こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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皆様方よ。さようならで御座いますよ 「丑三つの村」(5/5)

ここから先は、残酷、反社会的と言う判断で、R-18指定を受けたこの映画のクライマックスです。
全部、殺戮のシーンですから、気分が悪くなりそうな方はご遠慮ください。


継男はそっと、祖母の寝ている部屋の戸を開ける。
ライトに照らされても、祖母は起きない。
「おばやん」と継男は声をかける。
「うーん」と祖母は声を出し、少し咳き込んだ。

継男は土間に降り、銃を置く。
傍らにあったまさかりを手に「おばやん。約束や。笑おうて見送ってくれや」と言った。
まさかりを振り上げる。

ライトに照らされた、祖母の首を見つめる。
「やぁっ!」という声とともに、継男は斧を振り下ろした。
呼吸音だけが、聞こえている。

継男が顔を上げる。
飛び散る血で、継男の顔も、白い日本刀の柄も赤く染まっている。
「おばやん。俺を夜叉にしてくれぃ!」
「鬼にしてくれ!」

継男は、荒い呼吸をする。
ふーっ、ふーっ。
息を吸い込むと、叫ぶ。

「犬丸次男くん、ばんざあーい。ばんざーい。ばんざああーい。ばんざああ…い」。
ぎこちない万歳をする。
最後のほうは、声が枯れた。

継男はそのまま、立ち尽くす。
ガシャという音とともに、継男が動き出す。
外に出た。

まず隣だ。
すらりと継男が、日本刀を抜く。
眠っている、隣の住人のことみに近づく。

「とやあ!」という掛け声で、ことみの胸に向かって一気に日本刀を突き刺す。
「ぎゃあ」と言う声をあげて、ことみは腕を前に突っ張らせ、上体を起こした。
ことみは、目を見開き、絶命した。

「どないしたんや」と隣の部屋から、ことみの長男が出てきた。
日本刀をかざし、切りかかる継男を見て、悲鳴を上げて逃げ出す。
土間まで、長男は逃げた。

継男は、銃を構える。
逃げ出そうとした長男を、後ろから撃つ。
壁に穴が開き、長男は倒れた。

「あほんだらあ!おとなしゅう寝とけや!」と、継男は怒鳴る。
そして「栄子はどこじゃあ!栄子お!」と叫ぶと、次の部屋に入っていく。
目指す栄子は、いなかった。

継男は、外に出る
暗闇の中、見えるのは継男の頭の懐中電灯の丸い光だけだった。
光が、光だけが人魂のように異動していく。

次の家に行く。
戸を開ける。
部屋に押し入った。
和子の家だ。

布団をはぐと、いつかのように常代は足を開いて寝ていた。
その足を継男は、銃でポンと叩く。
常代は、その感触と光で、飛び起きた。

継男は、常代に向かって銃口を向けた。
「くそばばあ。夜這いに来たで」。
継男のライトに照らされた常代は、恐怖で硬直した。

「ひいいい、ひいいい」と、声が漏れる。
カチャッと、音をさせ、弾丸が装着され、銃身から用済みになった弾丸が飛ぶ。
顔に血が飛び散った継男が、常代に銃を押し付ける。

銃声がして、常代が撃ち抜かれて倒れる。
その物音に和子が戸を開け、目を丸くする。
継男の姿を見た和子は、恐怖に悲鳴もあげない。

和子に継男は、銃を向けた。
「結婚、おめでとうさん」。
皮肉な口調で言う。

和子は、声も出ない。
荒い呼吸音だけが、聞こえる。
和子の首に銃口が向けられ、それは口に向かう。
継男は、和子の口に、銃口を押し込む。

和子は殺さないでも、ごめんなさいも、許してくださいも言えない。
ただ荒く呼吸をし、口に銃を入れられ、後ろに下がっていく。
継男は和子の口から銃をはずし、音をさせて構える。
少し離れたところから、肩口を撃つ。

和子が倒れる。
苦痛にうめく。
継男は倒れた和子の胸に匕首を刺し、そのまま床に倒してぐりぐりと押し付けるようにして止めを刺す。
和子が苦痛に声を出し、動かなくなる。

継男はまた、暗闇を走る。
やすよを追い出した葉村史明の家だった。
戸を開け、部屋に飛び込むと「起きんかい!皆殺しにしたるわ!」と叫ぶ。

飛び起きた葉村の夫婦でまず、妻を撃ち殺した。
次に、夫を撃つ。
奥の部屋の戸を開けると、飛び起きた3人の子供を次々撃つ。

「史明はどこじゃ。やすよを追い出したガキはどこじゃ!」
そう言って、継男は押入れに発砲する。
悲鳴を上げて、史明が戸を開け、布団を継男に放り投げ、逃げる。

必死の史明が追ってくる継男の銃を抑え、もみ合いになる。
継男を突き飛ばすと、外に飛び出す。
足をもつれさせながら、史明は後ろを振り返り振り返り、叫びながら走る。
転び、振り返ると、3つの光が追いかけてくる。

暗闇の中、継男が照らす史明の背中だけが明るく闇に浮かび上がる。
一軒の家の前まで来ると、「助けてくれ、継男が気い狂いよったあ」と叫ぶ。
後ろ手ぶ戸を開けて、中に逃げ込む。

継男の銃が障子を破る。
その穴から、銃が突き出されると火を噴いた。
史明は右の肩を撃たれ、囲炉裏がある部屋まで這いつくばって逃げる。

継男が入ってきて「助けてくれ」と、絶叫する史明を追い詰めていく。
壁を背に立ち上がった史明の左肩も、撃ち抜く。
背後の壁に、穴が開く。

継男はさらに、銃を向ける。
銃を史明に押し付けていき、至近距離から体の真ん中を撃つ。
史明は、ずるずると崩れ落ちていく。

継男は、その家の家族が集まっている部屋の戸を開ける。
銃を構えた継男に、老人が叫ぶ。
「わしら、お前の悪口言うた覚えないわ!」
老人とその家の夫婦の夫は、男の子を真ん中に抱き合っていた。

その背後には、妻がやはり子供を抱きかかえていた。
「助けてくれえ」。
「静かにしとけよ!」
そう言うと、継男は外に飛び出して走る。

暗闇の中、3つのライトが動く。
継男が戸を開け、また一軒の家の中に飛び込む。
ライトに照らされた暗闇の中、寝ていた夫が跳ね起きる。
栄子のいる家だ。

横にいた栄子が夫に飛びつきながらも、継男に向かって「おかやん、どないしたんや!」と怒鳴る。
顔に血を飛び散らせ、銃を向けながら継男は言う。
「いっとう最初に死んでもろうた!お前も探しとったんやで!」
そう言うなり、発砲した。

弾丸は命中し、栄子がふすまを倒してひっくり返る。
継男は次々、発砲する。
舅、背中を向けて逃げようとした姑、怯え切って「やめてくれ」と言うように両手を前に伸ばして振っている夫。

次々撃つ。
動く者がいなくなる。
布団をかぶっていた老人を撃ち、恐怖で逃げ出した娘は日本刀で刺し貫いた。

外に出て日本刀を地面に突き刺し、銃に弾を込める。
「八一(やいち)ぃ、待っとれよ八一」。
やいち、やいちと叫びながら、継男は戸を開ける。

部屋の戸を開けると、暗闇の中、八一の一家が照らされる。
手前にいた妻は起き上がり、奥に逃げる。
八一が怯えたように叫び、飛び起きる。

継男が上にかかっている壁時計を見て、発砲する。
悲鳴が、悲鳴に鳴らない、泣き言のような声が響く。
時計が壊れるのを見た継男が、すさまじい笑顔を浮かべ、銃を向ける。

「八一、ミオコ、中次、逃がした罰じゃあ!」
そう叫ぶと、継男は銃を向ける。
怯えた声が止まらない八一は子供をつかんで前に押し出そうとして放し、妻をつかんで前に押しやった。
部屋の奥、たんすの前に逃げた八一だが、右肩を撃たれた。

妻と子供が、逃げた。
継男は2人にも、発砲した。
ふすまを倒して、2人は倒れて動かなくなった。

悲鳴をあげて逃げる、老いた八一の父親を撃ち、母親も撃った。
誰も動かなくなった。
八一が継男に、声にならない声をあげながら、むしゃぶりついてくる。

継男は八一を突き飛ばすと、八一は「うわーああああ」と叫びながら、廊下を走った。
八一が逃げた方に向かって、継男は歩き、日本刀を抜く。
奥に、奥に、八一は暗闇の中、継男のライトに照らされてひたすら逃げる。
継男は障子を蹴飛ばし、追い詰めていく。

土間に下りた八一の左肩に向かって、継男は日本刀を押し付けた。
一気に、日本刀を走らせる。
手を上げ、目を見開いたまま、八一は倒れた。

継男はまた、外に出る。
隣家から3人の女性が、悲鳴を上げながら走り出る。
継男は1人を追い詰め、発砲した。
女性は、わらを背に崩れ落ちる。

きゃあああと叫びながら逃げる女性もまた、撃った。
1人は田んぼまで這いずりながら、逃げた。
継男は女性の前に先回りすると、発砲した。
女性は田んぼの泥の中、前のめりに倒れた。

銃に弾丸を込めるため、継男は一度、山の方に登る。
「継男」と呼ぶ声がする。
「誰じゃ!」
声のした方に、継男は銃を向ける。

ライトに照らされて見えたのは、やすよだった。
やすよは泣いていた。
震える声で、「もう、や、やめてえ」と言う。

「心配すな、おまえとこやらん!」
「手紙貰ろうて、あわてて戻ってきて…」。
やすよは、泣きじゃくる。

「音が聞こえて、行かな思って。止めなあかん、思って」。
やすよは、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
だが継男は「まだ3軒残っとる!」と言った。

やすよが鋭く叫ぶ。
「鬼や!」
継男は「鬼のどこが悪い!」と叫ぶと、行ってしまう。
「継男!」

戸から恐る恐る、ランプを持って、嘉子と太一は出てきた。
辺りを見回す。
太一は棒を持っている。

「おばちゃん、こっちや」。
継男の声がする。
声に笑いが含まれていた。
太一が、声がした方をライトで照らす。

3つのライトだけが、暗闇に光っていた。
「ひえっ」と嘉子が口を開けた時、継男が発砲した。
暗闇に照らされ、倒れる嘉子だけが浮かび上がる。

太一が腰を抜かす。
継男が近づき、嘉子を撃って止めを刺す。
「何てことするんだ」と太一が、後は言葉にならない叫びを上げながら、継男に飛び掛って来る。

継男が発砲し、弾が太一の頬をかすめた。
太一が叫びながら、継男に飛び掛る。
銃を持って、何とか継男を阻止しようとする。

2人はもみ合いながら家の中に飛び込み、土間に転がった。
太一は銃を奪おうとする。
だが太一はのけぞり、しりもちをついた。
継男が、近づいてくる。

ひい、ひいと太一が、悲鳴を漏らす。
継男が匕首を抜くと、太一に向かって突進してくる。
柱を背に、太一は刺された。

匕首に手を添えたまま、太一は転がった。
継男は思わず舌を出して、唇をなめる。
戸口の前には、嘉子が絶命していた。

継男は、太一たちが飼っていたヤギの腹の下にもぐりこむ。
口に向かって、ヤギの乳を搾る。
喉を潤した継男は、「あ~」とため息をつき、「よしっ」と言って走っていく。

勇三の家の前に行くと、「勇三、出て来い!一番許せん!撃ち殺してやる!」と叫び、発砲する。
2階の窓が開き、勇三が「助けてくれーっ!早う、誰か!警察に知らせるんや!」と絶叫する。
次々、発砲する継男。

勇三が窓から継男に向かって、部屋にあるものを次々投げてくる。
たんすまで、投げてくる。
勇三は、畳を起こすと、窓に押し付ける。
畳を弾丸が貫通する。

勇三がまた、1枚重ねる。
弾丸が、貫通する。
3枚目を立てかける。
弾丸が、貫通する。

4枚。
5枚。
そのたびに、畳の真ん中を埃を立ててて、弾丸が貫通していく。
貫通するが、勇三は畳の横に立ち、弾丸を避けている。

「えへへへ」と、勇三が妙な笑い声を立てる。
「ちくしょう!」と言って、継男が2階に向かって匕首を投げる。
匕首は、畳に当たって、落ちた。
「時間があれへん!」

継男は走り、えり子の家に向かう。
戸を叩かれたので、夫が戸を開けると、血まみれの継男がいる。
「継男、どないしたんじゃい!」
「おっちゃんには、関係ない!」

そう言って継男は家の中に踏み込むと、寝ていたえり子が飛び起きる。
恐怖に顔を引きつらせ、悲鳴を上げて、えり子は左右に逃げ惑う。
「えり子お!あんたが最後やあ!安心しい」。

暗闇の中、ライトに照らされたえり子が逃げ惑う。
銃を構えた継男の前に出たえり子の夫が、「お、おいこらっ、うちのおかんに何するんや」と叫ぶ。
えり子が、夫の背後に逃げ込む。

「おいっ、貴様、やめんか!」
「どいてくれ、おっちゃん!」
継男が悲壮な顔をする。
「どいてくれ、どいてくれや!」

そう言うと継男は発砲した。
えり子の夫の頭が、吹っ飛んだ。
壁に貼られた帝国軍人の心得に、黒く穴が開く。

それを見下ろしたえり子が、目も口も開いて、絶叫する。
「ぎゃあああ」と声を上げ、壁を背にしてへたりこむ。
這いずりながら、継男から逃げる。
暗い家の中、逃げていくえり子だけが照らされた。

ひたすら叫び声をあげながら、えり子は部屋の奥に逃げた。
壁にかかっている国民服を、継男に投げつける。
暗闇の中、えり子だけが照らされる。
部屋に、えり子が照らされた影ができる。

土間に下り、継男の方を見たえり子を継男は撃った。
弾丸はえり子に当たらなかったが、えり子は硬直した。
起立したまま、部屋の奥に上がった。

継男は、えり子の左胸の上を撃った。
えり子が目を見開き、ずるずると倒れていく。
障子が倒れる。

倒れたえり子のふくらはぎが、あらわになる。
「ここが、いかんのや」。
継男はそう言うと、カチャッと音をさせ、近づいていく。

銃で継男は、えり子の着物の裾をめくる。
白い太ももまで、あらわになる。
継男は、えり子の股間に弾丸を撃ち込む。
血しぶきが、あがる。

継男が外に出ると、やすよが泣き崩れていた。
「終わったんや。肝心の奴、やれなんだ」。
継男の声は、晴れ晴れとしていた。
「もう、やめて…」。

「俺はこれで終わりや」。
継男はそう言ってやすよに近づくと、やすよの腹に耳を当てる。
「心臓の音や。俺にはよう聞こえる」。

継男は血まみれの手で、泣いているやすよの顔を自分に向ける。
「鬼のやや子に、よう覚えとといたってくれよ」。
「鬼、鬼、おにおにおに!」と泣きながらやすよは、拳を振り上げる。

やすよの拳を受け止めながら、継男は笑顔でうなづく。
「鬼や。けど、鬼は鬼退治しただけの話や」。
そして笑うと「おばやん、1人で寂しがっとる。そばにいてやってくれや。ここのおなごはみんな、寂しがり屋やからな」と言った。

笑顔で継男は、森の奥に消える。
もやの出る森の中、継男が身につけたライトだけが動いてく。
山の中、いつか、継男が標的にしたわら人形があった。
継男は、それをじっと見つめる。

朝。
すすきが、さらさらと音を立てる。
継男の歌声が、ぼんやりとした歌声が聞こえる。

「おーれは、かーわらの、かーれすーすーきー。おーなじ、おーまえも、かーれすーすーきー」。
「どーうーせ、ふーたりーは、こーのよーでーはー。はーなーのさーかない、かーれすーすーきー」。
「おーれーは、かーわらーの、かーれすーすーきー」。

歌いながら、継男はゲートルを取って巻いていく。
「おーなーじ、おーまえーも」。
歌が止まる。

継男は、やすよに貰った紐を取り出す。
手に握ると、村が見える崖下に向かって放り投げる。
じっと、継男は放り投げたほうを見る。

かたわらの葉を手でしごくと、手のひらに朝露がたまった。
もうひとつ、葉をしごく。
たまった朝露をなめる。

そして継男は、銃を手に取る。
引き金に、親指をかける。
銃口を口にくわえる。

カチッと音がする。
眼下に見える村。
「皆様方よ。さようならで御座いますよ」。

継男は、そう言うと銃を口にくわえる
引き金に、親指がかかる。
笑顔が浮かぶ。
全てが止まる。

血のような赤色で染まった、山のようなイラスト。
背後は、暗く沈んだ灰色の空。
(古尾谷雅人をトップにキャストが流れていく。監督が最後に出て)

「終」の文字。
響く銃声。
最後の、銃声…。


皆様方よ。今に見ておれで御座いますよ 「丑三つの村](4/5)

村に戻ってきた継男は、ミオコの家が閉鎖されているのを見る。
夜逃げ同然に、いなくなったらしい。
八一(やいち)が「わいに何の相談もなく」と言っている。

戻ってきた継男を見て、勇三や八一がやってくる。
八一が継男につかみかかり「継!おとなしゅう暮らしてる人間、何で追い出さなあかんねん!」と言う。
勇三も「中次もミオコも、ガキ連れて出ていきおった」と言った。

「俺の知ったことかよ!」と継男は叫ぶ。
勇三は「村の人間だと思って、今まで何も言わなかったが、好き勝手もええかげんにしとけや」とすごむ。
「殺すのやったら、はよ殺してくれや」。

勇三は笑いながら、「近いうちお前の処分を決めて、おばやんに言いに来る」と言った。
「日暮れ谷に住み着いた鬼は、追い出すだけや!」と八一が言う。
みんな、顔を見合わせて帰って行く。
残った継男は「逃げられたんかい。のんびりしておれん」とつぶやく。

夜、継男は自分の部屋で、自転車のライトを首から提げてみた。
鉢巻に懐中電灯を2本、差してつけられるようにもした。
実際に鉢巻を巻いてみる。
そうしてみて、首から提げたライトをつけると、鉢巻に巻かれ、頭の両側にセットされた懐中電灯が光る。

カチッ。
カチッ。
カチッ。

つけたり消したりして、確かめる。
継男の顔が、ライトに照らされて陰影を作る。
「こらやっぱり鬼や」。
継男がうっすら、笑う。

いつもの風景だった。
継男は、いつもの場所から村を見下ろす。
「まあ、皆様方よ今に見ておれで御座いますよ」。

そう言うと継男は、懐からやすよにもらった組み紐を取り出し、首に巻きつける。
自分で両側から引っ張り、締めてみる。
締めるたびに「ぐえっ」「ぐえっ」と舌を出し、声を出してみる。

継男は手紙を書いた。
やすよにだった。
手紙を持ち、ニワトリに入り口で餌をやっている祖母の横を通り、石の橋を渡って行く。
橋の袂にいた親子連れが、子供を連れて引っ込もうとするが、継男はもう目もくれない。

前略、やすよさま。
お元気ですか。
突然のぶしつけなお便り、お許しください。

僕は戦場へ行きます。
10月20日、戦場へ行きます。
その日、村には絶対に近づかないでください。

鬼になれるように、毎日祈っています。
戦場へ行きます。
鬼になります。
やすよさま、本当のさようならです。

途中、山道で継男は、ニワトリの羽を拾う。
忠明たちが、ニワトリを殺していた道だ。
羽を持って、橋の上で捨てる。

その日の夕方、時計が鳴った。
5時だ。
横になっていた継男が、目を開く。

外が赤く染まるのを見る。
障子が真っ赤だ。
継男がそれを見る。
外に行き、電柱を見上げる。

登っていくと、電線をパチン、パチンと切る。
電線は、地面に落ちた。
継男はそれも、じっと見る。

「あれ?」
夜、電球に手を伸ばした祖母が言う。
継男、停電みたいやぞ。はよ、飯食ってしまおう」。

ろうそくに火をともしながら、祖母は「今日はほんまに、けったいな日や。鶏は急に死んでしまいよるし。停電になるわ。和子が初めて里帰りしてきた日やと言うのに」と言う。
和子が、里帰りしてきている。
それを聞いた継男は晴れやかに「今日はええ日や!大安や!」と言った。

夜半の村。
静まり返っている。
ただ動くのは、村を流れる小川の水。

風に揺れる森の木の葉。
森も、家家も。
響く時計の音。

継男は、目を閉じている。
壁にかけた時計の鐘が鳴る。
継男が目を見開く。
12時。

次に時計が鳴る。
1時。
継男は、長持ちを取り出す。
蓋を開ける。

中から出てきたのは、綺麗に畳まれた服。
継男はろうそくに灯りをつけると、着ている服を脱ぎ始める。
ふんどしも取り、新しいものを身につける。
きゅっと、縛る。

白いシャツを着る。
ズボンを履く。
継男が身につけたのは、詰襟の学生服だった。
地下足袋を履く。

ゲートルを、丁寧に巻いていく。
丁寧に巻き、結んで止める。
押入れを開け、銃と日本刀を取り出す。

懐中電灯と、自転車のライトも出す。
かばんに、弾丸を入れる。
鉢巻に、懐中電灯をセットする。

ガチャガチャと音をさせ、ベルトを身につける。
ベルトに、日本刀を差す。
しっかりと皮ひもで結び、日本刀を固定する。
自転車のライトを首にかける。

一つ一つ、作業が終わると継男は「よし」「よし」と確認するように声を出す。
匕首を差す。
その上からまた、ベルトで匕首を固定する。
もう一振りの匕首を差す。

次に、油紙に包まれた銃を出す。
銃を手にして、継男は弾丸を込める。
継男は、銃を構えてみる。

四方に向かって、飛びのきながら銃を構える。
ライトをつけ、正面に向かって銃を発射する構えをする。
準備は終わった。


行けるところがある人は、ええわ 「丑三つの村」(3/5)

その夜、寝静まった村。
継男は「犬丸継男の戦場」と書いた地図を広げる。
竹中常代、和子と書いた家の上に黒い火薬を落とす。

同じように火薬を落としたのは本多四郎、えり子と書かれた家。
次に葉村史明。
嫁に行ったやすよを、追い出した家だ。
小堀八一(やいち)。

赤木中次、ミオコ
その隣の外村ことみ、栄子。
下に下りて、小堀の家の隣の司嘉子、太一。
また下に下りて、赤木勇三。

マッチで火をつけ、次々、落とした火薬に近づける。
ボッと音を立てて、火薬は燃え、家を表した四角の真ん中に黒く穴が開く。
継男はそれを、じっと見つめる。

小堀と書かれた家が燃える。
赤木。
「継男、はよ寝えよ」と、祖母の声がする。
継男は懐中電灯で寝ている祖母を照らし、「おばやん、おばやん、1人残さんからな」と言った。

翌日、和子の縁談がまとまったと、嘉子が継男の祖母に話していた。
和子の出した条件が厳しかったらしいが、まとまったのだ。
厳しかったが、「だがやすよのように、あんなに簡単に別れられたら困る」と嘉子は言った。

祖母が、やすよが別れたのを聞いて驚いた。
なぜ、と祖母が聞く。
「実はなあ…」と、嘉子が声を潜める。

次の瞬間、おばやんがすごい剣幕で「次男と話しすんのが、いかんちゅうのか!」と叫んだ。
「いや、私が言うたんのと違うて」。
あわてて嘉子が出て行くと、おばやんは塩をぶちまけた。
泣きながら、塩をぶちまけた。

継男が笑いながら、嘉子の家のヤギの乳を絞り、地面に吸わせているた。
嘉子が飛んできて、何をするんだと怒る。
「聞きたいことがあんのや」。
背の高い継男に立ちはだかれ、嘉子が後ずさりする。

「和子、結婚するってほんまか」。
「する、する。おめでたいこっちゃやがな」。
「ほんに、めでたいな」
「そうか、あんた和子ちゃんのこと、好きやったんか。あかんあかん。ようよう、まとまったんや。ぶちこわしにせんといてや」。

「誰がそんなことする!」
「あんたみたいに、そないに暇持て余しとったら、いらんこと考え出すもんやさかいな!」
「ほんなら俺かて言わせてもらうえけどな、あんたのやってることなんや!」

嘉子が村の若い者を見つけてきては、くっつけることを継男は責めた。
「ええかげんにしとけよ。今にどんどん血ぃ濃うなって、しまいにバチ当たるわ!」
それは以前も、言った言葉であった。

「今のご時世、考えたことあんのか!」と継男が言う。
すると嘉子が言う。
「生めよ育てよ、や!自分が戦地行って戦えんもんやさかい、このくそ田舎で鉄砲振り回して、憂さ晴らししてるだけやないか!どっちが国のためや、よう考えてみい!」
その言葉に、継男は嘉子に飛び掛った。

家から息子の太一がが出てきて、止めた。
「うちのおかあちゃんに何すんのや」。
継男は「おぼえとれよ!」と怒鳴って、走っていく。
後姿に「ごくつぶしぃ!」と嘉子は怒鳴る。

ミオコが、家の前で栗を並べている。
ふと視線を感じて顔を上げると、継男が立っている。
ミオコの顔が不安に曇り、家の前で遊んでいる子供を追い立てて家の中に入れる。
継男は背中に担いだ鉄砲を下ろし、ミオコの家を見つめる。

その後、継男はミオコの家に入ると、「勝手知ったる他人の我が家か」と言う声がして中次が立っていた。
「中次さん」。
「わしが聞いたる」。
そう言われた継男が「また来ます」と言って出て行こうとしたが、中次は継男を捕まえ、「ミオコーッ!出て来い!」と叫ぶ。

「これ、誰やか知ってるか!」
聞かれたミオコは、視線を落としながら「犬丸の継男さん」と答えた。
「こいつに何されたか、言うてみい!」と言って中次は継男の髪をつかみ、ミオコの方に継男の顔を向かせる。
ミオコが顔を背ける。

継男が「ミオコ、お前!」と叫ぶ。
「お前は呼び捨てにせんでええわい!」
中次が髪を引っ張り、継男を引きずりまわす。

継男が中次の手を振り払うと、「俺のほうが誘われたんや!」と叫ぶ。
「おばやんの貸した金の利子や、言うて!」
だが中次は「誰が信用するかい!病気持ちのくせからして、もう2度と来るな!病気が移るわ!」と叫んだ。

「何やと、病気が移るやと。もう一遍言うてみい!」
「ああ、何べんでも言うてやる。人の嫁はんに夜這いかけるしか脳がない奴や、言うとるんじゃ!」
「昼間も来たことある!」
「何やってえ、このがきゃあ!」

継男が銃を構えると、中次が怯む。
「ぶち殺してほしいんか!」
「ぐあー!」と中次が叫び、「できそこないに何ができるんじゃ!」と言うと、銃身をつかんだ。
ミオコが止めに入るが、突き飛ばされ、表に走り出る。

銃を奪われ、馬乗りにされ、継男は中次に殴られた。
首を絞められたところ、ミオコが祖母をつれてくる。
「やめてくれ」と祖母が泣き、中次が離れる。
「継男」と言って泣く祖母の顔を、継男が見る。

その日、継男は「おばやん、昼飯、俺が作ったろうか?」と寝ている祖母に言った。
「俺の病気、移ったんやないやろか?」
「あほ!おばやん、もうお迎えが来てもおかしない年や、体もそこらじゅガタが来とる」と祖母は言った。

そしてまじめな顔をして、「継男。おばやんが死んだら、好きなことしてもええ。けど生きているうちは、悲しませんでくれよな」と言った。
「ああ、わかっとる」。
継男は家を出ると、納屋で農薬のビンを取り出す。

祖母を揺り起こし、継男は「薬を飲め」と言う。
「何や、けったいな色やな」。
紙の上の、ピンク色の粉を見て、祖母が言った。
「はよう飲み」と、継男は湯飲みを差し出す。

「はよ飲め。おばやん」。
だが祖母は「「何飲ます気や」と言って、逃げた。
「おばやん、わかってくれや」。
継男は泣き顔になる。

暗くなっても、祖母は戻ってこなかった。
部屋で継男は膝を抱えているが、暗くなった表に祖母んを探しに行く。
歩いていくと、風呂に入っている人影が見える。
やすよだった。

風呂で、やすよが湯をかけている。
継男はとっさに、後ろからはがいじめにする。
驚くやすよの、口をふさぐ。
「行くところがないんや。ここにおらせてくれ、な、やすよ!」

「継やん」。
「うち、知っとる。史明と別れたんやろ。おれが貰うたる。俺の子供生め。村一番の子供や!」
「天才と別嬪さんのガキや!」
「俺の血や!立派な…肺病病みの子や!」

そう言った途端に、継男は喀血する。
継男は呆然とした。
そして風呂に入った血をすくい、自分で自分にかけた。
すると、やすよが同じように湯をすくい、自分にかけた。

継男が、湯を自分にかける。
するとまた、やすよがかける。
やすよを見つめた、継男が自分に湯をかける。
また、やすよも自分にその湯をかける。

そして、継男に向かって微笑んだ。
「悪かった」。
継男はそう言うと、走って出て行く。

びしょぬれの継男は、「殺せるもんなら、殺してみゃがれ」と叫ぶ。
犬が鳴く。
翌朝、駐在さんが2人の刑事をつれてやってくる。
駐在が、「おばやん、赤松や!」と名乗る。

祖母は継男が毒を飲ませようとしたと言って、中次の所に駆け込んだのだ。
そのことを、駐在と刑事が聞きに来たのだ。
だが祖母は「中次がどない訴えおったか知らんが、継男がわしに毒飲ませなんざ、ありゃせん、間違いないやな」と、とぼける。

しかし、継男は、山で鉄砲売ってることもとがめられた。
中次のところで鉄砲を振り回したことを言われ、家捜しをされた。
そして刑事に、押入れの屋根裏に隠しておいた鉄砲を没収された。

継男は、山で鳥を撃つのが、健康にも良いと言った。
祖母が継男を見る。
だが刑事は「ここらの山で鳥相手にするには、えろうぎょうさん集めてくれたもんやのう」と疑いの目を向けた。

継男は「事変で値上がりすると聞いたから」と答えた。
匕首も来年になったら、山の仕事に出ようと思っているからと言う。
狩猟許可書を見せるよう言われ、全て取り上げられた。

翌日、和子が嫁入りしていく。
行列には、常代が付き添っている。
継男は離れたところから、花嫁行列をじっと見ている。
哲夫が声をかける。

「まだ未練たっぷりと言う顔をしている」と言われた。
「玉の輿らしい、俺のような前途有望な青年を捨てるんだから」と哲夫は笑う。
継男は哲夫と、電車に乗って町へ行った。

ところで哲夫は何の商売をしているのかと聞くと、人に言えるような商売じゃないと言う。
だが、それも年貢の納め時だと言う。
どこに行くのかと聞くと、間もなく入隊するのだと答えた。

「兵隊か。うらやましい」。
継男の言葉に哲夫は、「行きとおても、行けん奴。行きとのうても行かんならん奴。…うまいこと言うな」と自嘲する。
「行けるところがある人は、ええわ」と継男が言う。
哲夫は、継男の顔をじっと見る。

継男は大きな銃砲店へ入る。
「五連発以上の奴はないの?」と聞く。
次に継男は、日本刀を買った。

家で日本刀を抜き、刀身を見る。
匕首2本。
仕入れた武器を、次々並べる。

継男は、哲夫にヌード写真を渡されて見ていた草原にいた。
「座ってもええ?すぐ帰るから」と声がして、やすよが継男の横に座る。
「見かけたから」。

「村のみんな、継やんがそのうち何かしでかすぅ、言うてるの知ってる?…嘘やろ?」
「嘘や」と、継男は答える。
「聞いておきたかったんや。最後にそれだけ」。
継男が咳き込む。

「またお嫁入り」。
「おめでとう」。
継男の言葉に、やすよが寂しそうにうなづく。

「うち、寂しがり屋やからあかん」。
継男は、やすよを押し倒す。
「女だけ違う。寂しいんやで、男かて」。
そう言うと、継男はやすよを抱きしめる。

「好きなようにして」と、やすよが継男を見つめて言う。
「かめへんよ。こんなもん、減りゃせんもん」。
継男は、やすよを抱きしめる。


殺されるかもしれん 「丑三つの村」(2/5)

犬が橋に、つながれている。
継男は犬を置いて、ミオコの所にいた。
だが情事の際、ミオコは継男の唇を徹底して拒む。

その不自然さに「何でや!」と継男が叫ぶ。
「来週なったら、おとうちゃん帰って来るんよ」。
「関係ないやろ!」

するとミオコは継男をにらみ、「…もともと、嫌いなんよ」と言った。
嫌いだが、借金のために継男と関係を持ったと言いたいのだった。
継男は「もう二度と来ん!」と言って、立ち上がった。
犬を連れて帰っていく。

いつか、やすよと会った草原で犬がほえる。
その先では、男女が嬌声をあげている。
腹が立った継男は「何やってるんじゃ!昼間っから!」と言って向かっていく。
その男女は、哲夫と和子だった。

継男に気づいた和子は視線を落とすと、走っていく。
だが継男は和子を捕まえると、「痛いなあ!放してえな!」という和子を引っ張っていく。
「手ぬぐい返しに行ったら、何でいつも居留守ばっかり使うんや!」
すると和子は「返してほしゅうないわ、あんな手ぬぐい!」と言い返した。

「ちゃんと自分で綺麗に洗濯したぞ」
和子は、クスッと笑った。
「何がおかしい?」
「言うてもええんか?」

「おう、聞かせてもらおうやないか」。
和子が息をこめて継男に言葉を吐き出そうとした瞬間、哲夫が和子の手をぐいと引き、間に入った。
「やめとけ!」

和子が口を引き結ぶと、哲夫は和子のあごに手をやって「帰れ?」と言う。
動かない和子に向かって、「帰れっていうんだよ!」と村のほうを指差す。
和子は走っていってしまう。

「なんな、あんな女ぁ!」と言う継男を、哲夫は引き止める。
「哲夫さん、横取りする気か?」
「わからんガキやなあ。あんな女、やめとき言うとるやん!」

継男は草むらに転がった。
「あいつ、俺に惚れ取るんや。血ぃ吐いて苦しんでる時、手ぬぐいを」。
「聞いた。けど、惚れてなんかおらへん。お前の病気のこと、知らんかっただけや。あの女、お前のこと、どないいうたか、もっと言うたろうか?」
だが継男は「自分で確かめる!おばやんと、あいつだけなんや。俺、相手にしてくれるの」
と言って、起き上がる。

夜、継男は咳き込んで目を覚ます。
汗をかいている。
継男は外に出て、「えり子!えり子!」と、えり子の家の戸を叩く。

えり子が顔を出し、「うちの帰ってんのよ」とこっそりと言う。
「出直すわ」。
しかし、えり子は「もう来んといて!」と冷たく言った。

その口調に継男が「なんちゅう言い草や!」と怒る。
「静かにしてよ!」
言い争いに気づいたえり子の夫が、「何や継男か。そんなとこで話しとらんと、あがったらええ」と言う。
途端に継男は愛想良く笑い、「帰りますわ。悪いから」と引き上げる。

歩いていた継男は、懐に入れていた手ぬぐいを出し、和子の家に忍び込む。
和子が寝ていた布団をはぐと、太ももがあらわになっている。
継男が手を伸ばす。

隣に忍び込み、「和子、ほんまは好きなんやろ?」と言った。
「誰?」
「俺」。
「俺ではわからん!」

明かりがつく。
「おばちゃん!」と継男が叫ぶ。
和子だと思った相手は、和子の母親の常代だった。

「継男やないか!」
気まずそうに継男は「夜這いに来たんや」と言うしかなかった。
「夜這い?!何をねぼけたこと言うてんのや」。

「俺、前からおばちゃんのこと」。
もう、そう言うしかなかった。
だが継男が肩にに伸ばした手を振り払うと、常代は「あほらしい!あんたなんかな、石垣の穴にでもつっこんでしとったらええのや」と言った。
「何い?!」

「毎日ぶらぶらしてて、何が夜這いや!夜這いしたかったらな、ちゃあんと働いて一人前の男のやることしてから、出直しておいで!兵隊にも行けん半端もののくせして!」
常代の言葉に継男は怒る。
「何抜かしやがる!」

この騒動に、和子が目をこすりながら起き出してきて、戸を開けた。
だが和子は継男を見て、目を伏せる。
継男もまた、和子から顔を背ける。
しかし今度はすがるような目をして「和子。何とか言うてくれや」と言う。

だが、和子は口と鼻を手で覆った。
まるで、ばい菌に感染しまいとするようだった。
ハッとした継男は立ち上がる。

戸を閉めようとした和子を捕まえると、和子は悲鳴を上げる。
押し倒された和子は枕もとの着物を取ると、必死に口と鼻を覆う。
それを見た継男はますます逆上し、和子を押さえつけようとする。

常代が止めに入るが、継男に突き飛ばされた。
すると常代は「殺されるー!誰か来てー!」と、大声を出した。
継男は着物を母親に叩きつけて、逃げた。

外に歩いて行った継男は、男たち6人が手に手に棒を持って集まっているのを見る。
物陰に潜み、見ていると男たちは集まり、1人が一箇所を指差した。
その先を、みんなが見ている。
6人の男たちは合図で散る。

山の中では、忠明が村人たちに棒で叩きのめされ、こづかれていた。
忠明は血まみれになり、転がりながら這い回った。
輪の中心に、勇三がいた。
勇三を、忠明がにらむ。

そして忠明は、息絶えた。
勇三は酒を渡されると、飲んだ。
次々と男たちが、酒を回し飲みする。
ゆがんだ笑いで、忠明を見下ろす。

翌朝、山の中で忠明は吊られた死体で発見された。
勇三たちも、死体を見上げている。
駐在が来ていた。
忠明は自殺と報告されていた。

駐在に向かって、継男が走ってくる。
そして「駐在さん、あれ、自殺やない。俺、見たんや」と言った。
「見たって何を?」
継男を、勇三が凝視している。

その視線に気づいた継男が、黙り込む。
「どないした継男?」と駐在に聞かれるが、もう答えられない。
継男に代わって、勇三が「ははは、赤松さん、継男の奴、勉強のし過ぎでこの頃、わけのわからんことを口走るゆうて、村でも有名なんや」と答えた。
そして、「後はわしらのほうで、詳しゅう聞いておくから。わかり次第、報告にあがりますわ」と言った。

駐在は「そうか。ははは、継男、あまりびっくりさすなよ」と笑った。
勇三は「ははは」と笑い、「天才とキチガイは紙一重言うて、わしら凡人には、よ~うわかりまへんわ」と妙に伸ばした言葉でそう言うと、笑った。
「ははは」と、村の男たちも笑った。

へへへへ。
うわははは。
あははーは。

だがその目は凶暴な光を放って、継男を見ていた。
誰も目が、笑っていない。
継男は、悲鳴を上げて逃げていく。

その後姿に駐在が「継男、たまには気晴らしせんとあかんぞ」と声をかけた。
みんなが笑っていた。
だが、勇三だけはもう笑っていなかった。

継男の耳を耳掻きしながら、祖母が言う。
「みんなが右言うたら右、左言うたら左。それでなんもかも、うまいこといく」。
「俺も殺されるかもしれん」。
「そんなあほな」。

「忠明の次は俺や。用ない人間は山に埋められる」。
「そんなしょうもないこと、考えとらんと」。
「おばやん、土ん中って冷たいやろな」。
祖母は黙っていた。

継男は翌日、町の鉄砲店に行く。
銃を構えてみる。
継男は、銃を買った。

山の中で、犬が鳴いている。
継男は山で「竹中常代」と書いた等身大のわら人形に、銃を発砲した。
外れて弾丸は、木をかすめる。

撃鉄を起こし、継男はもう一発撃った。
やはり当たらず、木に弾丸はめり込んだ。
もう一発。
当たらない。

チッと舌打ちをして、継男は人形に近づく。
もう一発、竹中常代の人形に向かって発砲する。
今度は命中した。
人形の胴体が吹き飛ぶ。

継男が笑った。
これで、距離感がつかめた。
もう一発、撃ってみる。
人形は吹き飛んで、わらしか残らなかった。

いまにバチ当たるぞ 「丑三つの村」(1/5)

この映画の題材になったのは怖ろしく、血なまぐさい事件。
日本犯罪史上、いや、世界の犯罪史上に残るような事件。
しかし、この事件について人は興味をひかれてしまうらしい。

それは野次馬根性とは別に、理解していたい。
理解できなければ、怖すぎる。
そんな気持ちもあると思う…。


「犬丸継男くん、ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」
かつてのビートたけしがギャグで、両手を棒のように挙げて万歳を連呼する。
映画を見た人には、あっ!と思うシーン。
万歳の声に送り出されていくのは、ビートたけしとコンビを組んでいたビートきよしだから。


ばんざーい!
歓呼の声に送られて…、出生していく村の若者。
それをじっと見守るのは、犬丸継男という青年。
継男の目は群集の中、涙ぐむ母親を見る。

晴れがましい見送りの中、母親は涙ぐんでいた。
ばんざーいの声で、継男は列車を追いかけていく。
途中、継男は転ぶ。
その目は、遠ざかっていく汽車を見る。

村に帰る継男。
いつもの橋を渡り、山道に差し掛かると、数人の男の声がする。
ニワトリの悲鳴が聞こえる。

3人の男がニワトリを棒でこづき回し、殺した。
「なんだ、もういてもうたわ」。
さらに3人は、ニワトリを紐で結び、振り回しながら川に下りて水につける。

「煮て食うか焼いて食うか」。
「おばはん、盗まれた言うて大騒ぎしようぞ!」
「夜這いかけたらいちころや!」

どうも、3人のうちの1人は、ニワトリの持ち主から畑を取り上げられたらしい。
「こいつのどたま、どこぞにほうりこんだろかい!」
そう言う3人の前に、継男が現れる。

「よう、天才少年!たまには遊んでくれや」。
「一緒にトリのすき焼き食えへんか?」
「あかんあかん、こりゃあわしらと出来が違う」。

そして1人の忠明と言う男が継男に「帰ったらおばやんに言うとけ!今晩、表開けて寝て待っとれって。久しぶりに男の味思い出させたる言うって」と言った。
「腐って使いものにならんぜ。村の女、軒並みやから、たまにはおばんでもええかもしれんぞ」。
そこまで聞いた継男が「お前ら!おばやん、バカにしたら俺が黙ってへんぞ!」と怒鳴る。

石を投げ、「村から出て行け!このごくつぶしもんが」と怒る。
だが継男は、咳き込んでしまう。
継男は「こんにちは」「こんにちは」と挨拶しながら家に戻る。

小川にかかる小さな、柵も手すりも低いものがついている、だがただ板を通しただけのような石造りの橋を継男は渡る。
その先には、小さな同じような家が立ち並ぶ。
かやぶきの屋根。
ひさしはさびたような色のトタン。

傾いているように見える家もある。
継男は一軒の家に「ただいま」と入っていく。
入り口では、ニワトリが飼われている。

すすけた茶色い、ところどころ破けている障子が上半分に張られている戸を開けて継男は中に入る。
どこもかしこも茶色い、わらの色の風景。
夕方。
おばやんは裸電球をひねり、明かりをつける。

囲炉裏で継男は、祖母と飯を食べる。
木製の蓋の、鉄製の鍋。
鉄瓶が囲炉裏に、かかっている。
食べているのは、雑穀米だ。

祖母は妊娠したある母親から、言われたことを継男に話す。
「どうやったら継男ちゃんみたいな頭のええ子、どないしたら授かるもんかいの?なんちゅうて聞くもんやさかい、継男みたいな天才、百年にいっぺんしか生まれへんわ言うたら、残念そうな顔して納得して帰りよったわ」。
「おばやん、俺が兵隊行くとき泣けへんか?」

「お国のためや。立派に戦こうて来い言うて、笑うて見送ってやるわ」。
「そんならええ、安心した。勉強してくるわ」。
だが1人になった祖母は、「大声上げて泣くかもしれん。継男」とつぶやく。

隣の家の、赤木ミオコがやってくる。
ミオコは「二度と迷惑かけへんさかい」と、祖母に頭を下げた。
「親戚同士やないの」。
「あほ!親戚親戚って、村のもん、みんなどっかでちがつながっとんのと違うか?」

ミオコは、継男は教員になるために町の学校に通うのかと聞く。
祖母が継男が自分を置いて、町の学校に通うものかと言った。
「継男ちゃん、頭ええからきっと検定試験だって大丈夫よ」と言うミオコの声が、部屋にいる継男にも聞こえる。
「お世辞は良いから、金を返せ」と祖母が言う。

それを聞きながら、継男は咳き込み、額に手を当てる。
入ってきた祖母が、寝転んでいる継男にどうしたのか聞く。
風邪だと思うと、継男が言う。

藪医者に金を払うのが惜しいと言う継男だが、祖母は医者には絶対に行け、自分がついていってもいいと言った。
継男は本条医者に「軽い肺門しんじゅうにかかっとるなあ」と言われた。
無理をしなければ、三月ぐらいで治るだろうと医者は言う。

帰り道、継男は「浮かん顔しとるやないか、秀才!」と声をかけられる。
幼馴染の年上の哲夫だった。
哲夫は継男に、女性のヌード写真を見せる。

「ほしかったら、やるで」。
継男は一瞬、目を奪われるが、「ええわ」と言って視線をそらす。
だが哲夫は写真を継男の胸ポケットに入れて、借金の申込をする。
「恩に着る、このとおりや」。

しかたなく継男が出した財布を哲夫は取り上げて、中身を見る。
「わしらはな、ちゃんとお金を払ろうて、赤の他人と一晩枕を共にする。おまえら狭い土地にひしめきおうて、親戚みたいに血つながった連中とようやるな」。
「何の話や」。
継男の問いに哲夫は、「夜中に村の中歩いたらわかる。しまいにゃ、ばち当たるで!」と言う。

山の中で、継男はヌード写真を見ていた。
すると突然、幼馴染のやすよが顔を出す。
あわてて継男は写真を隠すが、やすよは無邪気に、何?見せて見せてと追いかける。
やすよは、継男とは従兄弟ぐらいに関係が近い幼馴染だった。

継男とやすよは、まるで、子供のようにじゃれあうが、倒れた時に継男がやすよを見つめる。
見詰め合った2人。
するとやすよが「継やん、嫌いや!」と、どぎまぎして起き上がる。
やすよは継男が教師の検定を受けることを知っていたが、継男は「なんぼ頭良くても、男はいざっちゅう時は鉄砲持って戦えなあかん」と言った。

次の日、継男は子供4人を連れて、山の中に行った。
山の中に座り込み、今日は何の話がいいか聞くと、一人の子供が肉弾三勇士と言う。
兵隊の話ばっかりと1人の子が言うと継男は、「男は兵隊になってお国のために戦うのが一番や」と言う。

その夜、継男は時計の鳴る音で目覚めた。
1時半だ。
窓を開けて外を見ると、奥深い山が見える。
珍しい、もやの立ち込める夜だ。

継男は咳き込む。
もやが流れてくる。
継男は、夜の散歩に出る。

戸口にまさかりが置いてある家を見ると、その家の妻のえり子が村の実力者、勇三と絡み合っていた。
「勇三さんか。夫婦もんでもあれへんのに」と継男がつぶやく。
継男が歩いていると、突然、懐中電灯で照らされる。

「誰や」と言う声がするが「なあんじゃ、継男か」と言う声が続く。
村の男たちだった。
忠明たち、あの3人が悪さをしないよう、見回っているのだった。
悪さの中には、夜這いも入る。

これは勇三の提案だと言う。
「勇三さんが夜這いの取り締まりか」と、継男は笑う。
男たちは、橋を渡っていく。
「ご苦労様です」。

翌日、継男は中山哲夫に会う。
すっきりしないと言うと哲夫は、女でも抱いたらすっきりするぞと言う。
その夜、継男は表に出た。

えり子の家の戸を開けて、中に入る。
「えり子さん、起きてはりますか。犬丸です継男です」。
えり子は足もあらわに横になっていた。

継男の気配に気づいてえり子は「誰!」と言った。
だが継男だとわかると甘い声で「継男ちゃん」と言う。
継男はえり子に、この前の夜のことを言った。
「こないだ見たんや。満州で兵隊さんが体張って戦っているときに…」。

するとえり子は、「うちのお父ちゃんも兵隊に行ってる」と言った。
「軍人の妻やったらなおのこと」。
そこまで聞いたえり子は「軍人!」と笑った。

「補充兵で馬の世話ばかりさせらてても、やっぱり軍人さんか」。
「名誉なことやないか」。
えり子は継男を見つめると、もらい風呂をして暑いと言って脱ぎだす。
胸があらわになる。

視線をそらした継男は、「夜這いは禁止らしいですわ」と言う。
「忠明みたいなよそもんだけや」。
そう言うと、継男にしなだれかかってくる。

硬直して立ち尽くす継男は逃げようとするが、えり子に「おばやんに今晩のこと言おうか?」と言われた。
動きが止まった継男は、えり子に押し倒される。
継男は、えり子に軽く翻弄されてしまう。

その翌日、ミオコが金の無心に来る。
応対に出た継男にミオコは流し目を送り「うちのおとうちゃん、しばらく家空けてるから夜、暇やったら遊びにおいで。…女1人の夜って長すぎるんよ」と言った。
その通りに継男はミオコの家に行き、関係を結んでしまう。

次の朝、山の中でやすよと待ち合わせしてあった継男は「顔色が悪い」と言われる。
「咳がひどいんよ」。
だが継男は、もうすぐ兵隊の検査で、甲種合格で名誉挽回と言った。

見下ろす村の風景に、忠明ら3人が奇声を上げながら入ってくる。
家の前に積んであるわらを川に叩き込み、忠明たちが奇声を上げて歩くのを継男とやすよの2人はじっと見つめる。
やすよが「あの人、殺されるかもわからん」と思いつめた表情で言う。
「忠明か?」

「勇三さんがうちに来て、そんな話、父ちゃんとしてた。今まで日暮谷が平和にやって来れたんは、よその人間を入りこませへんかったからやって」。
「村に必要のない人間は、この山に埋めたんかもしれん」。
やすよが村を凝視する。
継男も見る。

見下ろす村が、夕焼けで真っ赤に染まっていく。
子供が、小川のほとりの村の道を走っていく。
山の背景が真っ赤だった。

家の前では、焚き火が燃えている。
2人は黙ってその風景を、ずっと見ている。
どんどん、血の色に似てくる。

継男が口を開く。
「狭い村の中だけで、男も女も誰彼なく混じりおうて、子供作って、川に流して…。気味悪いなあ」。
それを聞いたやすよは言う。

「女は違う!」
きっぱりした口調に、継男がやすよを見る。
「違うと思う。ここの女は寂しがり屋や。寂しがり屋やったんや」。

やすよは、継男に組み紐を渡す。
何種類もの色が組み合わさった、綺麗な組み紐だった。
「綺麗やなあ。自分で作ったんか」。
「あげる。継やんに」。

やすよは継男に背を向ける。
「女のほうから打ち明けるやなんて、昔の人もひどいこと考えはったもんやね」。
継男は紐を握り締め、「大切にする」と言った。

「昔は兄弟とか親子でも結婚したそうやけど…、気持ちだけ受け取って」。
継男とやすおは、血縁が近いため、一緒にはなれないらしい。
「やすよ、ありがとう!」

翌日、兵隊の検査だった。
継男はグラウンドを走らされ、その後に軍医による検査が行われた。
だが軍医の前で、継男はいつまでも息を切らせていた。

軍医は継男に「この申告書は自分で書いたのか」と聞き、継男の診断に「肺結核」と書き込んだ。
衝撃を受けた継男は「もう一度お願いします」と言うが、「帝国陸軍の軍医を信用しないのか」と一喝される。
「そんな体で、帝国陸軍の兵隊が勤まると思うのか!しっかり養生せい!」

「肺ですか?」
「結核じゃ!次!」
継男は立ち尽くす。

会場の入り口で、継男は座り込み、子供のように泣きじゃくった。
泥が涙にこびりつき、目の周りを黒く彩った。
その顔のまま、継男は戻ってきた。

いつものように「こんにちは」と挨拶したが、村人は継男を避けていく。
こちらに出てこようとした男が継男を見て、引っ込む。
「おばちゃん」と声をかけるが、その女性も継男を見てあわてて家に引っ込む。
祖母を心配した継男は外に出ると、女性が2人、影から見ている。

「おばやん、知りませんか」。
「知らん!」
「守、帰ってきましたか?」
女性は答えず、すっと家の中に入ってしまう。

その夜、継男は咳き込んだ。
祖母は卵を持ってきた。
しかし、継男は「こんなもんで治るならとっくに治ってる」と言うと、卵を弾き飛ばす。
卵が2つ割れ、「何するんや!おばやんの気持ちわからんのか!」と祖母が言う。

我に返った継男は、「おばやん、ごめん」と言う。
机の上に卵が5つ並べられる。
ひとつを割って、丸呑みする。

「もうひとつ、どうや」
手渡されて、継男は卵をもうひとつ、飲む。
そして、父親の死因を聞く。

「おかあちゃんは?」
「2人とも病気や。けど、胸の病やない」と祖母は答える。
「ほんまか。肺病は遺伝する言うて。この体の血、全部入れ替えんと病気治らんわな」。
「うまいもの食って、ゆっくりしとったらじき治る」。

「最初、本条さんもそういっとった。嘘はいかん。本条さんもおばやんも」。
そう言って、継男は次々卵を飲んだ。
顔をしかめながら、次々飲む。
祖母は顔をくしゃくしゃにして、それを見ていた。

翌日、継男は、山でやすよと会った。
会う場所は、いつもここだった。
やすよは継男の手を取り、歩いた。

座ると、やすよは顔を伏せ、「ごめん、おとうちゃんらがうるさいんよ」と言う。
「俺は兵隊になりたかった。先生なんかより、ずっとなりたかったんや。鉄砲持って男らしい、お国のために戦いたかった。もうええ、かえったかてかまわへん。誰も相手にしてくれへん。聞いてくれる人、ほしかっただけやから」。
「ううん。聞いてあげられへんかもわからん。前にあげた紐、捨てといて」。

「来月結婚するんや」。
やすよはそう言うと悲しそうに「継やん、うちは病気がどうやからいうて、よその人のところ、いくのと違う。それだけ今日は、言いに来たんや」と言った。
「どないしたらええん。戦争にもいけん。お前とも別れんならん」。
「いつまでもしょぼくれとらんと、男らしゅう元気出して!前の継やん、うち…、大好きやったよ!」

やすよは走って行ってしまう。
残された継男は、情けない顔をして残る。
継男は山にいる犬に向かって、四つんばいになって吠え掛かる。
犬は継男に吠え掛かる。

そんなことをしていた継男が咳き込んでいると、見かけた和子が飛んでくる。
手ぬぐいを差し出すので、継男は「汚い血で汚れてしまうぞ」と言う。
だが和子は「洗ろうたらしまいや!」と言った。

咳き込む継男の「背中さすったげようか?」と言い、「かまへん。遠慮せんかてええのに」と言ってさする。
親切にされた継男は、手ぬぐいに和子の良い匂いが残っていると言う。
「いややわあ、継やん」。

和子はそう言って、逃げていく。
その後姿に、継男はあたたかいものを感じた。
傍らの犬に継男は「地獄に仏や。なあ?」と話しかけた。