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愛情と憎しみは表裏一体「悪魔の手毬唄」

2009.01.07 (Wed)

稲垣吾郎さんが金田一耕助を演じるシリーズの第5弾「悪魔の手毬唄」が昨日、放送されてました。

「悪魔の手毬唄」は77年の石坂浩二さんの映画版と、古谷一行さんのテレビ版を見ました。
映画版は見直しましたが、テレビ版は忘れてしまっています。
もう一度見ようと思ってますが、ここでは映画版について語ります。

亀の湯旅館の息子・歌名雄(北公次)と泰子(高橋洋子)。
村出身のスター・別所千恵(仁科明子)。

宿泊している亀の湯旅館のブレーキの壊れた自転車に乗って、坂を下ってくる金田一(石坂浩二)。

転んだ先にいる亀の湯旅館の娘で土蔵で暮らす歌名雄の妹・里子(永島暎子)。
金田一が風呂に入っているところを話しかけて来るお庄屋さん・多々良放庵(中村伸郎)。
ちょっとそそっかしい亀の湯の女将・青池リカ(岸恵子)。
旅館にいる金田一に電話をかけてくる磯川警部(若山富三郎)。

主要人物の性格と人間関係がザッと紹介されます。

古くて汚れている壁、薄暗い電灯、色あせたふすま、ガタガタと風が吹くと音を立てる木の扉、土間、火鉢、手垢の付いた家具や道具、寒村。
何もかも古くて湿っていて暗い、見ているだけで寂しく、怖いような風景。
77年度版は自然と存在している風景ですが、ああいうのはもう、作らないとないんでしょうね。

話は20年前の青池リカの主人が殺されて、迷宮入りしている事件を磯川警部が金田一に依頼したことから始まります。

20年前、昭和6年、農村が不況にあえいでいた年、恩田という男が都会から来てクリスマスなどの飾り・モールを作る儲け話を持ってきた。
恩田は機械を売りつけたが、話の通り儲かったのは最初だけ。
詐欺と気づいたリカの夫が恩田に抗議に行ったところ、夫は帰ってこなかった。
恩田は放庵の家の離れを借りていたが、その恩田も姿を消してしまった。
見つかったのは、人相もわからないほど囲炉裏で焼け焦げた遺体だった。

その遺体はリカの夫ということになったが、もしかしたらそれは恩田だったのではないか。
磯川は事実をはっきりさせて、リカには事件の事を吹っ切らせたい。

鬼首村には2つの大きな旧家があり、この2つは今や明暗がはっきり分かれている。
恩田のことが原因で、財産も信用も失いかけている由良家。
主人は詐欺事件の後、失意のうちに病死し、今は妻の敦子(草笛光子)が仕切っている。

村で唯一のぶどう酒工場を経営し、勢力を増している仁礼家。
歌名雄はここで働いており、仁礼家の頭首・嘉平(辰巳柳太郎)は娘の文子と結婚させたいが、歌名雄は由良の娘・泰子と恋人同士。
しかし、リカは2人の結婚を頑なに拒み、仁礼家の娘との結婚にも色よい返事はせず、歌名雄には都会に出て勉強してもらいたい。

調査の為、総社の町に出た金田一は峠でブツブツ言葉をつぶやいている老婆とすれ違った。
金田一は放庵に5番目の妻のおはんが復縁したいという手紙を寄越したので、代筆を頼まれていた。
「ごめんくださりませ、おはんでごぜえやす…」という言葉からすると、この老婆は放庵が言っていた戻ってきたおはんだろうと金田一は思った。
しかし総社で金田一が旅館の女将・いとから聞いた話では、おはんはもう死んでいるという。
では、峠ですれ違った老婆は…?

不吉な予感がした金田一は磯川にすぐに連絡を取る。
戻った金田一は放庵の家に急ぐが、大量の吐血の跡を残して放庵は姿を消していた。

千恵が到着し幼馴染と語っていた夜、来るはずの泰子は来なかった。
翌朝、滝つぼで口に漏斗を刺されて滝の水を飲まされるような状態で横たわった泰子の遺体が見つかった。

事件を聞いた由良のご隠居が、鬼首村に伝わる手毬唄を歌い始める。
そこでわかったことは、この殺人は手毬唄に見立てた殺人だった。

この村に屋号というものがあり、泰子の家の屋号は枡屋だった。
次は仁礼の文子が酒蔵につけられ、頭上に小判を飾られた遺体が見つかる。
文子の家の屋号は秤屋。

手毬唄は3番まである。
ということは、3人までが殺されるということだ。
しかし、その手毬唄は由良のご隠居にしかわからず、ご隠居は事件を知ってはその見立てとなった部分を思い出すだけで、3番を思い出すのは困難だった。

…その鬼首村の手毬唄です。

うちの裏のせんざいに雀が3匹とまって1羽の雀が言うことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様、狩り好き酒好き女好き
女たれがよい、枡屋の娘
枡屋器量よしじゃがウワバミ娘
枡で量って漏斗で飲んで日がな一日酒浸り
それでも足らぬと返された、返された

2番目の雀が言うことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様、狩り好き酒好き女好き
女たれがよい、秤屋の娘
秤屋器量よしじゃが爪長娘
大判小判を秤にかけて、日なし勘定に夜も日もくらし
寝る間もないとて返された、返された

3番目の雀が言うことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様、狩り好き酒好き女好き
女たれがよい、錠前屋の娘
錠前屋器量よしじゃが小町でござる
小町娘の錠前が狂うた、錠前狂えば鍵合わぬ
鍵が合わぬと返された、返された

ちょっと一貫貸しました



幻想的、耽美と予告編にありましたが、まさに…。


こちら、予告編です。




この映画版のお庄屋は、陰険で性悪ですね。
そして肝心の恩田の顔がはっきり見えなくて、何ともミステリアスでした。
20年前の出来事が白黒の陰影で、クリアではないところが、また惨劇を想像させます。

映画版では犯人は、「許してつかあさい…無我夢中で手を血に染めて最後に…」と詫び、自分の罪の重さに泣き崩れます。
犯人が自分がやったことを、そのまま愛する者が背負って罪の深さを教えた。
嘆いても嘆ききれない犯人。
最後の被害者は、誰よりも美しい心を持っていたのが悲しい。
磯川、金田一にも「すみませんでした」と、床に頭をこすり付けて謝る犯人。
誰に謝っているかわかっているのだろうか、もう、本当にはわかってはいないのかもしれない…という狂乱ぶり。

「憎めたらあんなことにはならなんだ。むごい人とわかっても好きやった。忘れられませんのや」
犯人のあまりの哀れさ、悲しい告白に、聞いている者の頬に涙がつたう。
本当にむごい目に遭ったのは殺された娘たちなのに、涙せずにはいられない犯人の愚かさ。

犯人が普段の顔と、犯行時に見せる顔の対比が、まさに菩薩と夜叉。
この人を何が夜叉にさせたのか…、何故、連続殺人までやらなければならなかったのか。
それはまさに怨念、嫉妬、そして愛情の裏返しであると見ているものに納得させなければならないので、この犯人役は非常に難しいと思います。
映画版では、愛情が深いからこそ怖ろしく、そして哀れで愚かだと感じられました。

そして、最後のもう何も見ていない空ろな目。
犯人が誰か知った時の、青年達の悲痛な面持ち…。

稲垣吾郎版の「悪魔の手毬唄」では犯人の愛情は狂気と化していて、これはこれでわかりやすかったです。
どちらも犯人役は見事でしたね。

映画版の好きなところは最後、金田一が磯川警部に別れ際に言う言葉でした。
ほんのり香る、人の優しさがあって好きです。
その言葉は汽車の発車音にかき消されて、警部の耳には届かない。
しかしその答えは画面にしっかり出ているんですね。
画面に映る駅名に注目。

高橋洋子さんは38度以上の熱があった中での、あの、滝に打たれる撮影だったとか。
市川監督は心配して、ぬるま湯を流してくれたんだそうですが、結局、撮影は3時間。
全身びしょぬれのプロ根性をスタッフに称えられたとか。

そしてこの撮影、いろいろ怖いことがあったらしいです…。
草笛光子さんが足を引きずっていますが、あれは本当に、撮影中ずーっと足が痛かったそうです。

市川監督は風景を見ていて雪がちらつくと、急に「石坂くん、あそこ歩いて!」と言って、畑道に行かせると撮影を始めたりしていたそうで、出演者もスタッフも大変だったけど、やっぱり良い画面になっていると思いました。
 
00:27  |  横溝正史  |  Trackback(0)  |  Comment(6)

Comment

岸恵子のりか役

見たよ。悪魔の手毬唄なのに犯人なのにスタイリッシュ。
稲垣のやつ、ちょこっみたけど、ストーリーわかってるし、体調悪いしでサッサと寝ました。・・・おどろおどろしい感じがたりない。

なるときよし |  2009.01.07(水) 11:45 | URL |  【編集】

なるきよさん

>なるきよさん

市川監督はアタマからリカ役は岸さん、と決めていたそうです。
市川監督が考えるリカは古風な、古色蒼然とした女。
岸さんはフランスにいるモダンな女優だけど、古風なところがある。
だから、リカは岸さんにピッタリだと思ったとか。
岸さんのような女優にこういう役をやらせる、他の人はそういうことは狙わないのか?と。

>おどろおどろしさ

横溝文学は「無残絵」と言った人がいるそうですが、そんな感じですもんね。
日本人には皮膚感覚で怖いと感じる。
映画版はもう、ほんと、そんな感じ。

体調悪いの、治りました?
お大事に。
ちゃーすけ |  2009.01.07(水) 15:06 | URL |  【編集】

リアル金田一

わたくし事では、ありますが〜実は訳あって、四十年近く放置されている、父親の親族のお墓が、どこの場所にあったか、探すのに奔走している所なんですよ〜ちゃんと供養する為というのが理由ですが、父の記憶が曖昧で、パズルを繋ぎあわせる様な作業で、大変なんですよ〜 (σ_σ)ギャー
しかも、その場所は、山陰地方のS県で、その親族の屋号が升屋(ますや)というのですヒエ〜・・・変な話でゴメンナサイ
私は三月にS県を訪れる予定です〜(金田一の場合はО県が舞台の場合が多いけどね・・)
女たれがよい、マスヤのむすめ〜♪
み〜み〜 |  2009.01.07(水) 21:29 | URL |  【編集】

み〜み〜さん

>み〜み〜さん

いらっしゃいませです。

放置されているお墓を探す…、それは大変な作業ですね。
年月が経っているから覚えていることも少ないし、覚えていてもなかなかそのままの状況というわけにもいかないでしょうし。

お父様も一生懸命思い出されているのでしょう。
なかなか、歯がゆい思いもされていると思います。
私も3年ほど前、親戚が40年ほど前に行ったきりだという土地に付き添い?で行ったのですが、もう、
「この辺?」「湖の側」「湖おっきいよ」「そこから近い」「範囲広すぎ!」「???」「???」
…って感じでした。
土地勘もないところなんで、全然わからない。

でもご供養するためとのことで、きっと良いことがありますよ!
見つかりますように!

屋号が升屋さんですか。
普段、暮らしているとわからないですけど、風習というか、昔の慣わしというのがたまに関わってきて、ああ、そういうのってあるんだなあと思ったことがあります。

知り合いの実家が、金田一耕助の関わる事件に出てくる土地の近くなんですよ。
夏休みにそこから小学生の子供が知り合いの家に来るんですが、何キロも歩いて学校に通っているだけあってすごいパワフルです。
ちゃーすけ |  2009.01.07(水) 23:31 | URL |  【編集】

「駅名」の件、当時ファンの間で話題になりましたねぇ。「なるほど」と思ったものでしたが、崑監督へのインタビューによれば、偶然だったらしいです。
kei |  2009.06.02(火) 09:13 | URL |  【編集】

keiさん

>keiさん

横溝正史原作の市川監督作品では、派手なのは「犬神家の一族」ですが、実は一番、映像化するに当たって良い作品にするのが難しかったのはこれじゃないかと思います。
連続殺人事件を扱っているのに、情感溢れる、良い映画になっていましたよね。

あれは偶然だったのか、それとも市川監督のことだから画面に遊び心も持たせて、返事を潜ませたのかと思っていましたが、偶然ですか。
今でもこの地名をニュースなどで耳にすると、この映画のラストシーンを思い出します。
ちゃーすけ |  2009.06.02(火) 14:53 | URL |  【編集】

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