俺の標的だ 「嘘の戦争」第4話

第4回。


隆は五十嵐に面会に行ったが、五十嵐は話ができるような状態ではなかった。
ただ、隆が見せた浩一の写真を見た五十嵐は、ひどく興奮した。
しかし千葉陽一はオーストラリアに在住していて、HPも存在している。

隆は千葉陽一がいた病院を訪ね、三瓶の名を聞き出していた。
陽一の面倒をよく見ていた医師だ。
千葉の後輩だが今は病院を辞め、養護施設をしている。

その三瓶は浩一とハルカが結婚するものと思い込んでいる。
何でも離婚した妻との間に娘がいるが、離婚後は会えていない。
だから結婚式にも出られない。
なので、浩一の結婚式が楽しみなのだそうだ。

浩一は楓の母の葬儀の時の写真を見ていた。
子供の頃からかわいいと八尋カズキが言う。
「俺の標的だ。汚すな」。
浩一のすごみある言葉にカズキは反射的に「ういっす」と返事する。

1人の妻は事故死。
楓の母である2人目の妻は病死。
葬式の写真中に必ず、仁科興三がもみ消した事件の親の名前があるはずだ。

「いた…」。
花輪の中に浩一は「四条綾子」の名前を見つけた。
衆議院議員で、19歳の時、結婚して子供を産むが離婚。
その息子を溺愛している。

百田は綾子がよく見てもらって頼っていた占い師と知り合いだった。
この占い師は詐欺師ではないが、詐欺師と占い師は似ていると百田は思っている。
だが占い師は最近、亡くなっていた。
浩一はそこに目をつける。

綾子が再開発事業推進のイベントに出ていたが、そこにドローンが飛んできた。
ドローンは綾子の息子に水をかけたが、綾子は無事だった。
ハルカが危険を知らせたため、難を逃れたのだった。
感謝する綾子にハルカは、占い師の十津川の弟子だと名乗った。

十津川は最期まで、綾子のことを案じていたとハルカは言う。
綾子はあっさり、ハルカを信用し、打ち明け話をする。
こうして浩一は綾子を罠にかけていく…。

一方、晃と隆の会社を巡っての軋みも本格化していた。
仁科家の中で、誰にも期待されていない人間だ。
慰める浩一に晃は「もう良いよ、そんな見え透いた嘘は!」と口走る。
「嘘」。

浩一がつぶやく。
苛立つ晃に浩一は、仁科コーポレーションの経営を分析し、今後の戦略についてまとめたUSBメモリを置いてきた。
隆の役に立つはずだ。
晃は「いつのまに」と、驚く。

楓の気持ちも浩一は、確実につかみ始めていた。
目標は1ヶ月内にプロポーズ。
そして、会長の仁科興三に近づく。
順調に進んでいる。

「結婚詐欺の才能もあったんだ」。
ハルカの言葉に浩一は「俺も知らなかった」と答える。
今回の標的は、四条綾子と息子だ。
「親子ともども、地獄を見せてやる」。

今回の標的は、衆議院議員の四条綾子とその息子・司。
占い師の言葉に綾子は見事に騙され、5億円を奪われた。
息子は出資法違反で、逮捕。

追い詰められた司は「主犯は九島亨だ。俺はただ、見ていただけだ」と浩一に口走る。
「知っていて何もしないことは、殺したことと同じだ」。
怒りを込めて、告げる浩一。

四条から、六反田が録音したテープがあることを知った二科興三は「六車を呼べ」と言う。
それを聞いた興三の秘書・七尾伸二も、隆も顔色を変える。
「暴力を使わなくても解決するはずです!」
「甘いな」。

「30年前の過ちを、もう一度繰り返すつもりですか」。
六車が動く以上、隆はもう関わらせない。
興三はそう言って、隆に1週間の猶予を与えた。
それですべてが明らかになれば、六車は必要ない。

隆は悩んでいた。
妻がどうしたのかと、心配するほどに。
隆は、USBをパソコンで見た。
USBには、ウイルスが仕込んであった。

綾子から強奪した5億円を、全額寄付したことに百田は納得していなかった。
「俺は納得いってないからな」。
そしてやっと、これが浩一の復讐であることを本気にした。

浩一が出て行った後、百田は「冗談じゃねえ。復讐なんかに協力できっかよ」と言った。
だが二科は金になる。
百田はカズキに、だから浩一に協力するふりをしてどこかで金をとると言う。
カズキは戸惑いながら、うなづく。

その頃、ハルカは楓の前に現れていた。
自分の姉も医師だと話しかけたハルカは、楓に「お幸せに」と言った。
浩一からプレゼントされた指輪を「でも気を付けてくださいね。そんなもので気を引くような男」と言った。

「それ、ネットでも数百円で買える安物ですから」。
そう告げて去っていくハルカ。
歩きながら、「何やってんだろう私」と、当惑したようにつぶやく。
浩一は「九島亨。お前が終われば次は二科興三だ」と言っていた。



おお、今日が第5回、放送。
遅れてしまった。
先週は六平さんとのシーンにジーンとしました。

今週は、再び冷酷なる復讐モードに。
そして微妙なさざ波が起きていました。
四条綾子は、ジュディ・オングさんです。

「知っていて何もしないことは、殺したことと同じだ」。
最初にカズキに「俺の標的だ。汚すな」と言った時と同様の、すごみがありました。
一瞬に鋭さとすごみを込める。
楓に見せる笑顔との裏表の落差。

六車って、「任侠ヘルパー」に出てきたインテリさんと同じ名前ですね。
しかし隆の顔色が変わるほど、怖い人物らしい。
隆が止めに入り、興三が六車が出て来るなら隆はもう関わるなと言うほどに。
妻が隆に、どうかしたのかと聞くほどに。

これを見ると、隆は本当に悪い人じゃないみたいなんですよね。
どんどんわかってくると、どんどんつらくなります。
今回の標的の綾子と司は、あんまり同情できる人物じゃなかったですが。

奪った5億円を、浩一は全額寄付してしまう。
綾子が以前、町の募金活動を「偽善よね。私、こういうの大嫌い」って言っていたから。
しかしそれが、百田との間に亀裂を入れる。

本当に浩一の目的が復讐だと知った百田は、復讐を利用して金を奪うとカズキに言う。
ハルカは嫉妬が抑えられず、ついに楓の前に現れてしまう。
これだから仕事に、恋愛は持ち込んじゃいけないんだと思う一方、ハルカの気持ちもわかってしまう。
浩一が知ったら、怒るぞ~、ハルカ!

自分と浩一は仕事のパートナー。
楓は標的。
わかっていても、抑えられない何かを感じてるのでしょうか。

それから隆が三瓶に会いに行きましたが、三瓶はすぐに追い返した。
追い返したけれど、名刺を見て考え込んでいる。
やっぱり、三瓶は30年前の事件に関係しているのかもしれない。

六車と言う人物。
浩一たちの間で、すれ違う気持ち。
三瓶のことを知った時、浩一がショックを受けるような事態になるのでしょうか…。
それはつらすぎる。


好きな話じゃないけれど

書いていて、とても疲れます。
つらくなります。
利一を東尋坊につれていく前で一度、書くの挫折してます。
ここで終わってどうするんだ、ってところですよね。


大好きな大好きなお父さん。
自分がしゃべったら、大好きなお父さんが困る。
大好きなお父さんのために、あんなに小さいのに。
あんなに、ひどいことされたのに。

こんな目にあわされてもかばうなんて、親子だなと言う刑事の言葉。
一瞬でも「似てないよ」と言われたことが、引っかかった宗吉には恥ずかしかったに違いない。
利一は大好きなお父さんのために、自分の存在を消し去るつもりだ。

ここに出てきた登場人物の誰より、利一は純粋で強く、人間らしい。
恨んでない。
憎んでない。

利一の足元にひざまずいて、号泣する宗吉。
いっそ、罵られたほうが楽だったでしょう。
何年も修行をして、それでもたどり着けない自己犠牲という、最も崇高な行為を利一は自分に対してやっているわけですから。

菊代に子供ができたと言われた時、うれしそうな宗吉。
後の話を知って見ると、とても残酷なシーンです。
「生んでくれ!」
「俺、子供欲しかったんだ」。

何という残酷な場面でしょうか。
お梅はひたすら怖いけど、最初から鬼畜だったわけじゃない。
言ってましたね。

あたしと一緒になったから店が持てたんじゃないか、一緒になってなかったら、渡りの職人じゃないかって。
銀行員も言っていました、奥さんは、やり手だって。
それが愛人を作られて、子供まで作られていた。

鬼のようになってもしかたがない。
また、菊代が逆上したとはいえ、人として品格を疑われることを言っている。
お梅が一生懸命働いてきて、宗吉はそれだけでも、お梅に頭が上がらない。
それなのに、外に愛人を作った。

子供ができた。
喜んで、生ませた。
ひどい。
さらにそれを愛人が、子供がいないお梅に向かって指摘し、最後には嘲笑した。

こんなことになった元凶は宗吉。
お梅に人として、やってはいけないことをやった自覚があるはず。
傷つけたことが、わかっているはず。
だから元々、頭が上がらなかったお梅が何をしても、止めることができない。

お梅に「子供を自分が生んだんで、頭にきているんだろう」と言った時の菊代の顔。
これもまた、鬼畜の顔。
「わかりました」と言った時点で菊代はもう、眠る前に子供を置き去りにすることを決心していたように見えます。

それは宗吉たちに対する復讐でもあり、菊代がこれから生きていくのに邪魔だと言う計算も見えます。
しかし、だとしても子供を、あそこに置いていくというのは、どうにも理解できない。
仕返しにはなるけど、お梅に子供を押し付け、宗吉の性格を知っていたら、子供がどうなるかなんてわかる。
鬼畜生!と叫んだ菊代もまた、鬼畜だったということでした。

岩下志麻さんと小川真由美さんの最初の対決は、極妻なんてもんじゃないです。
小川さんはこの後、全く出ませんが、強烈な印象を残します。
男性にとっては悪夢じゃないですか、この事態。
岩下さんはこの後、「疑惑」では桃井かおりさんとも今度は理性的ながら、バチバチの対決を見せてくれます。

庄二が殺され、良子が置き去りにされ、利一は自分はそうはいかないと示す。
そこで宗吉は、利一を連れて出る。
良子も利一も、あんまりそういうことがなかったんでしょうね。
それがわかる様子が見ていて、痛々しい。

能登に行った宗吉が酔って、利一に語る自分の生い立ち。
「六つの時、母ちゃんもどっかに行っちまった」って、まるで、利一たちと同じです。
「でも一番嫌だったのは、弁当持たずに学校行くのだったな」。
この時の宗吉の、声の崩れ方。

「人の、だぁれもおらん運動場」。
もう、本当に本当につらそうで。
1人、運動場にポツンといる少年が目に浮かぶような語り口。

「父ちゃんのこと、奉公に出したまんま。捨て猫みたいに置いてきぼりだ」。
哀れだった。
でも、宗吉は良子を、捨て猫みたいに置いて来た。

誰よりもつらさがわかっているはずなのに、同じことしてしまう。
宗吉は徹底して弱くて、情けなくてみっともない。
さすが緒形拳って感じです。
良子の行方を聞く利一を連れて行く時の顔は、これもまた鬼畜でした。

この人は、刑務所でも小さくなって、仲間はずれにされるんだろうなと思う。
腹が立つにしろ、同情するにしろ、宗吉という男がダイレクトに感じられる。
いや、岩下さんにしろ、蟹江敬三さんにしろ、本当にこの登場人物の今までの人生が感じられるように演じてます。

蟹江さん演じる阿久津は、あの家がもう、嫌で嫌でたまらなかったんでしょう。
晴れ晴れとして出て行く感じがしました。
刑事に呼び止められて、本当にかかわりにならなくて良かったと思うことでしょうね。
最後にちょっとだけの出演ですが、婦警役の大竹しのぶさんが存在感を示してくれます。

自分で自分のことを選べない者に対しての仕打ちは、見ていて本当に不愉快。
嫌いな人、多いでしょうね、この映画。
私も見ていて、書いていて疲れました。
後にビートたけしさんと黒木瞳さんでドラマになりましたが、私はもう、見なかったです。

でもこれ、もう、40年近く前の作品なんですよね。
初めて見た時は子供の側で、宗吉もお梅も菊代もひどい、と思いました。
今は自分も大人の側にいる。

だからお梅の気持ちも、宗吉の弱さも、菊代の意地も。
察しがつかないわけではないです。
良いとは思わないけど。

最後の児童相談所の男性の言葉が、まるで現在のことを語られているみたいで、切ない。
嫌な映画で、好きな話じゃないけど、一度は見ておいて良い映画なのかもしれません。
俳優さんたちの演技は素晴らしいですし。

救いのない話の中、岩下さんが以前トーク番組で、言っていました。
あの、子供にご飯を詰めるシーン。
監督に本当にやるんですかと聞いたら、本当にやってくださいと言われて、すごく気が重かったそうです。

子役が怯えるのはわかっていたので、撮影にはいつもたくさんのお菓子を持って行った。
そして、おもちゃのプレゼントも持って行った。
休み時間には一緒に遊び、おばちゃんはいじめたりしないよ!あれはお芝居なんだよ!ということをわかってもらおうと必死だったそうです。

そのかいあってか、利一くんと良子ちゃんは、わかってくれた。
でも庄二くんはダメだったそうです。
岩下さんが来た途端、火が付いたように泣く。

そう言うと、その番組には庄二くん役だった子が来ていました。
中学生になっていました。
岩下さんは「ごめんねえ、ごめんね」と言っていました。

庄二くんは、全然覚えてないと言ってました。
司会は「俺、志麻に膝の上で飯食わせてもらったことがあるぜ!って自慢しなよ」と言ってました。
岩下さんは胸にずっとつかえていたものが下りたようで、とっても良かったとおっしゃっていました。
私も聞いていて、ほっとしましたよ。

「ママが迎えに来るまで良い子でいなきゃだめよ?わかった?」と言われる利一。
利一はずっと、良い子で我慢してましたよ…。
宗吉にもお梅が面倒見てくれるから、良い子でいろって言われてましたよ…。
この子は運が強い子だよっておそらく、派出所の奥さんだと思う女性が言ってました。

本当にそうだと信じたい。
良子とも会えて、そして利一は幸せになったと思いたい。
宗吉が利一にやってしまった不幸の連鎖を終わらせる強さが、利一にはあったと信じたい。
こんなきついお話にお付き合いくださった方、ありがとうございます…。


大好きな大好きな… 「鬼畜」(3/3)

翌日、利一は「よっこいないの」と言った。
「どこ行っちゃったんだよう、よっこ」。
宗吉は「表行って遊ぶんだ!」と叱った。

「よそで預かってもらったんだ」。
「言うこと聞かないと、お前もやっちゃうそ」。
利一が黙る。

「よっこいないの」。
今度は阿久津にしがみつく。
「もう帰ってこないの」。

阿久津が「どこ行ったんだ。ママんところか」と聞いた。
「ママんとこなんかじゃないね」。
「ん?ママんとこだろ」。
「違うね」。

宗吉とお梅の顔色が変わってくる。
「こら、仕事の邪魔すんじゃないよ」とお梅が言う。
「ねえ、よっこどこいったんだよ」とまた、阿久津に言う。

「ママんとこだろう」。
「違うね」。
「ねえ、どこ行ったんだよ」。
宗吉は利一を抱いて部屋につれ、放り出す。

お梅がビンを宗吉の前に置く。
「青酸カリ」。
銅板屋が置いて行ったものらしい。
少しずつ、だんだん弱るから、気づかれないとお梅は言う。

利一は、良子のようなわけにいかない。
年は6歳。
置き去りにしても、住所も言えるし、名前も言える。
気が進まない様子の宗吉にお梅は言う。

「あんたあいつの目、まともに見れる?」
「あいつの目は何もかも知ってる目だよ。庄二のことも、良子のことも」。
「あたしは今朝みたいなこと嫌だよ、心臓止まっちまうよ」とお梅は言った。
「あんただって、青い顔してたじゃないか」。

「でも庄二は俺じゃねえ」。
「あたしがやったっての。あたし一人に押し付ける気!」
「俺は何もしなかったし」。
「とぼけないでよ!」

お梅は宗吉を叩いた。
「あんた、片付いて助かったって顔してたじゃないか!「」
「あんただって、シートがずり落ちたら、って、そう考えてたじゃないか」。

「ちゃんとわかってんだから!いいよ、この際、チビのことはどうだって」。
「でもね、良子のことは、これっぽっちだってあたしゃ、知らないよ!あんたが一人で始末したんだから」。
そう言うとお梅は、「いやだいやだ!こんなのたくさんだ」と言った。

利一は一人で、商店街を歩いている。
駅に向かい、誰かの連れのようにくっついて改札を通る。
電車に乗り、男衾の駅に着く。

また、誰かの連れのような顔をして改札を通る。
元の家に戻る。
誰もいない。

利一は裏の山に上ると、隣の家の水浴びを見る。
親子の水遊び。
利一は、じっと見ている。
日が暮れて、橋を利一は一人で渡っている。

宗吉とお梅は、利一が暗くなっても戻らないので、パニックを起こしていた。
「冗談じゃないよ、あたし知らないよ。まさかあの女が連れ出したんじゃないだろうね」。
「そんな女じゃない」。
「ふん、あの女のこと、よくわかってんだね」。

「ほっとくの」。
「警察に届けるわけにいかないじゃないか」。
「しゃべりゃしないよ」。

2人は2階を探す。
はらり、と紙が落ちる。
「オニババ」と、お梅を描いた紙だった。

シートが落ちる。
宗吉が飛びのく。
シートが乗った背中を払う。
宗吉の肩から、紙が落ちる。

オルゴールの音がする。
凍り付く2人。
必死の形相で、オルゴールを探す。

庄二のオルゴールがある。
「ちきしょう!」
お梅がオルゴールを投げようとしたとき、パトカーが止まる。
「あんた…」。

利一は、パトカーに乗せられ、戻ってきた。
警官は、ちゃんと住所も言えたし、父親の名前も言えたと言う。
利一は自分を良子のように捨てるわけにはいかないことを、証明して見せたのだ。
殺すしか、ない…。

宗吉は上野動物園に行き、パンに青酸カリを混ぜる。
利一ははしゃいだ。
夕方になり、人気のない道路に宗吉は利一といた。
帰る前に、食べてしまおうと言って、宗吉は利一にパンを渡す。

利一が口にする。
しかし、「苦い」。
利一は吐き出してしまう。

「食えよ」。
「やだ」。
利一が顔をそむける。
「食べろよ!早く!食え!食え!」

宗吉が利一に食べさせようとして、もみ合っている。
横を、若い男女が通りかかる。
その異様さに、男女が立ち止まる。
我に返った宗吉は、座り込む。

利一が走って離れる。
男女は歩いていく。
離れていた利一が「帰ろうお父ちゃん」「帰ろう」と言ってくる。

宗吉は、泣き出した。
利一は宗吉の顔をのぞき込みながら「帰ろう」と言う。
宗吉は泣き続ける。

その晩、お梅は「熱海に錦ヶ浦ってあるだろう」と言う。
「飛び込んだら何日も死体が上がんないんだってさ」。
「うん、でもあの辺は車の量が多いからな」。
するとお梅は鋭い声で、「伊豆のあっち側だってどこだっていけるだろう!」と怒鳴った。

お梅は利一の服のメーカーのタグを、切っていた。
「こうやっときゃ、身元がわかんないからね」。
ぱちん。

翌日、宗吉は利一を連れて新幹線に乗った。
外を見ながら利一は「あ、駅止まんなかったよ」と言った。
「ああ、ケチな駅は止まんないんだよ」。

「あっ、東京タワーだ!」
利一が歓声をあげた。
「見える見えない」。
東京タワーが建物に隠れて、見えたり見えなかったりする。

「見える見えない」。
「見える見えない」。
「見える。ほら、見て見て!また見えた!」
うつむく宗吉。

お梅は汗を拭きながら、印刷機をかけていた。
新幹線が、一直線に進む。
「お父ちゃん、富士山!」とまた、利一が歓声を上げた。

車掌がやってくると宗吉は「あ、乗り越し」と声をかけた。
「この坊ちゃんは?坊やいくつ?」
「五つだよな」と、宗吉が言うと、利一はうなづく。

「父ちゃん、どこ行くの?よっこのとこ?」と利一は聞く。
着いたのは、福井だった。
利一の手を引いて宗吉は、東尋坊へ向かうバスに乗った。

「早く早く!海見ようよ!」
利一は、はしゃぐ。
海は、荒波だった。

利一は、崖の端の方まで行く。
海を見下ろす。
宗吉はその背中を、じっと見つめる。
海が光る。

その夜、居酒屋に宗吉は利一を連れて入った。
賑やかに太鼓が、たたかれている。
花火をしている親子を見ながら、利一は宗吉に手を引かれていく。

利一が立ち止まる。
「おい。行こう」と宗吉が声をかけるが、利一は動かない。
「行こうよ」。
利一は動かない。

夜の駅で利一は、宗吉の膝の上で眠っている。
能登のポスターが、宗吉の目に入る。
夜行で宗吉は、利一を連れて能登へ向かった。
宗吉は、夜の海を利一の手を引いて歩く。

翌朝、光の中、利一は海で遊んだ。
後ろから虫かごと網を持った宗吉が歩く。
また、夜。
漁船が海に出ている。

利一はテーブルの上を這う、2匹のヤドカリを見ている。
酔った宗吉は、利一を前に話し始める。
「父ちゃん花、まじめに仕事一本。脇目も振らず、一生懸命働いた。とおの時から働いたんだ、印刷屋で」。

「小僧のうちは追まわしって言って、人間扱いじゃなかった。つらかったなあ、石版磨きは」。
「石版に使う石に、砥石をかけてつるっつるに磨くんだ。何年も何年も。朝から晩まで」。
宗吉は磨く仕草をする。

「だから見ろ、指だってつるっつる」。
「つるっつる」と言って、利一の顔を撫でる。
利一がくすぐったそうに笑う。

「ははは、へへへ」と、宗吉も笑う。
「父ちゃん、石版の印刷にかけちゃ日本一。名人だぞ」。
宗吉は胸を張った。

「父ちゃんの父ちゃんはもう、生まれた時はいなかったんだ。どんな顔してたかな。六つの時、母ちゃんもどこか行っちまった。それっきりだ。へへへ」。
「それから父ちゃんは、あちこちの親類知り合い、順繰りにたらい回しだ。どこのうちでも貧乏で。どこのうちでも厄介者で。だあれも構ってくれねえ」。
「ふふふ、へへっ」と宗吉は笑った。

「ああ、着るものだっておめえ、恥ずかしいみたいな格好して。でも一番嫌だったのは…、弁当持たずに学校行くの」。
宗吉は遠い目をした。
目に涙が浮かんでくる。

「父ちゃん、昼飯の時間になると、1人で外に出んだ」。
「あの景色…」。
「…忘れんな」。
宗吉の声が、涙声になる。

「人のだあれもおらん、運動場…」。
「へへへっ」。
泣き笑いをしながら、宗吉は酒を飲む。
利一は横になっていた。

「利一、ねみいのか。おい」。
声をかけられて、利一は起き上がる。
「よし、さ、これ食べな」。
宗吉は枝豆を利一の口に運ぶ。

「印刷屋に奉公出て2年目にな、やっとお給金がいただけんだ」。
「そうすりゃ、まんじゅうも買えるし、うどんも食える。たんのしみで楽しみで、もうふたつきもみつきも前から、わくわくしてたよ」。
声に笑いが含まれる。

「ところがお給金の日に、父ちゃんだけ出ねえんだ」。
利一は父親を見ている。
「父ちゃんのこと、奉公に出したおじさんが父ちゃんの給金、そっくり前借りしちまってたんだ」。
「向こう何年分も、そっくり」。

「ガックリしちまった…」。
「そのおじさん、あちこちに借金してて、二進も三進もいかなくなって夜逃げしちまった」。
「父ちゃんのこと、奉公に出したまま」。

「捨て猫みてえに置いてきぼりだ」。
「ひでえもんだ…」。
「へへへっ」。

宗吉は泣きながら笑っていた。
「ひでえもん」。
「へへへっ、へへへへ。ひでえもんだよ」。
その夜、お梅もまんじりともせず起きていた。

翌朝。
宗吉と利一は、宿を出る。
宿の主人が「どうも、上りですか、下りですか」と聞いてきた。
「え、ええ」と、宗吉は口ごもる。

「お父ちゃん、見て見て!」と利一が呼ぶ。
「じゃ、どうも」と言って、宗吉は外に出る。
「お船に乗ろう」と、利一が言う。
「う、うん」。

2人は、小さな遊覧船に乗る。
「ほら、灯台だ」。
「あっちに島が見えるぞ」。
「おーい」と、利一が叫ぶ。

船を下りると、利一は海の方へ走っていく。
岩場だった。
「父ちゃん、ほら、カニ!」
「おお、いたか」。

バスが来る。
宗吉と利一が、乗っている。
バスが関乃鼻という停留所で止まる。

「父ちゃん、早く早く」と利一が急かす。
「利一、おい利一。あぶねえぞ」。
宗吉がそう言った時、利一が転んだのか、姿が見えなくなった。

「どうした!」
宗吉は思わず、駆け寄る。
崖の下は波の荒い海だった。

宗吉は利一に駆け寄って、助け起こした。
利一は、絶壁の端まで走って行く。
「あぶねえぞ」。
「大丈夫だよ」と、利一が言う。

「見てみて、ほら」。
利一が、崖の下を指さす。
宗吉は息を詰めて、下を見る。

岩に、波が激しく打ち付ける。
夕日の中、断崖に2人の影が黒く浮かび上がっている。
利一を抱き、宗吉は後ろに下がる。

夕日で赤く染まる海。
薄暗い中、バスが停留所に止まっている。
バスが、出て行く。

そのバスから少し離れた木の下で、宗吉がバスを見ている。
利一は、宗吉の膝に頭を乗せ、眠っていた。
「利一、利一」と、宗吉が言う。

「もう行かなきゃ」。
「起きな」。
何の抑揚もない、平らな声だった。

利一は眠っている。
宗吉は利一を、じっと見つめる。
利一を抱きかかえて、立ち上がる。

宗吉は、ふらふらと海のほうへ歩く。
夕日が沈んでいくところだった。
下は海。
岩を波が洗っている。

宗吉のジャケットが、落ちる。
利一は寝ている。
その顔に夕日が映る。
宗吉の顔にも夕日が映っている。

利一を抱いた宗吉のシルエットは、夕日の海に向かって黒く浮かんでいる。
次の瞬間。
宗吉は力尽きたように、手を下に伸ばした。
利一の姿が消える。

夕日が、海に沈んで、半分になっている。
波が岩を洗っている。
ざぶん。

波の音だけが、響く。
宗吉は虫取り網を海に向かって、投げた。
利一のかぶっていた帽子も投げる。

うろうろと辺りを探し、ジャケットを持った。
宗吉は暗くなりかけた道を、1人、引き返していく。
海は暗くなっていた。

翌朝。
日の光の中、パトカーが走る。
地元の消防隊員が「おうい、何か見つかったか」と叫んでいる。
「もうちょっと手前!」

派出所に利一が、寝かされている。
「子供だけ突き落とされたんだ。心中じゃないね」。
地元の漁師が、利一が松の根元に引っかかってるのを見つけて通報したのだ。
昨日バスで、父親らしいのが一緒だったのが目撃されていると派出所の警官は言った。

傷だらけの利一が、「うーん、うーん」とうなされる。
「おっかねえ夢見ているんだ。かわいそうになあ」。
利一を仰いでいる女性が「良かったねえ。この子はきっと、運の強い子だよ」と言う。

利一の着ていたシャツも、メーカーのタグが切ってある。
どうやっても事故ではないと、判断された。
シャツも靴も傷んでいる。

石けりの石が、ポケットに入っていた。
利一は、それだけしゃべったらしい。
「誰かをかばってるのかな」。

はい、と婦警さんが利一に、お菓子を出した。
利一は黙っている。
「仲良くしてくれないの?仲良くして!名前…、忘れた?」
「あきひろくん?はるきくん?…じゃあ、まさやくん!」

利一は、しゃべらない。
お年は?と聞かれると、指で7を示した。
「ねえ、坊やは五つじゃない。だってこないだ、お父さんと泊まった旅館、あそこで女中さんに五つって言ったじゃない。忘れちゃった?」

「良い子は嘘ついちゃ、だめじゃない」。
「お父さんと二人だったのね、どこから来たの?」
「汽車に乗ってきたんでしょ。お父さんの御用で?でなきゃ…、わかった!」

利一が、婦警を振り向いて見た。
「遊びに来たのね!そうでしょ!」
利一が、うなづく。

「ああ、やっぱりね。お船に乗ったでしょう」。
「海、綺麗だった?お船を下りて、そっからバスだったのよね?そしたら海の見える崖の上の原っぱに来たのよね?」
「そこで何して遊んだ?遊んだじゃない、何かして。教えて?」

婦警が、利一の肩に手をかける。
「ガッチャマン」。
初めて、利一が口を利く。
「ん?」

「ガッチャマン」。
「ああ、ガッチャマン。それから?」
「カニ、取ったの」。

「取ったカニは?」
利一が首を横に振る。
「それで?」
「眠くて」。

「ああ、眠っちゃったのね。それから?」
「落っこっちゃったの」。
そう言うと、利一は黙る。
刑事もため息をつく。

「おかしいじゃない、1人で落っこったなんて。眠ってる間に、ひとりでに歩いてったの?」
「そうじゃないわよね?起こしてくれなかった?お父さん」。
利一は黙っている。
「ねえ、思い出してよ」。

「眠ってる間にどうして、落っこちたか。お父さんどこ行ったのかな?」
利一は、正面を見ているだけだった。
「おうち帰っちゃったのかな?」
すると今度は、主任が厳しい口調で言い始める。

「坊や、なぜ黙ってんだ。今聞かれたこと、ほんとはみんな、知ってるんだろう?ん?」
「知っているのに黙っているのは、とってもいけないことなんだよ。うちのことだって、お父さんのことだって、言えるね?」
「坊やの知ってること、おじさんたち、ちゃんとわかってるんだぞ!言いなさい!」
だが利一は、じっと前を見たまま黙っている。

「いつも暑いすね」と、一人の男が刑事部屋に入って来る。
課長の名刺を持ってきた業者だ。
机の上に置いてってくれと言われた男が、別の机の上にあるものに、ふと、目を止める。

それを手に取る。
利一のポケットに入っていた石だった。
「どうかね」。
利一のそばにいた刑事が出てきたので、他の刑事が聞く。

「主任が頭にきてますよ」。
そう言った刑事が、男がいる机のそばにやってくる。
「おい、何見てるんだい」。

「お世話になってます。いやあ、珍しいものありますね」。
「ええ?珍しいものって?」
「かけらですけど、こりゃ石板に使う石材ですよ。今時珍しいなあ」。

そう言って男は「模様みたいなのが残ってますな」と言った。
「おい、これどんな模様か、印刷できるのか」。
刑事が色めきたつ。

「ええ?でも」。
「できるのかできないのか」。
「すいませんちょっと…、アラビア糊を敷いて、インキをかければどうかなあ」。

竹下印刷では、阿久津が挨拶をしていた。
お梅が「どうしても田舎に帰んなきゃいけないの」と、悲しそうに言う。
阿久津は、年寄りの面倒見なきゃいけないし、4つになる子供も喘息気味だしと言う。
今から出直しだと大変だが、やるしかないと言って、「お世話になりました」と挨拶をした。

道に出た阿久津を、刑事が呼び止めた。
宗吉が、階段下に座っている。
腑抜けたようだった。

「陽気のせいだね。気がつくと、あたしもボケーッとしてるよ…」。
お梅がしみじみ、言った。
水の音がする。

宗吉が顔をあげる。
立ち上がる。
「だけど、なんだな。みんな生きてくのに苦労してんだな」。
そう言って、機械を回し始める。

家の外に、刑事が立っている。
宗吉が見る。
目に恐怖の色が浮かぶ。

刑事が、2人になっている。
お梅が不思議そうに、宗吉を見る。
やって来る刑事。

今度はお梅が、刑事を見ている。
「竹下さんですね」。
宗吉が呆然としている。

新幹線の中。
刑事が「おかしな男だよ」と言う。
「自分が殺すところだったくせに、生きてたって聞いて本当に助かったって顔してやがる」。
トイレから出てきた宗吉が、手錠をかけられ、2人の刑事に挟まれて座る。

宗吉は能登南警察署に着いた。
「せがれを連れてきてやるからな」。
刑事が「チビはな、お前のことについちゃ完全黙秘。とにかく親の名前も住所も、どんな職業でどんな顔してるのか、どう脅してもだましてもすかしても絶対に口を割らなかったんだよ」。

「あんな目に遭いながらかばうなんて、やっぱり親子なんだよな」。
「おいっ、お前!良く罰が当たらなかったもんだな!」
「何て言って謝るんだ?」
「え?謝り切れないだろう!」

利一が婦警に、連れられてきた。
目に涙をためながら、微笑む宗吉。
利一が見ている。

「さあ、坊や。見てごらん。あの人」。
刑事が宗吉を指さす。
「知ってるよな?誰だか言ってごらん。ほらっ、さあ」。

利一は、黙っている。
「言いなさい。坊やのお父さんだろ」。
利一は、首を横に振る。
口を開ける宗吉。

「どうしたんだい坊や!もういいんだよ、ほんとのことを言っても。みんなわかったんだから」。
「な、坊やのお父さんだな」。
「違うよ父ちゃんじゃないよ」。

刑事は、利一の言葉に仰天した。
「坊や、何を言うんだ!え?どうしたんだよ、坊や!」
「父ちゃんなんかじゃないよ、知らない人」。

「父ちゃんじゃない」。
利一は、言いながら泣いていた。
「よその人だよ。知らないよ」。
「父ちゃんじゃないよ!」

利一は、泣きじゃくり始める。
立ち上がる宗吉。
利一の前に、膝まづく。

「勘弁してくれ利一」。
「勘弁してくれ利一」。
そう言うと、「おおおお」と泣き始める。

「利一」。
「うわああああ、利一、勘弁してくれ利一」。
宗吉は利一の足の上に頭を乗せ、這いつくばっていた。
「うわあああ、ああああああ」。

利一は、激しく泣きじゃくっていた。
「勘弁してくれ」。
「うう、ふううう」。
見ていた婦警も、刑事たちも沈黙していた。

「捨て子は今でも、多いですか」。
児童相談所の男に、刑事が聞いている。
「いや、多いと言うほどでは。それより若い親で、子を育てる能力と言うのか、育てる意思のないのが増えてねえ」。
男は仰ぎながら、言う。

そこに、利一が連れられてくる。
「どの養護施設も満員ですわ」。
「あ、もういいのかね」。
「ええ」。

涙を目にためた宗吉が、連行されてくる。
利一を見る。
立ち止まる。
笑いかける。

だが宗吉は、後ろから押されて歩き出す。
うなだれている。
留置所へ向かう扉が開かれる。

児童相談所の男は、利一に優しく話しかけた。
「坊や、坊やがこれから行くところにはね、坊やみたいな子が、何人もいるの。だから、すぐ友達ができるよ」。
児童相談所の、白い車が警察署の前に来る。

利一が中に入る。
婦警が優しく言う。
「男でしょ、元気出さなきゃだめよ!ママ、きっと見つかるわ。ママが迎えに来るまで良い子でいなきゃだめよ?わかった?」
利一が、うなづく。

児童相談所の車が、出て行く。
利一はその車の中で、じっと前を向いていた。
海沿いの道を、車は走っていく。
白い車は、利一を乗せて遠くなっていく…。


地獄だわ 「鬼畜」(2/3)

出入りの業者にもお梅は、「見てよ、あの3匹」と言った。
「あれがうちの亭主が、よそでこさえてきた、こ・ど・も!」
小さな庄二が泣いた。

お梅が「うるさいね、泣かすんじゃないよ!ぐずぐず食べてないで2階行きな!」と怒鳴る。
歩いて行く利一が、お梅にぶつかった。
「こら、どこ見て歩いてんだよ!」

お梅が手をあげると、利一がさっと顔をかばった。
顔をかばった手の間から、お梅を見る。
「何だよその目は」。

そう言うと、お梅は利一の耳を引っ張った。
「いたあい」。
「どうしたんだ」。
宗吉が飛んでくる。

「性悪だよ、こいつ!見て、この目つき!あの女にそっくりだ!」
庄二の泣き声が響く。
「まったくうるさいったら、ありゃしない!」
「じゃあ、あたしはこれで」と、業者が腰を上げた。

「新規の、とってきてよ」と、お梅が言う。
「良いのかね、あんな値段で」。
「うちはね、今は際どい値段じゃなきゃ、おっつかないの!」

業者が帰った後、利一と良子は2階で絵を描いていた。
それを見たお梅は「商売用の大事なケント紙!」と言って、利一をバシッと叩いた。
「いたぁい、いたぁい」。
階段下に利一の声と、お梅の叩く音が聞こえてくる。

「いたぁい、いたい」。
「こんちくしょう!」
宗吉と阿久津が、階段下から上を見ている。
阿久津が「地獄だねえ」とつぶやいて、仕事に戻る。

この日から、子供たちの地獄が始まる。
長い付き合いの得意先を失って不機嫌なお梅が、家の中に入ってくる。
座敷の奥には、ちゃぶ台が置かれていた。

赤ん坊の庄二が、味噌汁が入っていた椀を炊飯器にむけてあけている。
無邪気な、いたずらだった。
だが、それを見たお梅の形相はものすごいものに変わった。

宗吉が銀行から融資を断られて戻ってくると、お梅のヒステリックな声と庄二の泣き声がする。
「早く食べたきゃ食べろよ!ええ!食べたいんだろう!食べりゃいいだろう!」
お梅が正二を抱きかかえ、口の中にご飯を詰め込んでいる。

宗吉がかばんを落とし、「どうしたんだ」と駆け寄る。
「甘やかすからいけないんだ!」
お梅はまた、ご飯を手に取る。
「こうやらなきゃ、骨身に堪えないんだ!」

そう言うと、ぐいと子供の口に、手につかんだご飯を詰め込む。
「やめろよ、お梅。よせ、よせったらよせよ」。
「食べたいんだろう、もっと。食べりゃいいんだ、ほれほれ」。
庄二が、泣き声をあげる。

宗吉はただ、お梅にすがるようにオロオロとするだけだった。
「よせよ」。
子供の口には、すでに白いご飯がいっぱいになっている。
髪にも、ご飯がついている。

阿久津が飛んできて、お梅の手から庄二を奪う。
「何しやがんだ!」
「しっかりしろよ!旦那の子だろ!」

そう言うと、庄二を宗吉に手渡す。
「あたしに、あてこすりかい」。
睨むお梅から目をそらすと、阿久津は仕事に戻る。

この時から、宗吉は赤ん坊の庄二は背負って仕事に出ることにした。
自転車で戻ってきた宗吉はお梅の「こら、まちな!」という声を聞いた。
「またか、どうしたんだよ」。
「どうしたんじゃないよ!」

お梅は紙を、宗吉の前にかざした。
「試し刷りのやり紙だよ、俺がやったんだよ」。
「このガキ、何にも言わないのに、あたしが寄ってったら、いきなりこうなんだよ!」

利一がお梅の前に、紙を遮るようにかざしたと言うのだ。
「どうだろう、あの女そっくりだよ!」
「利一!おばちゃんに謝れ!」

だが、利一は逃げた。
「言うこと聞けないのか!」
宗吉が追いかける。
利一は逃げ出す。

いつか父親と行った遊園地の前の鏡に、利一は自分を映している。
後から良子が来て、2人で遊ぶ。
公園に行き、2人は遊ぶ。
利一は、裸足だ。

その夜。
宗吉が寝ているところに、利一がやってくる。
「父ちゃん、起きてえ」。
「何してんだ。夜中だぞ」。

「庄二が」。
「あぶく吹いてる」。
「うるさいねえ」と、お梅が寝返りを打つ。
「いっそ首でも絞めてきたら。何とかしておくれよ」。

宗吉は、医者に駆け込んだ。
医者はいつからこうなのか、と宗吉に聞いた。
「さあ?は、困るね。昨日今日じゃない。栄養状態も悪いね。慢性の胸郭炎」と医者は言った。
「小さい子には、命取りになる」。

診察室から出た宗吉と庄二を見た利一と良子は、「庄ちゃん」「庄ちゃん」と駆け寄ってきた。
宗吉は庄二のミルクを温め、哺乳瓶に入れた。
庄二に飲ませているとお梅が来て、「ワッペンのあがり持ってかなきゃ」と言う。
「わかってるよわかってる」。

庄二に飲ませ続ける宗吉に「今、回してるカレンダー、赤が強いんじゃないの」と言う。
「阿久津は?」
「どっかに引っかかってんだよ」。
それでも庄二から離れない宗吉に「面倒なったって知らないよ!」と怒鳴って、お梅は出ていく。

宗吉が風呂場で、洗い物をしている。
お梅が邪険に、良子を引っ張ってきた。
「全くこの子の頭ったら臭いったら、ありゃしないよ!」

「洗濯機の中に放り込んでやりな!」と言って、頭から洗剤をかけていった。
宗吉は洗ってやるよと言って、泣きべそをかいている良子の頭から洗剤を払う。
「おばちゃんのそばに行っちゃ、ダメだって言っただろう」。

利一は焼け跡に座り込み、がれきでアニメソングを歌って遊んでいる。
「お兄ちゃん」。
良子がやってくる。
2人で、がれきの中に座る。

公園でがれきから出した印刷に使う石板を投げ、2人は遊ぶ。
夕方になり、母親たちが子供たちを迎えに来る。
次々、子供がいなくなる。
それでも2人は遊んでいる。

洗濯物を干し終わった宗吉が、家の中に入る。
宗吉はなぜか、2階が気になる。
カタンカタン、機械の音が響く。

宗吉が、階段下から上を見る。
お梅がいない。
宗吉は、階段を上っていく。

お梅が、2階の棚をごそごそ探り、探し物をしている。
ばさばさ。
下に物が落ちる。

その下で、庄二が寝ている。
庄二の上にビニールシートが乗っている。
お梅がシートを、拾い上げた。

宗吉が、じっと見ている。
「何よ」。
お梅が睨む。
庄二が、えっえっと泣いた。

「何さ!」
お梅にすごまれた宗吉が、去る。
宗吉がいなくなった後、お梅はじっとシートを見る。

「大将、ちょっといいですか。俺、いろいろ考えたんだけど」と、阿久津が宗吉に声をかけた。
言いにくそうに「やっぱり、やめさせてもらおうかと…。災難続きの時に、申し訳ないんだけど」と言う。
だが宗吉は、聞いていない。
「どうしたんだよ、大将」。

「え?」
「どうしたんだよ、聞いてくれないの?」
阿久津は、困ったような声を出した。
「ううん、いや」。

宗吉は、菊代を探しに行った。
だが探し当てたアパートにももう、菊代はいなかった。
近所の人の話では、男が来ていたようだった。

家に戻った宗吉は、暗い部屋に灯りをつける。
部屋には、シートがあった。
その下から、庄二の足が出ていた。
シートをめくる。

庄二は、眠っているように見えた。
オルゴールが鳴る。
宗吉は庄二を、じっと見る。

庄二は動いていない。
宗吉は庄二を抱きかかえ、階段を駆け下りる。
医者に走る。

夜半過ぎ。
戻ってきた宗吉は、水道で頭から水をかぶる。
寝ていたお梅が、振り返る。

「ちびは置いてきたのかい」。
「死んだ」。
「消化不良による衰弱死」。

「医者に怒鳴られた。一週間も、どうして診せに来なかったのかって」。
「火葬場などの手続きがあるんだ」。
お梅は「助かったろう!」と怒鳴った。
「一つだけ気が楽になって」。

宗吉が、お梅を凝視する。
上から、はらはらと落ちてくるシート。
「ああああああ!」

お梅が叫ぶ。
宗吉にしがみついてくる。
「あの子たち見てると、あの女思い出して、先が狂いそうになんのよ!」

お梅が宗吉に抱き着く。
宗吉もお梅を押し倒す。
抱き合う2人。

病院で横たわる、白いシーツをかけられた庄二が映る。
暗い病室で、たった1人。
白いシーツの下の、小さな庄二。

お梅は甘い声で宗吉に「今日どこへ行ってたのよ」と聞いた。
「あの女と会えた?」
うふふふん、とお梅は笑った。
「ちゃあんとわかってんだから」。

「今日ね、運送屋から電話があったんだよ。旦那が見えたけど、あの女が残していった支払いがあるってさ」。
「断ってやったよ」。
「引っ越した後で、いねえんだ」。

「あんた、あの女にまだ、気があったんだろう。ねえ、白状しなよ」。
お梅が宗吉をつつく。
「よしてくれ!」

宗吉は、吐き捨てるように言う。
「あんな女!」
お梅と宗吉は、再び抱き合う。

庄二の墓は、粗末なものだった。
倒れた地蔵の前の、小さな土盛り。
「お兄ちゃん、お花」。
良子が花を持ってきて、利一に渡す。

「良子、これあげる」。
「お兄ちゃん、これあげる」。
「水取って来よう」。

翌日。
「よっこ、よっこ」。
利一が良子を探している。
お梅が掃除をしている。

「よっこお」。
だが良子は、どこにもいない。
押入れを開けてみる。
いない。

宗吉が、良子を連れていく。
川越の駅に着く。
その頃、利一は良子を探し続けていた。
「よっこお」。

良子は公園にもいない。
「よっこおー」と呼ぶ。
お梅が、良子の人形をゴミバケツに放り込んでいる。

「よっこは」。
お梅は答えず、バケツの蓋を乱暴にしめる。
利一は、お梅がいなくなると、人形を取り出す。

宗吉が良子を連れて行ったのは、新宿だった。
デパートのおもちゃ売り場に行く。
「ほら、良子、行ってみろ」。
宗吉が促すが、良子は行かない。

「行けよ」。
良子は、宗吉にしがみついて離れない。
宗吉は良子に、人形を見せる。
そっと離れようとすると良子は宗吉に駆け寄り、シャツの裾を握りしめる。

食堂。
2人の向かいでは、母親と子供が食べている。
良子はそれを、じっと見える。

「おにんぎょうと…、ままごとと…」。
良子が、つぶやく。
そして、今度は宗吉の耳に口を寄せる。
「あのね、あのね、よっこは父さん好きですよ」。

宗吉は良子に「お前、父ちゃんの名前知ってるか」と聞く。
「うん」。
「ほんとか」。
「うん」。

「何て言うんだ」。
「お父ちゃんの名前は、お父ちゃん」。
「じゃあ、おうちはどこだ。迷子になって、よその人に聞かれたらどうする」。

「あのね、よしこのおうちは紙がいっぱいあるおうち。いっぱいあるよね!」
「いっぱいだなあ」。
「いっぱいあるよ」。

隣に女性が座ってきて、良子にいくつ?と聞く。
「みっつ」と、良子が指を3本立てる。
「しっかりしたお子さんですね。今日はママはお留守番?」
宗吉は、逃げるように立ち去る。

東京タワーに行く。
展望台で宗吉は良子に「ほらあっちは銀座だ」と言った。
双眼鏡にコインを入れる。

「ほら、見てごらん」。
「何が見える」。
「びるがみえる」。

「それから」。
「あっ、じどうしゃ」。
「はしがみえた」。

「良く見えるな」。
「おふねが、たくさん」。
「それから?」
「ママのおうち」。

宗吉が、ぎょっとする。
「利一にいちゃんもいる、しょうちゃんもいる」。
「嘘言っちゃだめだ」。
「ほんとだもん。お父ちゃん見て」。

そこで、時間が切れた。
「もういい」。
良子はそういうが宗吉は「父ちゃんちょっと便所行ってくるから、もう一遍見てな」と言う。

「良いか」。
「うん」。
双眼鏡にコインを入れ、宗吉はそこから離れる。

エレベーターに乗る。
一番奥に、壁に頭を向けて立つ。
振り返る。

双眼鏡で外を見ている良子。
良子が双眼鏡から、目を離す。
こちらを、振り返る。
宗吉と、目が合った。

その瞬間、ドアが閉まる。
エレベーターは宗吉を乗せ、下降していく。
はあはあ、と宗吉があえぐ。

薄暗い中、宗吉が東京タワーから離れる。
そして振り向く。
すると、東京タワーに、ライトがつく。
宗吉は逃げていく。

電車の中、東京タワーは窓の外から宗吉を追いかけてきていた。
窓から、東京タワーが見えなくなる。
また見えるようになる。
宗吉は、目が離せなかった。


一番怖ろしい 「鬼畜」(1/3)

「太陽にほえろ」という刑事ドラマの、何の回だったかはわかりません。
怖ろしい犯罪を犯すのは怖ろしい男とは限らないという話になります。
露口茂さん演じる山さんが言ったのかな?

石原裕次郎さんが演じるボスの、一番怖ろしい犯罪は、とても気の弱い男が犯した事件だった…。
そう言うんです。
この「鬼畜」という映画を見た時、この言葉が浮かびました。
タイトルの「鬼畜」という文字がもう、怖いです。

岩下志麻さんと小川真由美さんの対決が、すさまじいです。
78年の作品ですが、岩下志麻さんはこの後、「疑惑」で桃井かおりさんともバチバチに対決します。
極妻なんかより、怖いです。

昭和の家。
縁側があって、引き戸がある。
そこで楽しそうに遊ぶ小さな兄妹。
座敷には赤ん坊がいる。

だが母親は、イライラしている。
母親の名前は、菊代。
小川真由美さん。
やがて「利一!良子!出かけるよ!」と声をかけると、菊代は赤ん坊の庄二を背負って出ていく。

緑の小さな木がずらりと生い茂る道を通っていくと、男衾という駅に着く。
子供が「電車」「電車」「お母ちゃん、電車だよ」とはしゃぐが、菊代の硬い表情は崩れない。
4人は川越駅に到着する。

昭和の駅前。
電話ボックスが2つ並んだ駅を通ると、昔の面影を残す立派な瓦屋根といった日本家屋の商店がつらなる。
畳屋の前で、職人が畳みを縫っている。
人に道を聞いてやってきた先には、小さな間に合わせのプレハブ小屋が建っていて、「竹下印刷」という看板が出ていた。

利一が「だれんち?」と聞く。
「ここ、火事になったんだね」。
その言葉通り、印刷機が回っているプレハブ小屋の隣の土地には、炭のようになった柱が無残にも残っている。

着物姿で汗ばむ首筋を手ぬぐいでぬぐう菊代。
ラーメン屋で食事をした菊代は、竹下印刷へ向かった。
菊代を見てぎょっとした顔をしたのは、従業員の阿久津だった。
蟹江恵三さん。

「います?」
仕事をしていたお梅が、「どなた?」と聞く。
階段から主人の宗吉が、降りてくる。
緒形拳さん。

利一が「父ちゃん!」と言って抱きつく。
うろたえた宗吉は、菊代を表に連れ出した。
お梅の目が鋭くなる。

阿久津に「誰?」と聞くと阿久津は「さあ」と首をかしげる。
「とぼけてるね!さあって顔じゃなかったよ!」
外では、宗吉と菊代がもめていた。

「お金の都合がつかない?それでほっとくんですか!」
「明日。明日必ず出かけていくから。金の都合のつく当ても、あるんだ」
「今までほっといて、どうして急に当てができるのよ!いい加減なこと言わないでよ!」

子供が菊代に「帰ろうよ」と言う。
だが菊代は「どうすりゃいいのよ~!」と言って、泣き崩れた。
するとお梅が来て、腕組みをしながら「あんた、みっともないよ、ご近所に。うちの中入ってもらいな。泥棒猫じゃあるまいし、台所じゃなくたってかまわないだろ」と言って引っ込む。

キッとなった菊代は「利一、良子いらっしゃい」と言って、中に入る。
「よせよ。よせよ!」
宗吉が止める。
「はっきり話つけんのよ!」

家に入った菊代は「宗吉のお世話になっている菊代と申します」と言った。
「こちらのお世話になって7年になります」。
お梅はジロリとみると「鳥料理屋でだって?」と言った。
「ええ。女中してました」。

「歌がうまくて良い声だったってねえ?」
「ばかばかしい、何の話してんだ」と宗吉が気弱に笑って言おうとすると、「黙ってなよ!」とお梅が怒鳴る。
「人を7年もだまくらかしてて。ちゃんと聞かせてもらおうじゃないの!」

子供の母親は菊代と言って、千鳥という料理屋で女中をしていた時、宗吉の愛人となった。
宗吉の接待の手際の悪さを見ていられなくて、いろいろと世話を焼いたのがきっかけだった。
料理屋はちゃんとした料理屋だと言う菊代に、お梅は「どうだか」といかにもバカにしたように言う。
すると菊代は、先に手を出したのは宗吉だと、なれそめを語った。

菊代を押し倒した宗吉に菊代は「本気なの?真剣なの?私、誰ともこういうことしていないのよ」と言った。
「真剣、真剣。お前のこと考えてる」。
菊代が店をやめたのは、利一ができたからだった。
「どうしようかって相談したんだわ」。

相談された宗吉は「本当に!」と目を輝かせた。
「ここで働けないわぁ」。
「俺に、子供が」。

宗吉は目を輝かせ、「良いとも。生んでくれ!」と言った。
「俺、子供ほしかったんだ」。
喜びを隠せず、宗吉の体中が弾んでいた。

「そいじゃ、うちも持たせてくれんのよね?」
菊代が聞いた。
「良いとも、俺に、まかしてくれ!」

宗吉は確かにそう言ったのだ。
「子供が好きだ、できたなら生んでくれって。2番目の良子の時も庄(庄二)の時もそうでしたよ」。
でも菊代は、ぜいたくに囲われていたわけじゃない。
7年間、親子が食べる分しかもらってないと言う。

「それがこの頃、食べるのさえ苦労して」。
宗吉は、店が火事になり、大手の会社が機械を一斉に入れ、得意先もとられて一気に苦しくなったと言った。
「でもこうやって、ちゃんと所帯持ってるじゃないの。お腹すかせてる子供食わせるぐらいのもの、持ってこられないってことあるかしら!」

菊代の声は、悲鳴のようだった。
「子供生んでくれ、好きだって、一生面倒見るって言って。あれはみんな嘘だったのよね!」
お梅がいらいらして、うちわを使う音が響く。

「すまない。俺が、みんな悪かった」。
宗吉が頭を下げる。
「そんな簡単に謝んないでちょうだいよ!」
菊代が、ヒステリックに叫ぶ。

お梅がうちわを叩きつけ、立ち上がる。
宗吉を狂ったように、殴りつける。
3人の子供は、呆然と見ている。

「あんたなんか!あたしが一緒にならなかったら、ただの渡り歩きの職人だったんじゃないか!」
「ろくな給金取れなかったくせに!」
「この店だって、あたしが一緒になったから持てたんじゃないか!」
「よくもまあ、女を囲ったりできたもんだ!」

菊代のほうを向いたお梅は「7年間騙されてたのは、あたしの方なんだ!」と叫んだ。
「何だい!こんな女に大きな口叩かれることはないだろ!ええ!しっかりしなってばあ!」
宗吉がお梅に突き飛ばされて、菊代に当たる。

「こんな女って、どういうこと?」
菊代の目が吊り上がった。
「トルコにでも行って働けば、ピッタリだってこと!」
「奥さん!あたしは商売女じゃないよ!」

「どうかしらね、ほんとに、あんたの子かしら」。
「え?」と、宗吉が言う。
「3人とも、あんたの子かっての!」

「…何言うの」。
「うちの人に聞いてんのよ!」
宗吉は、呆然と黙っていた。

今度は目をむいたのは、菊代だった。
「あなた。何黙ってんのよ!ちゃんと言ってちょうだいよ、あんたの子が疑われてるのよ!」
「お、俺の子だよ…」。
宗吉はそう言って、弱々しく子供たちを指さした。

「へええ。月に三晩も泊まってないはずなのに、ほんとにあんたの子お?」
お梅の茶化すような口調に菊代が「それがどうしたのよ!」と怒鳴る。
「もうやめてくれよ!子供が聞いてるじゃないか!」

さすがに宗吉も、悲鳴を上げた。
良子が菊代の着物をつかんで、「おかあちゃん帰ろうよ」と言う。
「電車がないのよ、もう。歩いて帰れないでしょ」。
邪険な声だった。

「帰ろうよ」。
「帰れないのよ!わかんない子ね!」
菊代に怒鳴られて、良子が泣き始めた。

宗吉が「お腹すいてんじゃないのか」と言う。
「ラーメン食べたよ」と、利一が言う。
菊代が子供を凝視する。
その後、目が、左右に動く。

「わかりました…」。
「あんた、あたしを騙したんだ。こんな男にくっついたばっかりに、あたしはこんな目にあわされて」。
「今夜そのつもりじゃなかったけど、ちょうど良かった。奥さんにも聞いてもらえたし」。

「決まりをつけて、スカッとしようじゃありませんか!」
「スカッと…。スカッとって何?」と、宗吉が言うと菊代は「もう、たくさん!」と怒鳴る。
「責任とってもらいますからね。あたしはこの通り、子供3人抱えた働くにも身持ちつかないんだし」。
「貯金なんて1円もないんだし!そこんところを考えてくださいね!」

お梅が「うちだってね、火事からそっち、余分な金なんかありゃしないよ!」と言う。
宗吉に「あんた、人から借りてくるなり泥棒するなり片つけるんだね!」と言う。
「話つくまであたし、ここを動きませんからね」と菊代も言う。

「ああいいよ。その代わりね、うちは夫婦もんでね。蚊帳ひとつ貸したげられないよ!」
そう言うと、ちゃぶ台を片付け、布団を敷き始める。
放り出された布団は、菊代の膝の上に置かれる。

夜。
戸の向こうにいる菊代が、団扇で仰いでいる。
首をかく。
せわしない、パタパタという音が響く。

宗吉が寝床の中で、動く。
菊代のいるほうを見た時、首筋を抑えた。
お梅が宗吉を、にらんでいる。
その手には、カミソリ。

カミソリには、血がついている。
お梅は反対側に寝返りを打った。
戸の向こうから、くくく、ははははと笑い声がする

「あっははははは」。
ガラッと戸が開く。
「鬼畜生っ!」

菊代が怒鳴った。
「それでも人間か!」
「ちゃんとわかってんだよ」。

菊代の顔が、ゆがむ。
「何、あんたが頭来てんだか。言ってあげようか」。
いかにも意地悪そうな、残酷そうな表情が浮かんだ。
口調は楽しそうだった。

「あんた、自分じゃ生めなかった子が3人もできたんで、あったま来てんじゃないのぉ!」
「あーはははは」と、菊代がヒステリックに笑った。
そして「亭主は帰してやるよ!」と、野太い声で怒鳴った。

「大切に金庫にでも、しまっておきな!」
「その代わりこの子供たちは、この男の子供だからね」。
「このうちへ置いてくよっ!」

言った途端、菊代はものすごい勢いで出ていく。
思わず宗吉が跳ね起きる。
お梅が止めようとするが、振り切って宗吉は菊代を追う。

外に飛び出したが、菊代の姿はすでに見えない。
駅に走るが、終電が出た後の駅は明かりも消え、がらんとしている。
「子供。子供?」
ステテコ姿の宗吉は、無意識につぶやいていた。

呆然として戻ってくると、子供たちが疲れ切ったように眠っている。
利一、良子、庄二。
暗い家の中、お梅が手にライトを持ち、子供に当てる。

じっと、3人を見る。
宗吉を振り向く。
ライトに浮かびあがるお梅の形相。

「あんたの子だって?」
お梅の声は妙に静かだった。
「…似てないよ!」
そう言うと、お梅はライトを乱暴に置き、部屋に入った。

翌朝、宗吉は子供たちを連れて、男衾の家に行く。
蝉の声が、うるさいように響く。
良子が走って、縁側の戸を開ける。

「ママ、いないの」と言う。
「買い物行ってんじゃないのか」。
子供たちのおもちゃが、乱雑においてある。
利一と良子が、息を詰めて見つめている。

隣の主婦が預かってるものがあると、言いに来た。
近所の奥さんたちによると、今朝早く、菊代は運送屋を連れてきて、あっという間に荷物を運び出して、引っ越してしまったのだと言う。
菊代の実家は山形だが、もう誰もいないはずだし、どこに行ったのかわからない。
近所の人は、置いて行かれた子供が不憫だと気の毒がった。

利一が庄一に、オルゴールを持たせてやる。
庄二が宗吉の背中で、うれしそうな顔になる。
オルゴールが鳴る。

家まで戻った宗吉は窓から、働くお梅を見て中には入れなかった。
近所の小さな遊園地に行き、宗吉は利一と良子を小さな汽車ぽっぽに乗せる。
汗をぬぐう。

乗り物に乗せる。
父ちゃん、父ちゃんと、利一と良子はうれしそうに手を振る。
アイスキャンデーを買うと、宗吉はもういっぺん乗ってこいと言う。

「もう、良いよ。お金取られるよ」。
「おうちに帰ろうよ」。
宗吉はママは遠いところに行っちゃったと、説明した。

「3人で一緒に、父ちゃんの家で留守番だ」。
「ママ、帰って来るよね」と良子が言う。
「父ちゃんちの、おばさん、知ってるな?あのおばさんが、ご飯作ってくれたり、お洗濯してくれるから、みんな、良い子でおとなしくしていられるな?わかったな?」

レジャーランドの外に、鏡がある。
利一と良子が自分たちを映して、おもしろがる。
縦に長かったり、横に広がっていたりする姿を見て、2人は楽しそうに笑った。

「あんたの子だって?」
お梅の声が、よみがえった。
「似てないよ」。

家に戻った宗吉にお梅は「全くうまいこと、押しつけてったもんだね。他人様の子を3人も」と言った。
「お、俺の子だよ」。
お梅は鼻で笑って「あんたは全く人が良いねえ。今時、金で買われるような女が、1人の男で満足できると思ってんの?」と言う。
「あの女は、あんたより役者が上だわよ」。

「昨夜、3人連れて乗り込んできた時から、ちゃあんと、筋書きはできてたんだよ」。
「でなくて、こんな手はずができるもんか」。
そう言うと宗吉に向かって、「言っとくけどね、あたしは他人が生んだ子の面倒なんて金輪際見ませんからね。あんた勝手におしよ」と言った。

その時、庄二がおしっこをした。
宗吉はあわてて床を吹き、おむつを替える。
その姿を見たお梅は「お似合いだよ。写真でも撮っといたらどう?」と嘲笑った。


立派なホラーだわ 「デビルマン」6話

アニメの「デビルマン」を見ています。
子供のころ見ていた、アニメのデビルマンですね。
街並みとか、家とか、公害とか、70年代らしさも楽しめます。

6話に「ロクフェルの首」という話があります。
これ、怖かったんですよ~。
デビルマンへの刺客で、妖獣ロクフェルがやってくる。

牧村博士は考古学者で、古代の美女の顔を復元する作業にかかっている。
頭蓋骨に、蝋で肉付けしていくのだと言う。
取材記者の中に、見慣れない背の高い男がいる。

だが取材が終わった時、その男はいなくなっている。
いつもの記者に聞くと、いつものメンバーだけだと言う。
牧村博士は、奇妙な思いにとらわれる。

この後、助手と電話をしている牧村博士の背後から、誰かが近づく。
肩をポンと叩かれ、驚く博士だが、それは娘の美樹だった。
このあたりから何だか、怖い。

古代の頭蓋骨から顔を復元するのに最初は博士の指示通り、助手が髪を作った。
時代的に桃割れだろうと言われ、日本髪が頭蓋骨の上に乗る。
「目を忘れたな」。
助手はそう言うと、目玉を取りに行く。

ボーンボーン。
12時を知らせる時計の音。
開いた窓から風邪が入り、カーテンが翻る。

部屋の壁に、影が映る。
外にいる犬たちが怯えている。
頭蓋骨のポッカリ空いた目に、眼球が出現し、目が開く。
首が伸び、蝋の鍋に入っていく。

目を持ってきた助手は、頭蓋骨がないことに気が付く。
「おかしいな」。
そういった助手の背後でドアが閉まる。

助手は首を探し始める。
蝋にまみれた手が伸びて、スイッチを切る。
暗闇。

助手が暗闇の中、冷や汗をかいてくる、。
ドアが開く。
入ってきたのは、猫だった。

怯えていた助手は「うるさい」と猫に当たって追い出す。
ぴた、ぴた。
廊下を蝋をたらしながら、何かの影が近づいてくる。

ここ、音楽も怖いんです。
腕を伸ばしたまま、動けない助手。
その背後に立ったものは、湯気が出ている鍋を持っている。
蝋を溶かした鍋。

子供はもう、ここで怖くてたまらないですよ。
今見てもこれ、怖いと思います。
「化け物ーっ!」
助手が悲鳴をあげる。

壁に影が映る。
影が持っている鍋を、助手に向かって傾ける。
悲鳴。

車で移動中の牧村博士に、首が逃げましたという電話が入る。
電話をしている助手さん、蝋で真っ白。
がくり、と倒れて、電話が切れる。

この時代、牧村博士の車にはもう、電話があるんです。
それもすごいですね。
牧村家って、この時代の洋館みたいな感じです。

アニメのデビルマン、根源に訴えかけるような怖いシーンがあります。
女性シリーズだと、鏡に女性が映ってそれを見ると事故を起こすとか。
夢に怖くて綺麗な女性が出て来る夢を、流星を観察していたみんなが見ているとか。
うまいところを突いてくるな、って思います。


ご気分、よろしいですか 「必殺仕事人V 激闘編」第28話

第28話、「何でも屋の加代、求婚される」。


夏も近いある日、風鈴を売って歩く加代は、様子がおかしい男に行く手を遮られる。
子犬を抱いたまだ少年の面影が残るような若い男が、男から加代をかばってくれる。
騒動の最中、見回りの主水に行き当たった為、男を追い払うことが出来た。
「そこまで飲むこたあ、ねえだろ」と主水が言う程、男は酔っているように見えた。

野良の子犬を抱いた若い男は真吉といって、加代を食事に誘って、車を引いてくれた。
その後があると思っていた真吉だが、加代は男を引っぱたいて車を引いて去る。
加代の様子に真吉は、本気で惹かれてしまったようだった。

主水は死体が見つかったと呼ばれたが、その死体は先ほど加代ともめた男だった。
小間物問屋の紅屋の弥七で、アヘン中毒を疑った主水は医師の矢沢玄斉に診てもらう。
だが、玄斉はアヘン中毒ではないと言う。

加代に本気になった真吉は、竜のところで組紐を買って加代の元へ行こうとしていた。
昨日、弥七が真吉ともめたのを見ていた主水は真吉を呼び止めるが、そこに和泉堂から迎えが来る。
宿などないと言った真吉だが、実は紙問屋の和泉堂の若旦那だったのだ。

真吉を送って行った主水は、昨日、紅屋の主人ともめていたことを話し、それを聞いた母親のお甲は顔色を帰る。
紅屋と和泉堂は知り合いだったのだ。
だが、主人の甚兵衛は主水にもっと話を聞こうと思ったお甲をたしなめる。

真吉が加代を訪ねた時、加代は政と一緒にいた。
政に食事はしていかないかと聞くが、政は出て行く。
真吉が食べると言って、加代に組紐を渡すが、加代は相手にしない。
しかし、真吉が抱いている子犬が食べるのを見て、思わず加代も微笑んでしまう。

加代は風鈴売りに出た途中、神社の境内で2人の男に脅される。
体なら諦めるが命は助けてと口走る加代は、人を見つけて逃げる。
助けを求めた男は甚兵衛で、2人の男は番頭の伊十と、手代の丈八だった。
甚兵衛は加代に名乗ると、真吉に近寄らないように忠告する。

真吉とあわよくば一緒になって、和泉堂に入り込む魂胆か、と甚兵衛は言った。
加代は、付きまとっているのは真吉の方だと言った。
だが伊十に顔に匕首の刃を突きつけられ、もう真吉には会わないと叫ぶ。
それを聞いた甚兵衛は、お前は真吉が好きになりそうな女だと言う。

さらに意外なことに金を出して、真吉と付き合うのは勝手だが、和泉堂の嫁にはできない。
この金で一緒に江戸を出ろと言った。
大事な息子ではなかったのか、と加代が言うと、いいから江戸を出ろと言って3人は引き上げていく。
金を見つめていぶかしげな加代が振り返ると、加代の車を壱が引いてやってくる。

「壱!」
「驚いたね、無理やりせがれを駆け落ちさせようなんて、変わった親だよ」。
「あんた、見てたの」。
「うん。端っから」。

「ばか!どうして助けてくれないのよ!この薄情もん!」
「ほれ、姐さんの綺麗な顔を傷つけちゃいけないと思ってよ」。
「何て男なんだい!いいよ、いいよ。命は取り留めたし、大金は入ったし」。
加代はじっと金を見つめる。

壱は車から離れながら、「じゃあ、少しまわしてくれよ」と手を出す。
加代は壱の手を叩いて、「ふん!どいて!」と車に戻る。
「そんなに喜んでいいのかよ。おめえさん、駆け落ちしなきゃいけねんだよ。江戸に居たら、殺されちまうんだよ」。
ハッとした加代は「どうしよう…」と言う。

その頃、主水は和泉堂について調べていた。
和泉堂の先代の主人で、お甲の夫であり、真吉の父は数年前、急死していた。
養生所の玄斉によって心臓発作と診断されていたが、なぜ玄斉が出てくるのか、主水は疑問に思う。

後家になったお甲と番頭だった甚兵衛が、一緒になったのだ。
だから加代を利用して真吉を追い払えば、身代は真吉に譲らなくていいのだ。
主水は、加代にそれを告げた。

和泉堂では甚兵衛がお甲に、加代はどうしようもない女で、金をやって追い払ったから安心していいと言った。
本当は真吉を心配してくれていたのだ、とお甲は甚兵衛に礼を言う。
その時、和泉堂に女が駆け込んできて、アヘンをまけてくれと頼み込む。
番頭はとぼけるが、女はお前たちがアヘンの売人なのは知っていると言って2部差し出す。

甚兵衛が出て来て、アヘンは1両と言う。
どんどん値を吊り上げて…と女が言い、店先でもめ出した。
アヘンをくれないなら、出るところに出てやると女は言って飛び出す。
夜道で女は玄斉にいきなり、刺される。

追ってきた伊十たちを見て、不用意な事態を玄斉は責める。
だが、奥に見えた壱を見て逃げ出す。
壱はとっさに伊十たちを追い、倒れた女のところに戻って来る。
女は完全に息絶えていた。

翌日、甚兵衛は玄斉の養生所を訪ね、夕べのことを報告する。
玄斉はアヘンを製造し、甚兵衛がそれを流していたのだ。
その頃、お甲が加代を訪ねて来た。
駆け落ちもそんなに簡単にはできない、と加代は言う。

加代の言葉に驚いたお甲は、加代と話をする。
甚兵衛に駆け落ちを勧められたと知ったお甲は、加代に気にしないように言った。
ちょうどその時、真吉がやってきた。

母親と話すのを拒否する真吉に加代は、「聞きなさい」と諭す。
年上の貧乏ったしい女と付き合うな、と言うんだろうと言われ、加代は顔を伏せた。
立ち上がったお甲に真吉は、本気で加代が好きだと言う。
「わかったら帰って、あんたの亭主にも聞かせてやれよ」と真吉が言った時だった。

「こら!母親に対して、何て口の利き方すんのよ!」
真吉は飛び出して行ってしまった。
お甲は言った。
「真吉は本当は心の優しい子なんです。あんな風になったのは、みんな私のせいなんです」。

お甲は5年前、主人にしなれて、今の夫と一緒になったと加代に話す。
それが真吉には気に入らなかったのだろう、と。
ずっと後家を通せばよかったのかもしれない。

「奥様、そんなことおっしゃらないで、元気出してくださいよ。そのうち、あの子もわかってくれますよ」。
加代の思いやり深い言葉に、お甲は「ありがとう」と言った。
そして、「加代さん、お願いがあります」と言う。

真吉が加代が好きなのを知ったお甲は、加代さえ良ければ一緒になってやってくれと頼む。
和泉堂の嫁として、お甲は加代を迎えたいと言う。
それを聞いた加代は、その夜、屋台で飲んでいる真吉を探し出した。

お甲だって女性だ、女性の幸せを求めて亭主を求めたって悪い事はないじゃないか、と加代は言う。
先代の主人にしなれて、意気消沈していたお甲に甚兵衛が近づいた。
仏壇の前でお甲が押し倒されるのを、真吉は庭から見ていたのだった。

翌朝、お甲は加代に会ったことを甚兵衛に話した。
真吉は和泉堂の跡取り、加代と一緒にさせてこの店を継がせるとお甲はきっぱり言い渡した。
すると、甚兵衛はもうお甲も真吉もいらないと豹変する。

5年前から、2人にはいつ消えてもらおうか考えていた。
世間ももう、疑わないだろう。
そう言うと、甚兵衛はお甲の首を絞めた。

加代は酔っ払った真吉を担ぎながら歩くと、真吉は加代に一緒になってほしいと頼む。
「そうはいかないのよ…、お前さん」。
加代が呼ぶと、壱が現れる。
壱の背中に加代が回る。

「あたしのいい人」。
真吉が息を呑む。
「俺の女に、手を出すんじゃねえ」。

「こんの野郎」と壱に飛びかかった真吉だが、壱に殴り飛ばされてしまう。
「わかったかい?つきまとうんじゃないよ」。
そう言って子犬を真吉に返した加代の手を、壱が引いて去っていく。

倒れている真吉を見つけた丈八が、お甲が倒れたと知らせに走ってくる。
真吉は急いで、和泉堂へ向かう。
それを見た壱と加代が、出てくる。

「これでいいのさ…」。
加代の前に、壱が手を出す。
「はい、ご苦労さん」と加代が財布から金を出して、手に乗せる。
「ほい」と壱が首をかしげる。

だが、壱は真吉がいなくなった方を見て、動かない。
振り返った加代に「俺、ちょっと気になるわ。行ってくらあ」と真吉の後を追う。
丈八に連れられた真吉は、家に帰る道が違うと立ち止まった。

「お前の帰る家は、もうねえんだ」という声がして、甚兵衛が現れる。
「それはどういう意味でえ」。
「お甲はもう、いねえよ」。

「あの世へ行っちまった」。
「まさか。お前が…」。
「5年前も、お前のおとっつあんをわしが…」。

甚兵衛は5年前の主人殺しも告白する。
「てめえ!」
子犬を放り出した真吉は、「殺してやる」と飛び掛る。
もめている足元で、子犬が吠える。

だが真吉は甚兵衛に刺されてしまう。
子犬がかなしそうな声をあげる。
壱が走ってくる。
誰もいないと思ったが、子犬が鳴く声が聞こえる。

壱が子犬に気づき、抱き上げた時、「いてえよ」と這っている真吉に気づく。
「しっかりしろ!」と壱が駆け寄る。
真吉は「殺してやる、殺してやる」と壱の胸倉を懸命につかむ。

「死ぬんじゃねえ、この野郎!」と壱が抱きかかえる。
しかし、真吉の手は力なく、垂れ下がってしまった。
「ついてねえなあ、おい…」。
壱が顔をしかめる。

翌日、加代は真吉が抱いていた子犬に、貰った組紐をかけてやっていた。
「坊や、悪い気はしなかったよ。あたしだって女だからね」。
「掟どおり、闇の会通さなきゃならねえぜ」と主水が言う。

「あたしだってね、甚兵衛から貰ったお金、ネコババする気ないよ」。
「金にゃあ、縁がねえ女だなあ」。
闇の会が開かれる。

相手は、玄斉、甚兵衛、番頭・伊十、手代・丈八。
仕事料は20両。
依頼人の面通しには、組紐をかんでいる子犬がいた。
驚く闇の会の仕事人たちを前に、「お引き受けします」と加代が言う。

加代は仕事人たちに仕事料を配って歩く。
帰り道、路地から手が差し出される。
壱を見た加代は「こんにちは、いいお天気ですねえ」と言って小走りに去って行こうとする。

「おい、おい。そりゃ、ねえだろ」。
壱は加代を路地に引っ張る。
「死に水取ったのは、俺なんだよ」。
そう言って懐から手を出した壱に、加代は金を渡すと「あーあ、またからっけつだ」と言った。

和泉堂で、玄斉が甚兵衛とアヘンの売り上げを分けていた。
伊十と丈八に見送られて、玄斉が帰って行く。
向かいの屋根の上に、竜がいる。

玄斉が帰り、伊十が中に入った時、竜が狙いを定めて紐を投げ、丈八の首をとらえる。
丈八が引きずられていくのを、入りかけた伊十が見る。
政が走ってくる。

丈八が政の前を、竜に引っ張られていく。
走りながら、政が手槍を組む。
丈八を追って外に出た伊十が振り向くと、政がジャンプする。

一撃で伊十の胸元に、手槍を叩き込む。
伊十が倒れる。
向かいの壁では、宙吊りになった丈八の首ががくりと下がる。

和泉堂では上機嫌の甚兵衛が、廊下を歩き、厠に入る。
壱が廊下を歩き、手水に手を浸す。
厠の窓の外に立ち、「ご気分、よろしいですか」と聞く。
「…お前は。誰だ」。

「ちょいと用事がありましてね。町の噂」。
甚兵衛は逃げる。
それを見た壱が戸の前に走る。
戸を開けた甚兵衛の前に、手をかざした壱が立っている。

正面から甚兵衛の首をつかむ。
グキッという音がする。
壱はそのまま、甚兵衛を厠に突き飛ばす。

夜道を歩く玄斉を、「先生ー!ちょっと来てください!」と捕まえる。
「夜間の往診は…」とあわてる玄斉を、加代は引っ張っていく。
町外れの塀で、男がうずくまっていた。
加代が「診てやってください」と叫ぶ。

しかたなく玄斉が近寄る。
すると、男ではなく、かかしだった。
驚く玄斉に「アヘンが切れて苦しんでるんだ。恵んでやんなよ、玄斉先生」という声が響く。

思わず、玄斉が刀に手をやる。
側にある、横倒しになっている大きな樽から、主水が出てくる。
「お前はいつかの町方の…」。
斬りかかってくる玄斉を抑え、主水が腹を刺す。

仕事を終えて戻った主水を、りつが迎える。
風呂にするか、食事にするかと、聞かれた主水は食事にした。
隣の部屋では、せんが寝ている。

ご飯を茶碗からかき込む主水に、りつが「あなた、もっとゆっくり」と言う。
すると主水は、ゆっくりゆっくり食べ始める。
突然、せんが「ムコ殿!さっさと召し上がれ!何時だと思ってらっしゃるんですか!」とうるさそうに布団をかぶる。

しかたなく、再び茶碗からご飯をかき込みだす主水の横で、りつがうとうと寝始める。
主水がりつをじっと見つめる。
りつの首ががくり、と下がり、主水は1人、急いでご飯をかき込む。



久々の激闘編です。
加代が若い男性に、求婚されるお話。
結構、いや、この真吉、すごく本気。
加代ちゃん、何度か若い男性に求愛されますよね。

あのたくましさが、いいんでしょうか。
綺麗だし。
根性も悪い、性悪じゃないし。

順之助も加代がしっかり、担当してましたよね。
一人ぼっちで生きてきた仕事人らしく、真吉のお甲に対する態度をたしなめる。
加代のこういうところが、好き。

お甲は加代の本質を見抜いて、加代を正式に嫁にすると言い出す。
ところが、お甲も、真吉も殺されてしまう。
主水じゃないけど、加代はつくづく、玉の輿に乗りかけては縁がなくなるんですね。

真吉は当時、人気だった若手タレントの新田純一さん。
友達がファンでした。
最期がすごくかわいそうで、無念そうで。
いつも子犬を抱いているところから、優しい子なんだなとわかります。

この連れている野良犬ちゃんが、すごーくかわいい。
ちゃんと吠えて、その後、寂しそうに立ち尽くして演技してました。
あのぐらいの子犬があんな風に立ち尽くしていると、かわいそうでたまらない。

悪党に蹴っ飛ばされたりしないかと、ドキドキしました。
加代にプレゼントの組紐をかけられて、最後に頼み人になってました。
それだけしてくれるんだから、あの子、加代が手伝って、どこかに引き取られたんだと思ってます。

政と竜は、ほとんど関わりません。
それでも政は、加代が魚を焼くのを手伝って、それで加代がご飯食べていけばなんて言ってます。
この2人は、お姉さんと弟みたいなんでしょうか。

それで今回も加代と一緒になって出てくるのが、壱。
順ちゃんより、加代といいコンビな気がします。
連れ込まれた加代が助けてくれなかったと怒ってますが、いざという時は出て来てくれたはず。
加代の男の振りをして、真吉を追い払う時に大人の余裕を感じさせます。

真吉を追い払った後、加代以上にしっかりしていて、ちゃんと報酬を要求してますけど。
しかし、先日、和泉堂絡みで女が殺されたのを見ているし、仕事人の勘が働くのか、真吉に不穏なものを感じて戻っていく。
「死ぬんじゃねえ、この野郎!」というのが、壱らしい激励。

「ついてねえなあ」は、自分が関わった青年を助けられなかった、やりきれなさから出た言葉だと思います。
甚兵衛に話しかけるかる~い感じが皮肉に響く、「ご気分、よろしいですか」。
お金で動いているようでいて、青年を殺した甚兵衛に対して、怒りが感じられました。
分け前とかは口実で、きっと真吉の恨みを晴らしてやりたかったんですよね。

玄斉を刺した後、家でお腹空いたとご飯食べる主水って、考えたらすごい。
せんに叱られて、ものすごくゆっくりになるところがおかしい。
怒られてまた急いで、りつが見てなくて、何だかヤケになって食べているのがまた、おかしい。
中村家は、主水が血なまぐさい世界から戻ってくるのに必要なんですね。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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