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安部川渡しのこの女。迷わず殺ってください 「新・必殺からくり人」第5話(1/2)

「新・必殺からくり人」、第5話「東海道五十三次殺し旅 府中」。


大きな庄屋の屋敷だった。
闇をつんざいて悲鳴が響く。
壁、障子、いたるところに飛び散る血。
廊下にも血が落ちている。

次々と殺されていく人。
奥座敷には、小さな女の子がいた。
6歳になるお咲。

押し入って来たのは、頬かむりの男。
ちらりとのぞいた顔は、凄絶なまでの美青年だった。
男の名は、春之助。

怯え切った子供は、布団を頭までかぶる。
それを見た春之助は、フッと笑った。
傍らにある三味線を手に取る。

頬かむりを取り、三味線を弾き始める。
累々と横たわる死体に構わず、手下たちは千両箱を運び出している。
歌声が響く。
かなりの歌唱力だった。

子供がそっと、布団から顔を出す。
「お頭」。
「済んだのかい」。
三味線の音が止まる。

「へい。引上げやす」。
「乙」。
「へい」。

お頭と呼ばれた春之助は、すっと美しい手から人差し指を突き立てた。
すうっとその手が、移動し、子供の布団を指さす。
ふとんを握りしめている子供の手は、小刻みに震えている。

じいっとそれを凝視する春之助の顔には、何の感情もない。
指は布団を指さしたままだ。
「へい」と手下が返事をし、子供に近づく。

春之助は立ち去る。
乙吉と呼ばれた男が、お咲を布団から引きずり出す。
お咲の首に手がかかる。

「おじちゃん殺さないで、いやあっ」。
お咲が絶叫する。
「殺さないで!」

関所に、お艶一行が差し掛かる。
旅人の取り調べが厳しい。
噂では庄屋一家に盗賊が押し入り、皆殺しにしたせいだという。

役人が、小駒に目を留める。
「お前も芸人か」。
「はい。駒を使います」。

「やってみろ」。
「お断りします」。
「何」。
「あたし、大道芸人じゃございません」。

お艶のところに逃げ込んだ小駒に、お艶が静かに首を横に振る。
仕方なく、小駒は駒の準備をする。
塩八が口上を述べ始める。

「はいっ」。
小駒の声とともに、駒が飛び、役人の刀の柄に止まる。
「おおっと、そのまま、動いちゃいけないよ」。

小駒が言う。
「動くと駒が飛び上がり、目に突き刺さります~」。
お艶、塩八がフッと笑う。

ブラ平が旅籠で、お艶と落ち合った。
ここ、駿府でもお上の目が光って、芸人にはやりづらい土地になっているが、それは表向き。
江戸で有名な泣き節お艶なら、ぜひ聞いてみたいとお座敷がかかっている。

蘭兵衛がやってくる。
安藤広重の絵に描かれた女を探したが、うまくいかないのだ。
自分はこういう仕事は向かないとぼやく。

お艶は「川人足は、当たってみたんですか」と言う。
「あ、なるほどなあ。そういう手があったなあ」。
蘭兵衛の言葉にお艶があきれて「幸せな人ですねえ、あなたも」と言う。

安部川の川渡し人足には、塩八が当たった。
江戸で有名な安藤広重の絵に描かれた、この女に会いたい。
塩八はそう言った。

その絵に描かれた女は、川人足の担ぐ輿に乗ってこちらを少し、振り向いていた。
絵を見て人足たちは「立花屋のおもん」。
「いやいや、おもんじゃねえ、おもんはもっと丸顔じゃねえか」。
それぞれに女の名前を言っていく。

妖艶な美女が、歩いていく。
女は、茶問屋の壷屋に入って行く。
「おかえりなさいませ」。

番頭の岩蔵が挨拶をする。
女は、あの盗賊の頭・春之助だった。
番頭もまた、あの夜の盗賊の一人だった。

春之助は、途中で取り調べにあったが、女ということで見逃してもらったのだと言った。
役人なんて、ちょろいものだ。
「乙吉のことですが」。

「知ってるよ。娘が1人だけ生き残った。その娘の始末を私は乙吉に頼んだんだけどね」。
蔵では乙吉と呼ばれた男が、吊るされ、折檻されていた。
春之助がろうそくを片手に、近づく。

「いいかい、乙吉。あの子は私の顔を知っている」。
「3日のうち。3日のうちに必ず見つけ出して、始末をつけるんだよ」。
「わかったかい」。
春之助がそう言うと、乙吉は解放された。

お艶が座敷に呼ばれ、喉を披露している。
それを聞いた春之助が、仲居に「誰だい、あの三味線は」と尋ねた。
「今朝方、駿府についた江戸の芸人だそうです」。
「江戸の?」

春之助が、あの芸人を呼ぶように言う。
「番頭さん、一足差に帰ってもらえないか。私はあの人と話がしてみたい」。
「泣き節のお艶さん」。

お金を握らされたブラ平は、お艶にもう一つ、座敷に行ってほしいと頼む。
だがお艶は3つも座敷を回ったと言って、断った。
小駒も眠いと言った。

お艶が帰って行く。
その時、廊下に三味線が聞こえて来る。
耳にしたお艶が足を止める。

お艶の指が、三味線の弦をなぞるように動く。
自然と、歌が出た。
三味線が止んだ。

「お師匠さん、7年ぶりでございます」。
戸が開き、春之助が頭を下げた。
「春之助です。ご無沙汰して申し訳ございませんでした」。
「ご無沙汰はお互い様だけど、まああんた、何でこんなところに」。

「ここは私の生まれ故郷でございます」。
「もともと、6つの頃から江戸育ちですが。父の家が江戸にもございましたので」。
「お父さんは」と、お艶が尋ねる。
「はい、一昨年こちらで亡くなりました」。

「そう、気風の良い男だったのに」。
廊下に立っている小駒の目が、春之助をとらえる。
目を伏せ、しかし今度はもう一度、しっかり春之助を見る。
「小駒、お前、ブラ平と一緒に帰っていいよ。眠いんだろ」。

「ううん、眠くないもの。いじわるね、おっかさん」。
お艶は小駒に、春之助のことを紹介した。
春之助は、6つの時からお艶のところに稽古に通っていた。

空恐ろしいほど、覚えが早かった。
おまけに人形のように愛くるしかったから、ずいぶんみんなに騒がれた。
お艶もこの子は、江戸の浄瑠璃のために生まれてきた子だと熱心に仕込んだ。

「あれはいくつの年だった?」
お艶の言葉に春之助が「18でございました」と答える。
「そう」。

だが18の時に、春之助は神隠しのように姿を消した。
「春ちゃん、いえ春之助さん、あれはいったい、どういうことだったの」。
「今日こそ、わけを聞かせてもらいますよ」。

「それより、どうしてこんな駿府くんだりまで」。
春之助の問いにお艶が「だってもう、江戸はあたしたちのいるところじゃないもの」と言った。
「あの御改革が…」。

小駒が「ダメよ、話がずれてる」と割って入った。
「どうしてあなた、三味線をやめたんですか?」
春之助が流し目をする。
「…女を殺したんでございますよ」。

「えええ?」
「殺した?」
「18の年に心中の真似事をしましてね、女だけが死んじまったんです」。
春之助の妖艶な目が、ふと、笑ったようにも見えた。

旅籠で、塩八が広重の東海道五十三次の「府中」の絵を見て言った。
「この女はほんとに何なんですかね」。
「今度ばかりは、広重先生の早とちりってことはねえんですか」。
お艶が絵を、火鉢の火にかざす。

すると、川人足に担がれた籠に乗った女が赤く浮かび上がった。
『お艶さん。安部川渡しのこの女。迷わず殺ってください』。
『ただし女の正体には、様々な風評があります』。
『落とし穴には、十分ご注意を。昔から、人は見かけによらぬものと言いますから』。

その時、本を読んでいた蘭兵衛の目が、鋭く光った。
横のふすまに走り、戸を開ける。
中に潜んでいた者の腕をつかみ、引きずり出した。
すかさず、お艶がバチを振り上げる。

畳に転がされたのは、お咲だった。
ハッとしたお艶が、バチを引っ込める。
「何だい、この子は!」
あわてて声を上げた。

「おうい、ねえさん、ねえさん」と塩八が旅籠の者を呼びに行く。
蘭兵衛が子供に「痛くしちゃったな」と、肩に手を置いた。
だが子供は怯え切って、口もきかない。
塩八が、宿の仲居を呼んできた。

「こんなところに隠れてて、お咲ちゃん、さあ、行きましょ」。
「すみません」と、お艶たちに仲居が頭を下げた。
「どうして押し入れの中に隠れていたの」と、お艶が聞く。

「この子ちょっと、かわいいそうな子なんですよ」。
「ここの女将さんの遠縁なんですけど、盗人に襲われましてね、家中皆殺しにされましてね」。
仲居の口から語られたのは、怖ろしい話だった。

「だからここで引き取ってからも、何かあったというと、すぐ暗いところに隠れちゃうんですよ」。
「でもここが」と、仲居は自分の頭を指さす。
「おかしくなってますからね、人様の話は何にもわかんないんですよ」。

仲居は「お騒がせしてすみませんでした」と言って、お咲を連れて行った。
「人様の話は分からない?」
お艶は疑問を持った。
蘭兵衛に、「今の話、本当かどうか確かめてくれませんか」と言う。

お咲を肩車した蘭兵衛が、町に出る。
面をかぶった飴売りが太鼓をたたいてやって来る。
お咲は怖いと叫んだ。

「こわい、こわいよ」。
「どうした。大丈夫だ」。
蘭兵衛は飴屋に「一本くれ」と言って飴を買った。

「大丈夫だよ、お咲坊」。
面をかぶった飴売りは去っていく。
「うまいか」。
「うん」。

お咲を肩車して通りがかった蘭兵衛を見て、店の中で帳面をつけている手が止まった。
ぎゅっと、向かい側の手を握る。
それは岩蔵と春之助だった。

春之助が手下を呼び、後をつけさせる。
蘭兵衛とお咲は、川のほとりにやってきた。
後をつけていく手下。
川に笹船が流れて来る。

「お咲坊、そんなに人前に出るのが怖いか」。
「それで押し入れの中に入っていたんだな。よほど怖い目に遭ったんだなあ」。
ちらりと蘭兵衛が、横を見る。

「そうか、お咲坊、何も覚えていなかったんだな」。
お咲がうなづく。
蘭兵衛が、、石を手に取り投げる。

投げた石は、木の前にいた手下に当たりそうになった。
驚いた手下は逃げていく。
手下が逃げるのを見た蘭兵衛が「さあ、行こうか」とお咲に声をかける。

「ふう」。
小駒が空を見てため息をつく。
「何だい、ため息なんかついたりして」。
洗濯をしている塩八が言う。

「ひどいねえまったく、あんないい男生まれて初めて見たって、それじゃあたしの立つ瀬がないでしょ」。
「だって本当だもん。本当にいい男なんだもん」。
「あのね、小駒ちゃん、あたしの目をじーっと見てごらん」。

「本当にいい男って言うのは、あたしのような男を言うんだよ」。
塩八を見ている小駒の目が、とろんとし始めた。
だが次の瞬間、「ばかばかしい!」と言って立ち上げる。
「ああー、まだ修行が足んねえな」と、塩八がぼやいて洗濯に戻る。

小駒は、茶問屋・壺屋に行く。
「ごめんくださあい」。
出てきたのは番頭の岩蔵だった。
小駒がガッカリする。

当方は小売りはいたしませんと言われて、小駒は出て行く。
帰りかけて小駒はやっぱり、戻ってきて「あの、旦那様はいます?」と聞いた。
「旦那?」
「春之助さん!江戸の小駒が来たと言ってちょうだい」。

小駒は、座敷に通された。
奥で春之助が茶をたてている。
小駒がその姿を見て、うっとりする。

「どうぞ」。
小駒の前に、茶碗が置かれた。
「ありがとうございます。あのお、これ、どうやって飲むんですか」。
「お好きなように」。

「そう」。
小駒は両手で茶碗をつかんで飲む。
うっ、苦いという顔をして、茶碗を置く。
その間、春之助は全くの無関心だった。

イライラした小駒が突然、「私、あんたなんか嫌いよ」と言う。
「でもね昨夜の話で、ちょっと気になることがあったから聞きに来ただけよ」。
「ほう、一体何でございます」。
「心中したって言ったわね。あれは、嘘ね」。

「噓?」
「それはいったい、どうしてでございますか」。
「だって本当に心中したのなら、江戸じゅうの噂になるはずだわ」。
「おっかさん、何も知らないって言ってたもの。嘘に決まってます」。

「もみ消したのでございます。死んだ父が大金を使いましてね」。
「それでなきゃあ、私なんかとうの昔に島送り。女一人を殺してるんでございますからね」。
「それより、私がなぜ心中をしたのか、聞きたくはありませんか」。

「聞きたいわ」。
「新内のため」。
「新内のため?」

「昔、お師匠さんに言われましてね。お前はまだ子供だから、本当の芸はわからない」。
春之助の美しい顔は、相変わらず無表情だった。
「浄瑠璃のお手本、男と女の命がけの気持ちをまるでわかっちゃいない」。

「少しばかり器用に歌えるからと言って、うぬぼれちゃいけないよって」。
そこまで言うと、春之助は小駒をちらりと見る。
「それで女を殺してみたんです」。

「殺してみた…」。
「この世に別れを告げる時、男と女はどういう気持ちになるのか」。
「何をするのか。そのわけを知りたいと思いまして」。

その言葉には、何の感情もこもっていなかった。
女を一人、殺したと言いながら、そこには何の情もないようだった。
春之助が、小駒を見る。
小駒が凍り付く。

まるで蛇に睨まれたカエルのように、身動きができない。
「旦那さま」。
岩蔵の声がする。
「ちょっと失礼」。

春之助が廊下に出る。
その途端、まるで呪縛が解けたように小駒が動く。
横向きに腰を抜かしたように、小駒が膝を崩した。

岩蔵が春之助に囁く。
「娘の居所がわかりました」。
「どこなんだ」。

「安倍川町の旅籠です」。
「早い方が良い」。
「今夜中に娘を片付けるんだ」。
岩蔵も、乙吉もうなづく。

塩八が走る。
お艶に去年、広重先生が来た時、3日3晩その女の絵姿を描き続けたらしいと報告に来たのだ。
標的が見つかったかもしれない。

お艶は、蘭兵衛に塩八と一緒に確認しに行ってほしいというが蘭兵衛は断る。
今夜はこのお咲坊と一緒だと言うと、蘭兵衛はお手玉を手にお咲と外に行ってしまう。
仕方なく、その女には塩八だけが会いに行くことになった。
その女と言うのは、花街で太夫をしているらしい。

お艶とブラ平が旅籠を出て行く時、小駒が走ってやってくる。
「小駒」。
「おっかさん」。
小駒は、息を切らしている。

「春之助さんって怖い人…」。
そう言って小駒は、ふらふらと階段を上がって行く。
お艶は首をかしげながらも、出て行く。

塩八は江戸から、広重の描いた絵の女を見に来た酔狂な旦那に扮していた。
絵に描かれたという、太夫がやって来た。
しかしその太夫は重量級の巨大な体をしていた。

「あんた、本当に安藤先生ごひいきの?」
唖然とした塩八が聞いた。
「やんだねえ、江戸の人はいつもこれだから」。
太夫は豪快に笑うと、塩八を組み伏せた。


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