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こんなはずじゃなかった… ミステリースペシャル「満願」 第2夜「夜警」

ミステリースペシャル「満願」、第2夜「夜警」。
見逃したのを昨夜、再放送で見ることができました!
評判通り、すばらしいドラマ。
主人公・柳原は安田顕さん。


「川藤の葬儀が終わって、2日経った」。
「つくづく思った」。
「この交番にいたのは、警察官に向かない男だった」。

柳岡の勤務する緑川1丁目の交番に、新人警察官の川藤浩志がいた。
川藤は、殺傷能力がある大型ナイフを振り回して暴れる夫から妻をかばい、殉職した。

殉職の前、暴れる夫に向かって川藤は拳銃を発射していた。
弾丸は5発。
そのうちの4発が、夫に命中していた。
だが夫が倒れる際、川藤の頸動脈をナイフが切り裂いたのだった。

警察は発砲は適切なものだったと発表した。
妻をかばって殉職した若き警察官を、世間は賞賛した。
川藤の葬儀で、署長は川藤の殉職を感動的に語った。

葬儀には川藤の兄・隆博もいた。
署長のヒロイックな弔辞を聞きながら柳岡は心の中で、つぶやく。
「会ったこともないくせに」。

そして柳岡は、監察官に呼ばれる。
5年前のように、川藤にきつく当たっていたのではないか?
柳岡は、川藤の部屋を訪ねる。
部屋には兄の隆博がいた。

柳岡は言った。
人質が助かったのは、浩志さんのおかげですと。
だが、兄は言う。

本当にそう思っていますか?
弟は、自己犠牲を払うような男ではない。
柳岡は、自分の知っている川藤を思い出していた。

川藤が着任して間もない、ある夜。
スナック「さゆり」で酔った客が興奮して暴れていると、通報があった。
柳岡と同僚の梶井、川藤の3人で駆けつける。
男は興奮し、酒瓶をつかんだ。

「このまま警察行くか?」
柳岡の一言で男はビビり、酒瓶を置いておとなしくなった。
その騒ぎの最中、柳岡の同僚の梶井は川藤を見ていた。

夜勤が終わった朝、柳岡は川藤を歓迎会というわけではないがと食事に誘った。
しかし川藤はそう言うのが苦手だと言って、断って帰った。
交番裏で、柳岡と梶井はタバコを吸っていた。

梶井は言った。
一昨日駅のトイレに銃を置き忘れた警察官がいて、みんなが叱咤された。
お前たち、最近たるんでんじゃないのか、と。

「とばっちりもいいところだな」と、柳岡は言った。
だが梶井は応えない。
「どうした?」
「川藤、厳しいっすね」。

「昨夜の『さゆり』のケンカですが、あいつ、腰に手をやってたんです」。
川藤は震える手で、拳銃に手をかけていたという。
「あの程度のケンカでてんぱってるようじゃ、先が思いやられますよ」。

また、ある日。
川藤は居眠りをしていた。
柳岡はそれを見るが、声をかけない。
腕組みをして座っている。

梶井が帰ってきて、それに気づき、川藤の頭をはたく。
「ちょっとたるんでるんじゃないか」。
「はい、気を付けます」。
「顔洗って来い!」

柳岡と川藤が見回り、警邏をしている。
一方通行の道を反対側から、車が入って来た。
「川藤、やってみろ」と柳岡が言った。
「はいっ」。

川藤が、自転車を止めて車に走る。
とんとん、と窓を叩いた。
「こんにちは」と、運転手が挨拶した。
川藤はいきなり「あんた、わかってんのか。ここ一方通行だぞ。免許証!」と言った。

運転手が不愉快な顔になる。
窓を閉めた運転手に、今度は柳岡が窓を叩く。
「まだ何か?」

「バックするのは無理でしょう。車が入って来ないように止めますから、このまま抜けてください」。
柳岡はそう言うと、「川藤」と言って、川藤に誘導するように言った。
「はい」。

川藤は渋々、車を誘導した。
「行くぞ」。
「はい」。

緑川交番の隣で、工事をやっている。
「食事入ります」。
川藤が席を外す。

「本人的には納得できなかったようです」と梶井が言う。
川藤が「食事が終わったらもう一度警邏に出ます」と言う。
「一緒に行ってくれ」と柳岡が梶井に言うが、川藤は「1人で行きます」と言った。

柳岡は帽子をかぶり直して、川藤に向かい合う。
「警察学校で何を教わってきた」。
穏やかだが、声に凄みがあった。

視線は強かった。
「1人で、しかも新人を出すなんてできるわけないだろう。お前が配属された日も、そう注意されたよな」。
「すいません」。
柳岡の睨みに、川藤は目をそらした。

外に出た柳岡は、警邏に使う自転車の後ろの、白いボックスを開けていた。
梶井が「どうしました?」と聞いてきた。
「カギをかけ忘れたんだ」。
「ええ?」

川藤は、ボックスのカギをかけなかったらしい。
「俺たちに気付かれずにカギをかけるつもりだったんだ」。
1人で警邏に行くと言ったのは、これが原因だったのだ。
「だったらそう言えばいいのに」。

梶井の言葉に柳岡は「あいつは小心者だ。叱られるのが怖かった」と言った。
「やっぱり向いてませんね。警察官には…。一言、注意しておきます」。
「きつく言うな」。
柳岡の言葉に、梶井は頭を下げた。

川藤の部屋。
兄は柳岡に、酒を勧めた。
「自分は結構です」。
「非番なんでしょ?」

その時、部屋に電話がかかって来る。
兄が立ち上がって取った。
「ああ、申し訳ありませんが、取材はお断りしてるんで」。

マスコミが弟を英雄扱いしている、と兄は言った。
「確か、ご出身は福岡ですよね」。
兄は言った。
弟の浩志が生まれてすぐ、父親が愛人と駆け落ちした。

その後、母親が兄弟を育てた。
だがその母親も、早死にした。
それからは兄が育てた。

「ご苦労なさったんですね」。
「ダメな弟でしたよ。警察官になんてなっちゃいけない人間でしたよ」。
「厳しくしごいてやめさせてほしかったですよ」。

柳岡は心の中でつぶやいた。
そうできていたら、どんなに良かっただろう。
1年前、柳岡が地域課に異動する1年前、刑事課に三木という新人が来た。

面構えも良く、ガタイも良かった。
良い刑事になりそうだった。
だが彼が見掛け倒しだということは、すぐに分かった。

ある日、犯人を追っていた柳岡と三木は二手に分かれた。
犯人は、三木の方に逃げた。
三木と向かい合う形になった犯人は、ナイフを手にした。
その途端、三木は腰を抜かした。

腰を抜かした三木の顔を蹴り飛ばして、犯人は逃げた。
顔面から出血した三木を見て、柳岡は何やってんだバカ野郎と怒鳴った。
後で三木は、腹が痛かったと言い訳をした。
柳岡は「このでくの坊が!」と怒鳴った。

こいつは警察にいない方が良い。
いれば必ず、俺たちにとばっちりが来る。
そんな俺の態度を見て、仲間も三木への扱いを変えた。

刑事部屋で三木は他の刑事たちに、「そんなこと聞いてんじゃねえんだよ」と怒鳴られた。
書いた書類は「はい、だめ」「これもやり直し」と丸められて、ぶつけられていた。
「はったおすぞ」と言われた。

一年後、三木は警察をやめた。
そして…。
「呼び出してすいません」と警察官が柳岡に挨拶をした。

柳岡はアパートの階段を登り、ハンカチで鼻と口を覆って、部屋に入る。
部屋では、三木が首をつっていた。
足元には、カメが歩いていた。

再び、川藤の部屋に意識が戻る。
外で、雨がひどくなってきた。
柳岡は外を見た。
兄が洗濯物を入れた。

外に、アジサイが咲いていた。
「柳岡さん、俺はあいつのことをよく知ってます」。
兄が口を開いた。

「言っちゃなんだが、警察官になるような男じゃないですよ」。
「オヤジに似て頭は悪くないが、肝っ玉が小さい」。
「そのくせ開き直ると、くそ度胸があります」。

兄は、窓を閉めた。
雨の音が途切れる。
「それにね、あいつは銃が好きだった」。

「銃が撃ちたくて海外旅行に行き、戻って来ては早打ちの自慢ばかり」。
「警察官になったより、銃を持てたことの方を喜んでいたような奴です」。
「何がおっしゃりたいんですか」。

「柳岡さん、あいつが死んだ現場にあなたもいらっしゃったんですね?」
「本当は何があったのか教えてもらえませんか」。
「そう言われましても」。

「あいつは根っからの小心者です。だから、人質を守ろうとして発砲したなんて話は違う」。
「そんな立派な死に方、…俺の弟がするわけないんですよ」。
「…」。

コップの酒を口にする柳岡。
「あの日は朝からおかしなことが続いていました」。
朝、上司が拳銃の弾丸を拳銃にこめさせた。

その時、柳岡は弾丸を落とした。
見た上司は、もう年かと言った。
「一発でもなくしたら首を飛ばす」と上司は言った。

梶井が「あの女、また来てますよ」と声をかけた。
交番で。田原美代子が騒いでいた。
美代子は、柳岡を見ると「この人じゃ話に鳴んないよ」と言って柳岡に飛びついた。

「どうしました?」
「あたし、旦那に殺されるかもしれない」。
「なるほど」。

川藤は美代子と目が合って、どぎまぎした。
「うちの旦那、知ってるでしょ?元々危ない人だったけど最近おかしくて」。
「いきなり、浮気してんだろうって、手がつけらんないのよ」。
「アフターで男の人と行くことあるでしょ」。

水商売をしている美代子が、客と浮気をしていると、夫が疑っているらしい。
柳岡は「暴力を振るわれたとか具体的なことがないと」と言った。
「最後まで話聞いてよ!」
「続きをどうぞ」。

「あの人ね、最近、刃物買ったの。ほら、大きくて危ない奴」。
夜中に起きたら、夫はその刃物を見ていた。
「わかりました。パトロールを強化します」。
「は、それだけ?」

「ご主人に暴力を振るわれたらすぐに相談に来なさい」。
「それだけ?!殺されてから電話しなさいって?」
美代子は大声で、嘲って笑った。

「家の中で刃物をちらつかせただけじゃ、逮捕できないんです」。
「警察ってホント、楽な仕事ね!」
美代子は椅子を乱暴に立ち、入り口にいる川藤を睨み、叩いて出て行った。
「痛ってえ!」

梶井は「そんな凶暴な男でも別れもせず、面倒を見てるんだから。のろけ話じゃないいですかね」と言う。
認知症で徘徊している老人についての通報があった。
まだそれは川藤には荷が重いと言って、柳岡と同僚が警邏に行き、川藤が留守番になった。

その際、2人は、田原美代子の家を回って行った。
窓から見えた美代子の夫は、昼からテレビを見て酒を飲んでいた。
その時、電話が鳴って、夫は立って行った。
柳岡と梶井は、田原の家を離れた。

戻って来た柳岡に、川藤が血相を変えて走ってきた。
隣の工事現場で、人が倒れたと言う。
「どうなった」。
「たぶん、車が小石をはねあげたんじゃないかって話で。よくあることだけど当たるのは珍しいって」。

「そう言うことじゃない。その男はケガをしたのか」。
「あの、もしケガをしていたら捜査することになりますか?」
「何言ってんだ?!俺はケガの度合いを聞いてるんだ」。

「それなら大丈夫です。作業員は衝撃で倒れただけですぐに起き上がりました」。
柳岡が現場作業員が休憩しているところに、歩いていく。
パニックに近い表情の川藤が、追っていく。

現場作業員に倒れた作業員のことを聞くと、問題ないという返事が帰って来た。
それをじっと見ている川藤。
顔色は真っ青だ。

夜、徘徊老人の件でその家に柳岡が電話すると、昼頃に戻って来たという。
川藤は背筋をこわばらせ、聞いている。
微動だにしない川藤を見た柳岡が「どうした?」と聞いた。
「いいえ」。

返事をした川藤は、外へ立哨に出た。
時計を見る。警邏行くぞ」と柳岡が声をかけた。
その時、通報があった。

田原というの家で、夫が刃物を振り回している。
すぐに柳岡は、美代子の家だとわかった。
柳岡も梶井も、川藤も現場に急行した。
3人が家に着くと、物音がする。

悲鳴が聞こえる。
「行こう」。
やめてやめてと美代子の叫び声が聞こえる。

3人が家に入る。
柳岡と梶井が、警棒を構える。
家の中では夫が、美代子を殴っていた。
柳岡が怒鳴った。

夫がそちらを見た隙に、急所に一発食らわせて美代子が窓の外に走る。
すぐに夫も、追って外に出た。
警官3人も追う。

家と家の間の狭い道で、美代子は捕まった。
「来るな!」
夫は大型のナイフを突き出した。
そして笑った。

「お騒がせしました。見逃してください。家庭の問題ですから」。
柳岡が「とりあえず、その刃物を下ろせ」と言う。
美代子は首を羽交い絞めにされ、鼻血を出している。

「もう、疲れたんですう」。
そう言うと夫は、美代子の顔の前にナイフを持って行った。
「美代子の浮気には」。

「好きにして良いですから。俺は」。
その時だった。
川藤の声が響いた。

「あきらめろ!緑川交番だ」。」
美代子の夫が振り向く。
「緑川交番?」
「貴様か!」

「貴様が美代子を!」
夫は美代子を放り投げると、ナイフを振りかざして川藤に向かっていった。
柳岡の視界から、夫の姿が家の影に隠れて消える。
「よせ!」

柳岡が叫ぶ。
川藤が、隣にいる梶井を突き飛ばした。
拳銃を構える。
見る間に発砲する。

1発2発3発。
銃声は4回響いた。
田原の夫が、家の影から突き飛ばされたように姿を見せた。
そのまま、夫は倒れた。

柳岡が駆け寄る。
美代子は、壁にもたれて気絶している。
振り向く柳岡。

川藤がぐぐぐ、と妙な声を出した。
左の耳の下から、血が噴き出た。
川藤が、倒れた。

「川藤!」
柳岡が叫んで、川藤を抱き寄せる。
梶井がすぐに救急車を呼んだ。

柳岡の意識が、再び、部屋に戻ってくる。
向かい側には、川藤の兄がいた。
「正直、浩志君は警察官に向いていると思わなかった」。

雨の音が響く。
「そういえば…、事件直後、スポーツ新聞に弟が容疑者の妻と不倫関係にあったと書きたてていました」。
しかし、病院で聴取された美代子はそれを否定した。

「あたしが浮気なんてするわけないでしょ」。
美代子は、柳岡に詰め寄った。
「なにも殺さなくてもよかったじゃない!人殺し」と叫んだ。

「弟は何の関係もなかったんですか」。
兄の疑問に、柳岡は川藤の携帯も調べたが痕跡はなかったと答えた。
「ずうっと気になっていることがありましてね」。

「柳岡さん、最後にあいつ、何か言いやしませんでしたか?」
「?」
「死ぬ間際に何か」。

あの時。
柳岡は思い出す。
倒れた川藤を抱き寄せた柳岡は言った。
「しっかりしろ」。

川藤が口をパクパクと開き、何か言おうとした。
「ん?何だ?」
「こんな、はずじゃなかった」。
「うまく、いくはず、だった」。

そう言うと、川藤の目は光を失った。
兄は聞いた。
「それって何のことでしょう」。
「恐らく射撃のことでしょう 浩志君が撃った弾丸は確かに田原に4発命中していました」。

しかし、撃たれた田原は止まらなかった。
川藤の前まで行き、振り上げたナイフを持ったまま、倒れた。
その刃は、川藤の首筋を捕らえた。

「当たったはずのに、自分が死ぬとは思わなかった…。そういうことでしょう」。
「新聞には、弟は5発撃ったと書いてありました」。
「外れた一発はどこにありましたか」。
「庭にありました」。

「空に向けて、威嚇発砲したんでしょう」。
「あいつが威嚇射撃したんですか?」
「ちゃんと見ておりませんが、したでしょう」。
「弾丸が落ちていた以上、そう考えるしか」。

兄は黙った。
タバコに火をつける。
柳岡もタバコを吸った。

「実は柳岡さん、弟から携帯に留守電が入っていたんです」。
兄は、携帯の画面を見せた。
川藤からの通話記録は、7月4日の午前11時だった。
「大変なことになった」と、川藤は泣き声で言っていた。

「私たちは、パトロールに出ていました。浩志君は1人で交番で留守番していたはずです」。
「あいつは大変なことになったと言う時は、たいてい、ろくでもない時です」。
高校時代に付き合っていた彼女に妊娠を告げられた時も、そう言った。
結局それは、金欲しさの狂言だったが。

大学受験の時、パチンコで入学金を使ってしまった。
その時も、同じように大変なことになったと言った。
兄は方々で金を借りて何とかした。

「わかりますか柳岡さん。あいつが大変なことになったと言う時は、俺にしりぬぐいさせたい時なんです」。
「あの日は携帯電話を家に忘れてしまい、ちょうどいなかった」。
「俺は忘れて良かったと思ってます」。

柳岡は動かなかった。
「何だったんですかね、あいつが送って来た『大変なこと』って言うのは」。
川藤の遺影。

柳岡は、凝視する。
「わかりました?」
「いえ。何でもありません」。

「そろそろ私はこれで。失礼します」。
柳岡は出て行った。
兄がいぶかしげに見送る。

外は雨だった。
傘もささずに、柳岡は歩く。
『あの日、俺たちが警邏から戻ってくる直前、川藤は兄に助けを求めた…』。

あの日、一体何があった。
柳岡が帰って来ると、川藤は血相を変えて言った。
「さっき工事現場で人が倒れました」。

「僕は机に向かっていたんですが、工事現場の作業員が頭を押さえていきなり倒れ込んだんです」。
「様子を見に行ったら、頭に何か当たったって言うんです」。
作業員に当たったのは本当に小石だったのか。

「どうした」。
頭を押さえて倒れた作業員に、仲間が「車が小石でもはねたんだろう」と言った。
もし作業員に当たったのが、小石じゃなかったとしたら。
柳岡は走る。

兄は言った。
「それにね、あいつは銃が好きだった」。
「銃が撃ちたくて海外旅行に行き、戻って来ては早打ちの自慢ばかり」。
「警察官になったより、銃を持てたことの方を喜んでいたような奴です」。

柳岡が緑川交番に着くと、工事はすべてが終わって撤収するところだった。
あの日。
柳岡は、必死に考えた。

交番が脳裏に浮かんだ。
その前、川藤が立哨していた。
工事現場をじっと見る川藤。

交番の中に入った。
奥に行く。
扉を開ける。
小さなシンクがある。

ふと川藤は、下を見る。
辺りを見回す。
そして、拳銃を取り出す。

川藤は手にした拳銃を、じっと見る。
銃身をなでる。
微笑む。

弾丸を確かめる。
構えてみた。
今度は横を向いて、構えてみた。

ガシャンと音がする。
外だ。
川藤は、少しだけ窓を開けた。

外では、工事が続いている。
川藤は銃を構える。
口には微笑みが浮かんでいた。

作業員に銃を向けた。
そのまま構えて、じっと見つめる。
微笑む。

作業員は何も気づかず、工事を続けている。
お湯が沸く。
ピー。

音が響く。
工事の音も響く。
梶井が、仮眠できないと言った音が。

ヤカンの湯が沸く音がする。
工事の音と入り混じっる。
川藤の口元が、ゆがんでいる。
嗤っているのだ。

その時だった。
シンクの上に置いてあった、お盆が川藤の足に当たっていた。
バランスを崩したお盆は傾き、乗っていたどんぶりが床に落ちた。
割れる音に、川藤がビクッとする。

その時。
引き金にかかっていた川藤の指に、力が入った。
発射音。

川藤が、しりもちをつく。
「おい、どうした!」
「大丈夫か!」
ヘルメットを押さえて、1人の作業員がしりもちをついていた。

外の声に、川藤が顔色を変える。
そのまま、床にしゃがみこむ。
這うようにして、出て来る。

交番に戻ると、拳銃をしまう。
だが、手が震えて思うようにいかない。
落ちた帽子を拾う。

交番から川藤が、飛び出してくる。
作業員たちに近づき、「だ、大丈夫ですか」と尋ねた。
「頭、異常ありませんか」。

作業員はちょっといぶかしげに、しかし笑って「ちょっと痛いけど大丈夫です」と答えた。
おおげさなんだよと、仲間が笑う。
そしてまた、作業に戻った。

泣きじゃくりながら、川藤は兄に電話していた。
「兄さん、大変なことになった」。
『兄に助けを求めたが、応答がない』。

『だが当直が終われば拳銃を返さねばならない』。
『一発でも足りなければ、その場で発覚する。人に当たったと鳴れば懲戒免職では済まない』。
『だから川藤は考えた』。

『死にものぐるいで。そしてある方法を思いついた』。
川藤は、電話を取る。
田原の家。

外では、パトロールの柳岡と梶井の2人が離れたところだった。
家の中で、電話が鳴っていた。
テレビを見ていた田原美代子の夫が、「はいもしもし」と電話を取った。

「奥さんが浮気をしている」。
電話の声はそう言った。
「相手は、緑川交番の警察官」。

「あんた、誰だ」。
それには答えず、電話はガチャリと切れた。
「ただいまあ」。

美代子が酔っぱらって、帰って来た。
夫は応えない。
「ふん。あんた、どうしたの」。

夫はナイフを手にいした。
妻が目をむく。
近づいた来る。
「いやああ!」

交番に、通報の電話が鳴った。
川藤はそれを息をのむ思いで、聞いていたのだ。
田原の家の通報とわかった川藤は、嗤った。

美代子にナイフを突きつけた夫は、これは家庭の問題だと言った。
それを梶井の隣にいた川藤は、また嗤っていた。
ポケットに手を入れた。
ぽとり、と弾丸が落ちた。

そして、拳銃に手をかける。
『暴発を隠ぺいする唯一の方法』。
『それは…』。

川藤が美代子の夫に向かって、叫んだ。
「あきらめろ。緑川交番だ」。
夫が「貴様が美代子を」と叫んで、向かってきた。
川藤が発砲した。

1発2発3発。
夫に、次々と弾丸は命中した。
川藤は嗤った。
歯を見せて、嗤った。

目を見開き、夫が倒れる寸前。
振り上げたナイフを持ち、崩れるように前のめりになった。
その時、ナイフが川藤の首筋に当たった。

川藤が首を押さえた。
信じられないという顔をした。
首から、血が噴き出た。
倒れた。

「しっかりしろ」。
柳岡が抱き寄せる。
川藤が口を開けた。

パクパクと口を開けた。
「こんなはずじゃなかった」。
「うまくいくはずだった」。

泡立つような声で、川藤は宙を見つめて言った。
そして絶命した。
サイレンが響く。

「川藤!」
「川藤!」
柳岡が叫んでいた。

雨の中。
柳岡が、工事現場に近づいて行く。
「ご迷惑をおかけしています」の看板。

柳岡は、じっと見る。
その端に穴が空いていた。
ビスで留めた跡に、空いた穴のように見えた。

だが柳岡には、その穴が何かわかった。
動けない。
「ちょっといいですか」。
作業員が声をかけて、看板を撤去していく。

交番が見える。
中から2人、警察官が出て来る。
警邏に行くのだろう。
目の前を大きなトラックが通過し、交番が視界から一瞬消えた。

次に現れた時、柳岡の目には交番の前に立っている川藤が見えた。
柳岡の手が、わなわなと震える。
自転車に乗ろうとする警察官が、見える。
柳岡は震える手で、タバコに火をつけた。

震えが止まらない。
雨がひどくなってきた。
肩が濡れていく。
ジャケットの色が濃く、変わって来る。

タバコを口から離した時、唾液が尾を引いた。
柳岡は、タバコを吸い続ける。
突然、笑い出した。

雨の音が響く。
濡れたまま、タバコを吸っている柳岡の前を、警察官2人が通り過ぎる。
ちらりと、柳岡を見る。

横断歩道の前にはもう、誰もいない。
作業員もいない。
工事は終わった。

車も通らない。
交番の前に一人、警察官が立っている。
柳岡はひどい雨の中、交番とは逆の方向へ歩き出した。


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