっと握りしめた。

お春の手が、格子戸から離れた。
背を向ける。
歩いて去っていく。
半兵衛が人形を見つめた。

懐から、カミソリを出す。
スパッ。
半兵衛が、人形の首を切った。
伊三郎に似た人形の首は、畳に落ちた。

半兵衛が出て行く。
勢いよく、格子戸を閉める。
お春はボンヤリ歩いている。

「お春う!」
半兵衛が叫ぶ。
「あらっ、あんた!」

お春が驚いて、振り向く。
「よおっ。どこ行くんだ。買い物か!」
「…、そうそう、買い物!」

「ようし、付き合うよ!」
「えっ」。
「良いから、良いから!」

お春は驚く。
半兵衛は、お春の肩を抱く。
お春に笑顔が戻る。
半兵衛はお春を優しく、包み込むように肩を抱いて歩く。


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