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つらい仕事でした 「新・必殺からくり人」第5話(2/2)

旅籠では、小駒がお咲を風呂に入れてやっていた。
「あつぅい」。
「熱い?」
そっと、小駒の後ろの窓が開く。

黒づくめの男たちが3人。
目配せして、入り込もうと廊下に回る。
その時、男の一人、乙吉の足の指の付け根に刃物が刺さった。
血がにじんでくる。

思わず、乙吉は刃物をつかんだ。
刃物は、戸の向こうから突き出されていた。
すっと刃物が、引っ込んでいく。
乙吉は思わず、手を離した。

戸が開き、蘭兵衛が姿を現す。
刺された乙吉は地面に転がる。
男たちは蘭兵衛に刃物を向け、後ずさりしていく。

「生き証人のお咲坊を消そうってわけか」。
「盗人稼業もなかなか骨が折れるなあ」。
男たちがドスを手に、かかってくる。
だが蘭兵衛には、まったく歯が立たない。

「覚えてろ!」
男たちが逃げていく。
騒ぎに気付いた小駒が「蘭兵衛さん」と窓から顔をのぞかせた。

「後を頼むぞ」。
男たちは茶問屋・壺屋へ逃げ込んだ。
蘭兵衛が後を追って来て、確認した。

店の奥、座敷では春之助が三味線を弾いている。
「旦那さま」。
「申し訳ございません。仕損じました」。
「そう」。

春之助が、スッと立ち上がる。
そして岩蔵の頬を、パッと打った。
だがその手の勢いは、途中で失われる。

春之助は、岩蔵のドスを手に取る。
岩蔵は身動き一つしない。
ドスを見た乙吉が、すがるような目で春之助を見た。

春之助が、ケガをしている乙吉の手を取る。
取られた乙吉の、手が震えている。
春之助は、一気にドスを乙吉に突き刺す。
「死んだおとっつぁんが良く言ってたっけな」。

「盗人は、臆病でなきゃ勤まんねえって」。
「度胸の良い盗人は、覚悟の上じゃ死ねねえって」。
乙吉が絶命すると岩蔵が「散りますか」と聞いた。
「ああ、みんなに金を分けてくれ。いつものようにここを出よう」。

お艶が呼ばれたお座敷で、三味線を弾いている。
乱痴気騒ぎの座敷だが、お艶の目には何も入っていないようだ。
酒を持ってきた旦那にも、身じろぎもしない。
おもしろくない旦那は、悪態をついて下がる。

お艶は、春之助の目を思い出していた。
歌っているお艶の目が、悲壮な色を帯びてくる。
蘭兵衛が、ブラ平に報告している。

間違えない。
標的は、春之助だ。
「蘭兵衛さん、あそこの旦那はうちの座長の…」。
「だからあんたに頼むんだ。壷屋・春之助の正体を見極めてくれ」。

ブラ平が立つ。
小判が一面に貼りつけられた赤い腰巻を、男たちが身に巻き付けて行く。
番頭の岩蔵を除く男たち4人が、女装をしている。

岩蔵が、小判が入った手ぬぐいを渡す。
春之助が鏡に向かって、紅を塗っている。
天井裏に潜んだブラ平がそっと板を外して、のぞく。

ブラ平がお艶たちのところに、帰って来た。
「春之助は女ですよ」。
お艶が仰天する。

「奴は男ですが、絵の中じゃ女なんです」。
「一家皆殺しの盗みをやっちゃ、女に化けて取り締まりの網を潜り抜ける」。
「ご覧なさい」。

ブラ平が、広重の「府中」の絵を見る。
絵には、川人足に担がれた籠の女の顔がある。
こちらを少し、振り向いているその顔。
「これはどう見たって、追われる女の顔ですよ」。

春之助の美しい女姿。
お艶は、三味線を教えていた春之助の姿を思い出す。
愕然とする。
しかし立ち上がって言う。

「ブラ平。ついとくれ」。
「へい」。
「俺も行こう」と蘭兵衛が立ち上がる。
塩八が「あっしも」と言うが、蘭兵衛は「おめえは小駒ちゃんとお咲ちゃんを頼む」と言った。

闇の中、3人が歩く。
お艶、ブラ平、その背後を蘭兵衛。
壷屋の裏木戸が開く。
女が姿を現し、表を歩くお艶を見て、また中に入る。

路地の向こうには、お艶が三味線を持って歩く姿がある。
お艶とブラ平がいなくなると、再び女が出て来る。
誰もいないのを確かめて、外に小走りに出る。

壺屋からは、4人出てきた。
表通りに出る寸前だった。
ぎゃあっ。
先頭にいた男が声を上げ、笠が宙に舞った。

蘭兵衛が走って来る。
ドスを振り上げて応戦しようとした1人が、アッサリ斬られる。
返す刃で、残りのドスを振り上げた1人を斬る。

ブラ平が走って来る。
蘭兵衛は逃げる。
壺屋では岩蔵が「お頭、さあ、まいりましょう」と声をかけた。

岩蔵が戸を開ける。
春之助が出ようと外を見て、「お師匠さん…」と言う。
驚いた春之助が、戸の影に隠れる。

お艶が、蘭兵衛と立っている。
岩蔵が戸を閉めようとする。
お艶がバチを投げる。
バチは戸の根元に突き刺さり、戸は閉められなくなった。

ブラ平が、ろうそくを手に立っている。
お艶の手が伸びて、ゆっくりとバチを抜く。
「春之助さん。命をもらいにまいりましたよ」。
春之助が真っ青になる。

女装した手下が突然、ドスを手に突進してきた。
お艶が軽々と避ける。
蘭兵衛が手下の正面から、仕込み杖を刺す。
男が倒れる。

ブラ平が、油を口に含む。
春之助が、岩蔵の背後に隠れる。
岩蔵が手を伸ばし、春之助をかばう。
「見逃してやってくれ」。

「若旦那だけは見逃してやってくれ。俺は先代からこの子の命を預かってるんだ」。
「命だけは助けてやってくれ」。
春之助が逃げていく。

ブラ平が炎を吹いた。
ぎゃあああと、岩蔵が悲鳴を上げた。
「うわあああああ」。
岩蔵の絶叫が響く。

蘭兵衛が黒子の衣装をめくり、顔をのぞかせた。
座敷には、春之助が座っている。
ブラ平が店から出て行く。
フッと、ろうそくの灯を消す。

春之助の三味線が響く。
廊下でお艶も三味線を弾く。
お艶のシルエットが、障子に映る。
三味線の音が響く。

お艶が姿を現す。
春之助はこちらに背を向けて、三味線を弾いていた。
やがて、三味はやんだ。

春之助がバチをひらめかせた。
キッとお艶を睨む。
立ち上がり、走って来る。
くるくると、舞うように体を回転させる。

相手を惑わすためのその舞いは、お艶には通じなかった。
お艶のバチが、春之助の首元に刺さった。
春之助の目が、虚ろになる。

お艶が手ぬぐいで、バチを押さえる。
バチを抜く。
春之助は今度は、逆向きに回転していく。
そして倒れる。

お艶が近づく。
手ぬぐいで、春之助の顔を覆う。
部屋の隅には鏡台と化粧道具があった。

翌朝。
お艶は、川人足の担ぐ輿に乗って川を渡る。
すでに渡って、お艶を待っている小駒が手を振る。
ブラ平と塩八、蘭兵衛もいる。

『広重さん』。
『府中の仕事も終わりました』。
『今際の際の、春之助の三味線。今も耳元に聞こえます』。

『それは男と女。人と生まれた哀しみを超え、天を恨む音とも聞こえました』。
『つらい仕事でした』。
『お艶。他、一同』。

広重の東海道五十三次「府中」。
人足に担がれた籠に乗った女。
こちらをちらりと振り返る女の顔が、少しだけ見えている。
それは逃げる女の顔…。


「人の一生は旅に似ていると言いますが、本当にそうでございますね」。
緒形拳さんの安藤広重の声で始まる、「新・必殺からくり人」。
やっぱり良い声、良いナレーション。

なぜ、突然「新・必殺からくり人」なんだ!
突然、しかも5話から。
自分でもよくわかりません。
たまたま見たからです。

「新・必殺からくり人」、あの名作「新・必殺仕置人」の後番組だから大変だったと思うんです。
闇の世界の住民の生き様と死に様を描いた集大成みたいなラストでしたから。
この後、同じようなことをするわけにもいかない。

そこで、東海道五十三次殺し旅。
発想がすばらしい。
実在の人物と、実在の絵画を使っている。

永谷園のお茶漬けに入っていた、東海道五十三次の絵。
私なんか単純なんでこのシチュエーション、すっと入って行けたわけです。
それで見直すと、「新・必殺からくり人」おもしろいんです。
人と動物の絆が胸を打つ話があったり。

「暗闇仕留人」の糸井貢は、高野長英門下の秀才でした。
この蘭兵衛は、その師匠の高野長英なんです!
貢は、仕留人としては相手は十分、殺す理由はある。
だが、もしかしたら別の側面もあるかもしれない。

誰かの愛する人、誰かの必要とする人、そう言う人を自分は一面だけ見て殺しているのではないか。
自分たちがやったことで、世の中変わったか?
不幸になる人を増やしただけじゃないのか?
すごい、答えが出ないことを悩んだわけです。

だけどその師匠の高野長英さんは、あっさり逃亡するために裏の稼業の人間となりました。
そして、またまたあっさりと裏の仕事をこなしていくのでした。
貢さーん、悩むことなかったのよー。
割り切れなかった貢さんは、やっぱりこういう仕事には向いてませんでしたね。


さて、この5話のすごいのは、何と言ってもピーターさん。
「必殺からくり人血風編」でからくり人側を演じていました。
その時も男っぽさと、女性と見まごうばかりの妖艶さを生かしていました。

しかしこの春之助はその上を行く。
ピーター七変化が見られる話。
それも、女に化けて逃げる盗賊だから。

この存在に説得力を持たせるのは、ピーターさんという存在。
春之助はこの人にしかできません。
冒頭の5分で、春之助と言う男がどういう男か、完璧にわかります。
この構成、見事です。

子供に三味線を弾いて聞かせる。
これは和ませるために弾いているのではない。
聞いている子供が、どれほど怖いかわかっていて弾いている。
この子、もう一生、三味線聴けませんよ。

そしてためらいもなく、指差す。
殺せ、と。
その美しい指先で。
美しく、残忍な悪魔・春之助。

超絶に美しい者が持つ、傲慢さを確かに持っている春之助。
春之助は小駒には、これっぽっちの興味も持っていない。
一方の小駒は、どうしようもなく春之助に惹かれて行く。
蘭兵衛とは、似ても似つかないのに。

一方、蘭兵衛はトラウマを抱えて心を閉ざしたお咲も懐くほどの健全さ。
この頃の近藤正臣さんの良い男ぶりったら、ないですね。
蘭兵衛が健全であればあるほど、春之助の悪は際立つ。
この2人の交流は、陰惨な話の中、とても微笑ましい。

お咲ちゃんですけど、頭おかしくはなかったですね。
怯えていただけ。
もうお咲を追うものはいなくなったし、あの旅籠で、幸せになれた。
そう考えたいです。

もう一つ、ほほえましいというか笑えるのは、広重の描いた女に会いに来たという塩八と太夫のシーン。
太夫はアキ竹地さん。
広重が描いていったのが本当なら、この鬼太郎太夫との時間がすごく楽しかったんだと思いますよー。

さて、小駒はまるで吸い寄せられるように春之助に会いに行き、そして恐怖して帰って来る。
春之助は小駒を震え上がらせて、返した。
そんなことしなくても良かったかもしれない。

ではなぜ、そんなことをしたか。
二度と自分に会いに来ないように。
春之助が小駒をお艶の娘だとわかっていたから、返したのか。
お艶へのせめてもの、礼儀だったのか。

もしくは、あまりに子供過ぎて春之助の相手にならなかったせいか。
小駒もどこかでそれを感じていたから、
あんたなんか嫌いよと言ってしまうぐらい子供ですから。

春之助が殺した女性が、見えるよう。
魅入られて、誘われるままに心中話に乗り、そして殺された。
おそらく、この女性は春之助の魔性を解放するために必要なきっかけだったにすぎないでしょう。

愛してもいなかったはず。
ただ、人を殺したかったのではないか。
ここで魔性を解き放った春之助は、外道の盗賊の頭となる。

若旦那だけは助けてくれ、という岩蔵。
大林丈史さんが演じています。
あんなに人を殺しておいて、何が若旦那だけは助けてくれ、なのだと思ってしまう。

聞きようによっては、若旦那に尽くすけなげな番頭。
この子の面倒を頼まれたって岩蔵は言ってますけど、春之助見ると邪推してしまいます。
岩蔵は、春之助に惚れていたのではないか。
春之助は、岩蔵を惚れさせていたのではないか。

発見された壺屋、春之助たちは、どう思われたでしょう。
女装しているし、腰巻に小判は貼り付けられているし。
これが盗賊一味で、仲間割れ…ということで片が付くのでしょうか。

最後の、お艶との三味線の二重奏。
師匠とこんな再会と別れになる、お艶にはまさに恨みと哀しみの三味の音となる。
殺陣も美しい。

お艶の知っている6歳の春之助はただ、愛らしく、才能のある子供だったのかもしれません。
だとすると、春之助は、どういう人間なんでしょうね。
芸の道に生きたかったのに、盗賊の頭の子供と生まれて、それがかなわなくて道を誤ったのか。

自分では抗えない悪の欲望を心の底では、嫌悪し、哀しんでいたのか。
美貌の悪であることを、楽しんでいたのか。
お艶の最後の言葉からは、そんなどうしようもない魔性の人間として生まれてきたことを恨んでいたように思えます。

誰かが殺さなければ、いけなかった男。
いろんなものを感じとる才能があった広重は、春之助の妖気を十分に感じたはず。
迷わず殺してくれと、言いたくなったでしょう。

お艶さんだから、対抗できたようなもの。
生半可な女優だったら、霞んでしまったかも。
それほど、この春之助は危険に魅力的。

春之助の美しさ、怖さ。
狡猾さ、残酷さ、冷酷さ。
悪党ぶり。
男ですけど、春之助は「必殺」シリーズを代表する魔性の女と言えましょう。


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Comment

春之助を悪へと導いたのは、お艶の一言が原因?
編集
「思いやりとか人として持つべき感情」を敵視してるように見えますよね。もしかしたら「女が死んで悲しい」と思えなかったから、では自分の父親ならば…って殺したかもしれませんよね。そして「悲しい」と思えなかった。岩蔵も「仕えていた春之助の父親」を守り切れなかったから、代わりに春之助を守ることで贖罪…とか、勝手に妄想して観てました。(「巷説百物語」にありそうですが)
 
このプロットなら現代劇でも出来そうですが、流石に放送できないかな?

TVKではこの話、再放送して半月くらいしか経ってないんで超タイムリーでした。
2018年09月05日(Wed) 01:00
地味JAM尊さん
編集
>地味JAM尊さん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>春之助を悪へと導いたのは、お艶の一言が原因?

あれだけの悪を重ねるわけですから、いずれは悪の道を歩んだとは思いますが、きっかけにはなったのではないでしょうか…。

>「思いやりとか人として持つべき感情」を敵視してるように見えますよね。

彼の生い立ちに何があったんでしょう。
父親の話は出ても、母親の話が出ないところも気になりました。

>もしかしたら「女が死んで悲しい」と思えなかったから、では自分の父親ならば…って殺したかもしれませんよね。

父親のことを、お艶が気風の良い…と言っている。
外道みたいな盗賊だったのでしょうか?
岩蔵が父親からこの子を頼まれたと言っているし…。

>そして「悲しい」と思えなかった。岩蔵も「仕えていた春之助の父親」を守り切れなかったから、代わりに春之助を守ることで贖罪…とか、勝手に妄想して観てました。(「巷説百物語」にありそうですが)

あれだけの残酷な悪事を重ねていながら、若旦那だけは助けてくれ、ですからね。
その若旦那はいざとなったら岩蔵も捨てて逃げるであろうことは、見ていてわかるのに。

描かれていない部分まで想像させるのは、優れたドラマや映画にあることですが、これもまたいろんな想像ができます。
良いドラマですよね。

>このプロットなら現代劇でも出来そうですが、流石に放送できないかな?

凄まじい話になりますね。
でも使える設定ですよ。

>TVKではこの話、再放送して半月くらいしか経ってないんで超タイムリーでした。

あっ、そうだったんですか!
それは良かった。

コメントありがとうございました。
2018年09月08日(Sat) 21:28












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